シュベン
「嘘だろ……間に合わなかったのか」
「ニノさんも今はそっとしておいてあげて下さい…私たちを警戒してるような気もしますし」
「……了解しました。とりあえずツバキさんは、ツバメさんと一緒に私達と合流してください」
「了解です。それでは切るのです」
耳元のインカムを切断し、空を見上げる。
結局守れなかった……そんな言葉が頭に浮かぶ。イヨも、最後がよかったものの危険にさらしたことが真実だ。そして、今回は結果的に多くの尊い命が失われた。そう思うと、悔しさとともに自分を嫌悪したくなる。
「……隊長」
「分かってる。こうしちゃいられないな」
これから自分達がすべき事はもう一つしかない。対象が死亡した以上、組織の仕事は達成された。ツバメとツバキが集合したら、そう伝えよう。
「どうか自分を責めないで下さい。隊長は最善を尽くしました」
「……そうだな」
「いや、まだ終わってないよ」
もう何度目になるだろうか…唐突に声が響くのは……
「……お前は」
「どうもこんにちは。情報班隊長ハクリ君。僕は特攻班隊長のシュベン。お見知りおきを」
「……」
「アオイさんもお久しぶりです。元気にしてましたか?」
「アオイさんこいつは」
「疾走の死霊術師シュベン……」
ハクリとアオイの目の前に現れた白髪の男。余裕を顕にした顔でこちらを見つめている。
「特攻班隊長さんが今更何の用だよ。もう任務は終わったんだ。さっさと退いたらどうだ?」
「まぁ待ちたまえ。僕だって君たちに喧嘩を売りに来たわけじゃないんだ。ちょっとした情報提供をね」
「情報提供?」
「情報もなにもすべて終わりました。あなた達が余計に手を下してくれたおかげでですが」
「んーまぁそうなんだけどね。実は任務はまだ終わってないみたいなんだよ」
「……つまりまだ対象がいるというわけか?」
「そういう事。まぁこっちも対象を発見出来ていないからまた動けないんだけどね。君達もおあいこだろ?」
「わざわざその確認だけしに来たって言いたいのか?」
「そういう事」
不敵な笑みでそう答えるシュベン。いい加減腹が立ってきた。
「ねぇよ。お前がわざわざ喧嘩売りに来てくれたおかげでこっちはイライラしてんだ。さっさと帰れ」
「おーひどいひどい!せっかく教えてあげたのに……まぁいいや。そっちがそう言うなら今回だけは帰ってやんよ……でもなーー」
こちらに背を向けたシュベンは、顔だけをこちらに向けーー
「あまり調子に乗るなよクズが」
一瞬で悪寒が背中に走る。足が震えるのをなんとか抑えることで精一杯になった。そんなハクリを気にする様子もなく、シュベンは去っていく。
「……なんなんだあいつは」
「関わってはいけません。絶対に」
アオイの口数の少なさが意味する真実を、ハクリは理解出来なかった……そして、ハクリはこれから知る事になる




