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If.七種目の召喚者(イレギュラー)  作者: 石原レノ
始まりNew World
27/313

ユリの気持ち

投稿遅れて申し訳ありません!

「………」

ベッドに寝そべり、天井をじっと見つめるハクリ。

『……もう少し…待って』

どうもユリの言葉に引っかかるハクリ。自室に戻ってからはずっとその事を考えていた。

全員が賛同し、チームは現実味を帯びてきた。それは自身の為かハクリの為かは分からないがハクリが大七種として、今置かれている現状を改善する為の第一歩は歩まれようとしていた。

そこでユリである。

あの言葉を聞いてからどうも詰まった感じ。

「……行ってみるか」

一か八かユリの元へ行って聞いてくることにした。

多分ユリには何かある。

そう思ったからだ。

「…………」

魔唱機と呼ばれるこの世界ならではの電話。ハクリはまだ魔力とやらのコントロールが出来ないため、魔力充電式のものを使う。

【今は】出来ないだけでいつかは出来る……と、信じている。

「…………ユリか?俺だよ俺」

「その詐欺師みたいな口調止めなさいよ。びっくりしちゃうじゃない……どうかした?」

自然とオレオレ詐欺口調になってしまったハクリ。気を取り直して話を続ける。

「えっと……今から会えるか?」

「なっ……それって―」

何故か電話の向こうで戸惑うような応答をするユリに、ハクリは気に止めることもなかった。

「……分かった。世界樹の近くで待ってるから」

「了解」

端的に応えるとユリは魔唱機の切断を切る。

「……なんなのよいきなり」

何故か顔が暑くなったユリは、頭を横にふり、正気に戻る。そして、大急ぎで支度を始めた。


「うひゃー……でっけぇな」

世界樹。ハクリのいた世界のユグドラシルと呼ばれるもの。

ハクリがヤヨイから受けた説明では、この木に本物の神様が(まつ)られてあるのだとか。

世界樹の辺りは公園のようになっており、噴水やらベンチやらがあちこちにある、リア充のたまり場にはもってこいの場所だ。

若干の苛立ちを覚えながらユリを探していると、案外すぐに見つけることが出来た。

「すまん……待った?」

「……別に」

恥ずかしいのか、ユリはハクリと顔を合わせようとしない。

ユリの格好はいつも見る制服ではなかった。学校がある時以外は私服活動が許されるこの学園。ユリは私服だった。

いつも制服姿を見ているせいか、なかなか可愛らしい。

「隣……いいか?」

ユリはベンチに座っていた。立ち話もなんだと思い、そう問いかけると、ユリは無言のまま頭を縦に振った。

「…………」

唐突に訪れた気まずい空気。呼び出したハクリが黙ってしまい、ユリも話題をだそうに出せない。

「……俺とルリの為に迷惑かけてすまん」

「いいのよ…私達には断る事だって出来たんだから…て、まだ私は決めてなかったわね」

「何も無理矢理協力してくれとは言わない。あくまでユリの思ったようにしてくれると俺も気が軽い」

「そう……よね」

そして再び訪れた沈黙。

ハクリは無表情のまま空を見上げる。

ハクリのいた世界で当たり前だった空の青は、こっちの世界でも当たり前で面白味がない。

眠気に従いあくびをしているとユリが口を開いた。

「私ね、妹がいるの」

情けなく開いた口を即座に閉じ、ユリの方に目線を向ける。

ユリは悲しそうな表情で話を続けた。

「小さい頃からドジで私がいないと全然ダメな妹だったの。でも、学園に入ると立場は打って変わったわ。あの子は成績優秀で、私は落ちに落ちた『欠陥クラス』。私は外見では笑っていても、内心では恨みさえしたわ」

ユリの言葉にハクリは何も返さずにいた。

ハクリが体験した事と似たような事。ここで口を挟まれるのが一番腹立たしい事だと重々理解しているハクリは口を開くこともなく黙って聞いている。

「それでこの話よ。私は今まで上位とはいかなくても並のチームに入られるよう頑張ってきたつもりだったのに……。見事に努力の無駄だと言わんばかりのいい話が転がってきた……何の為に頑張ってきたのか…私はどうしたいのか悩んでいるうちに他の皆はすぐに決断を出しちゃって……私は戸惑った」

「…………」

「妹に負けていても姉としての誇りは捨てられない。私は自種族のチームに入るんだって思ってきた……。でも……でも―」

涙を浮かべ、悔し気な表情をとるユリ。

「分からないのよ……私は姉として妹の誇れる存在でありたいのに…今の私はハクリのチームに入る事を望んでいる……。楽な道を選んじゃってるの……最低だよね…私はあんたを自分の未来のための道具のように一瞬でも思っちゃったのよ……」

「それは違うだろ……」

今まで黙ったままのハクリが唐突に口を挟む。ユリは「え?」と意表をつかれたような顔をする。

「人を利用するっていうのは誰だってする事だろ?子供が社会に出るために親に手伝ってもらうのだって十分子供が親を利用した事になる。ユリは自分の未来のために俺を道具のように思ったと言ったけど、俺からしたら当然だと思うな。俺だって自分の為にユリやクラスの皆に手伝ってもらってるんだ、それくらい当然の事だろ?あと―」

ハクリはユリの前に立ち、優しい笑みでこう言った。

「ユリは十分かっこいいと思うぞ?それだけ頑張って努力して、周りに自慢しない人ってのはそれだけで誇れるものなんだぜ?」

ハクリの言葉を聞くと目尻に留まっていた涙が頬を伝っていく。

こんな事を言われたのは初めてだ。いくら努力しても、頑張っても、周りは一切認めてくれなかった。『妹は―』『姉のくせに―』そんな言葉を幾度となく聞かされ、その度に自分を苦しめることを強めた。

妹の前では姉らしく振舞っていても、周りの目は妹の方。努力なんて無駄だと思ってきた矢先、種族を捨ててのチーム結成の話。

本当は分かってた。欠陥種である以上並以下のチームにすら入れない事なんて……。就職なんて夢のまた夢だなんて……。それでも姉としての誇りを貫いてきたのに…。あの話を聞いた時何故か心が揺れた。そして思った……『私は人を利用しようとしている』と。

でもそれも思い過ぎだったのだろうか。目の前の男はそんな事ないと優しく手を差し伸べてくれている。人が人を頼る事が悪いはずじゃない……そう言いかけるように……いや、現にそう言ってくれている。

ユリの手は自然とハクリの差し伸べている手へと伸びた。

手が触れ合うとハクリは優しく握ってくれる。満面の笑みでユリにこう言った。

「これから頼らせてもらうぞ、ユリ」

「…………望むところよ…私だってたっくさん頼らせてもらうんだから…」

世界樹が見守る中、ハクリとユリは共に助け合う事を誓った。

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