ハクリとリリィと抱き枕
「うわぁ……またババ引いちゃった……」
「それ口に出さない方が良いよルリ。僕は構わないけど他の皆にバレるし」
「なるほど。ルリがババを持っているわけね」
「私はそんなヘマはしねぇですよ…」
「ふふ。皆さん楽しそうで何よりです」
狭い空間で周りにこうも女の子ばかりいると、教室とは違って男であるハクリはとても気まずいものである。
「…………あ―」
「マスターババ引きましたね!」
ポーカーフェイスでやり過ごそうとしたハクリの横でルリがそれを台無しにするように大声を上げる。
「……そういうのは言わないものなんだよ…」
「へ?そうなんですか?」
どうやら素で分かっていなかったらしい。たまにルリにはこういう光景が見られる。
「ははっ。良いじゃないかハクリ君。そこは大人の対応ってやつ…………あれ?」
ミルが大人の対応っぽく語りながらハクリの手札を引く。ハクリの表情は悪代官の様にニヤぁっとしていた。
……お察しの通り。
「見たかミル!これがおれの必殺技だ!」
インチキやイカサマといったことが得意なハクリ。この手の仕組みなどは容易いものである。
「そ、そんなぁ………」
顔を青くしてうなだれるミル。最終的結果を言うと、結局ハクリが最下位で終わったのであった。
その後―
「ふわぁ…眠いですね」
明日は学校は休み。少女達とハクリは、夜遅くまでゲームやトークに浸っていた。ルリがあくび混じりに言ったことで、周りはやっと今の時間帯を把握した。
「そろそろ寝ない?私眠くなっちゃった」
ユリがぐっと体を伸ばす。
「そろそろ寝ましょうか…ってリリィさん、ミルさん…ここで寝たら風邪をひきますよ」
2人寄り添うようにスヤスヤと寝息を立てるリリィとミルを軽くゆするシノア。しかし2人はむにゃむにゃと寝言を言うだけで、一向に起きようとはしない。
「2人とも寝室に連れて行っちゃいましょう」
「……ハクリ君。二人を運ぶのを手伝ってくれませんか?」
寝支度をしに行ったルリを手伝おうとユリが向かった。ハクリとシノアは熟睡しているミルとリリィを運ぶことにした。
「……よいしょっと……軽いな」
「…………」
スヤスヤと寝息を立てるリリィを抱えたハクリをシノアはじーっと見つめている。
「……何か?」
「ハクリ君は魔法は使えないのですか?」
シノアの問いかけにハクリは首を傾げる。ハクリ自身自分にそういう能力があるのか無いのかは理解しているのだが、何故かそれを肯定出来ずにいた。
『まだ自分の力が目を覚ましていないだけ』『この世界に体が慣れていないだけ』と言い聞かせているのである。
「…………今は使えない……かな?」
ハクリの言葉にシノアはハッとした顔であたふたとする。
「ご、ごめんなさい!ハクリ君の事も考えずに軽率なことを…」
「いやいいよ。俺は気にしてないからさ…さ、運ぼう」
何故シノアがこのタイミングであたふたしたかというのは言うまでもなく、ハクリを含めるシノア、ミル、ルリ、リリィ、ユリ、ヒノンがいるクラスは周りとはどこか劣っている人材だけが属するクラス。『欠陥クラス』だからだ。互いにその点には触れずに過ごす事は、まだこの世界に来て間もないハクリにでさえたまに気分が悪いものである。その現状を招いたのは各種族の長に属する人物『第六種』と呼ばれる最高機関が決めた事がきっかけだ。
シノアの姉でありハクリのクラスの担任で、かつ第六種であるヤヨイ・イーリアはハクリを第六種に招き入れ、この仕組みを取り消そうとしている。
……ここまで説明口調になったが、結論を述べると―
「ちょ、リリィ苦しいって!」
「抱き枕〜」
…………すごい力で首を締め付けられるハクリ。小柄とは釣り合わない力が凄まじいギャップを生む。
「し、シノアさん!こいつなんかめちゃくちゃ力強いんですけど!」
「リリィさんは小人族ですから。小柄の中に凄まじい力を秘めてるんですよ」
「もうちょっと焦って!息が!息ができない!」
リリィの凄まじい力で首を締め付けられているせいで、ハクリは呼吸が出来ずにいた。直立したまま苦しそうな顔をするハクリを見てもシノアは焦ることもせずにこう言った。
「大丈夫ですよ。ここをこうすれば……」
と、余裕気な顔でリリィの脇をこちょこちょとくすぐる。
当たり前の様にリリィは体をゴソゴソと動かしながら回避行動をとろうとする。そこで
「……あ」
スルッとハクリの首を絞めていた手が離された。約数十秒ぶりの酸素を一気に吸ったハクリは顔を青くしていた。
「っはぁ…はぁ……真面目に三途の川が見えたぞ」
「ふふっ。リリィさんは体をくすぐられると力が抜けるそうなので、困ったときはそうしてください」
「いや……遠慮しとく…」
シノアは気にせずに言ったのだろうけど、ハクリはこれでも男である。
チラッとリリィを見る。
子供じみた容姿は発育もまだ未発達だ。こんな子供体型の女の子に手を出そうものなら犯罪者になりかねない。
シノアは「そうですか……」と言いながら寝室へミルを運ぼうと、手を差し伸べた……と思っていたが……
「我に風の加護をもたらせ…」
言葉とともに手のひらをミルへと向けるシノア。それと同時にふわぁっとミルの体が宙に浮く。
生で魔法を初めて見たせいで、ハクリはじーっとその光景を見つめていた。
「さ、行きましょうか」
人を2人運ぶだけでこんなに疲れたのは初めてだ。
そう思ったハクリだった。
そして、自分は魔法が使えると未だ自分に信じ込ませているのだった。




