If 〜もしもの話〜イヨと誰かの新婚生活その4
「♪」
上機嫌なイヨは、俺が射的でとったぬいぐるみを抱きかかえながら鼻歌を歌っている。こんなもので機嫌が良くなるのだから、本人は成人と言えど、周りからしたらまだ子どもである。
「とりあえずメシにしようぜ。腹減った」
「そうですね!イヨは焼そばが食べたいです!」
「へいへい。買ってくるからちょっと待ってな」
上機嫌なイヨをベンチに座らせ、俺は一人焼きそばの出店へと向かって行った。
イヨと出会ったのはそんなに珍しくもない出会い方だった。まぁ、そんなに普通でもないけど……
「おばちゃん焼きそば一つ」
「ありがとうございます!少々お待ちください」
手馴れた様子で焼きそばを作る店のおばちゃん。ソースのいい香りが鼻腔を撫で、空腹感が限界に達そうとしている。
「商品になります。ありがとうございました!」
「はいよー」
イヨと会って、俺は多くを失った。けど、イヨを選んだ事を後悔していない。幸せの一言では言い表せないくらいだ。毎日毎日同じようなやりとりをして、イヨの同居人は心配していたようだけど……まぁ、無理矢理納得させました……。こんな毎日が続くならそれもまたーー
「…………」
俺の思考が固まった。姿がないだけならまだ少し安心できる。トイレかどこかだろうという考えができるからだ。でも、そうでないからタチが悪かった。
……俺の目の前のベンチには、クマのぬいぐるみが地に倒れていた。
イヨが俺から貰ったものを忘れるわけがない。これはつまり……
「ちっ…」




