If〜もしもの話〜
「われぇ……よくもやってくれたのぉ…」
「ちょ、待ってくださいよ!これは不可考慮で!俺は何もしてませんから!」
オルド…ミャンの父親に見つかり、逃げようとしたものの、吸血鬼ならではの俊敏さで、俺は(ミャンは自室に閉じ込められている)椅子に縛られていた。
デジャブっているのは置いといて。
「うるさいわい!おんどりゃワシの愛娘に色目使ったけぇのぉ…どうなるか覚悟しとれ…」
そう言いながら徐々にハクリに近づいてくるオルド。それと同時にハクリは顔を青くしていった。
「な、なんで俺がこんな目に…」
目尻に涙を浮かべ、そんなことを呟いてもオルドとの距離は遠ざかることはない。
「ワシの心の傷…埋めさせてもらうで!」
オルドの手が伸び、ハクリの額に長く鋭く伸びた爪先が接触する。
「ちょ!ただ事じゃないって!ガチで殺されるっ!」
「黙らっしゃい!ワシの心を傷つけた報いじゃ!」
オルドス自身我を失っているとは気づかない。それまでに動揺しているのだ。
「ミャンは…ミャンはのぉ…ワシの…ワシのものなんじゃあ…」
恐怖のあまり目を閉じたハクリだったが、額に伸びた爪が離れるのを感じ、恐る恐る目を開けると、目の前でオルドがガチ泣きしていた。
「あ、あの……」
「あの子はワシの心の支えなんじゃ…」
どうやらハクリの言葉は耳に届いていないようだ。こんなオルドを見ていると、ハクリも心が痛くなる。
「小さい頃、あの子はワシのお嫁さんになってくれるって言ってくれたんじゃ…ワシはこの子を守るって、そう思ってきたんじゃ…ミーヤが居なくなってから…男で一つで育ててきた大切な娘なんじゃ…」
「な、何じゃこの空気…」
「少年よ!」
さっきまでブツブツと何かを呟いているように見えたオルドだが、ありえないスピードと力でハクリの両肩をがっしりと掴む。
「っ!は、ひゃい!」
驚きのあまり声が裏返ってしまった事を恥ずかしく思いながらオルドの方を見ると、瞳に『真剣』の二文字が刻まれていそうな顔をしていた。
「……頼むで」
「え?」
「娘を頼んだけぇのッ!」
そう言い残して勢いよく部屋を飛び出したオルド。振られた後の高校生みたいな感じだった。
「……頼むって何をだよ…俺は半ば巻き込まれた感じなのに…まてよ。頼む…父親が愛する愛娘を他の男に頼むって事は―」
「ハクリ?」
オルドの言動の意味を理解した直後、部屋の扉からこちらをのぞき込むミャン似合ってしまう。
恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じた。
「大丈夫?パパ何かしなかった?」
心配そうな顔をしながらハクリの元に歩み寄るミャン。今度はミャンの一歩一歩が逆に怖かった。
「だ、大丈夫…何もされてない…よぉ」
成り行きではあるものの、実の父親からの許可は降りている。
歳は近いのだが、ミャンは少し子供体型だ。しかし周りに劣ることのない整った顔と容姿。ハクリの好みではあるものの、成り行きは成り行きである。
そう思いながらも満更ではない、そんな難しい境地にいた。
「どうかしたの?顔真っ赤にしちゃって」
そう言いながら頬に手を当てるミャンの動作にドキッとしながらも、なんとか平然を気取る。
「別に何も無いぞ。それよりこの縄といてくんない?」
「そう?なら良いんだけど…」
何分間縛られていたのか、手首には縄の跡が赤く残っていた。ヒリヒリする手首を擦りながら、椅子を元の場所に戻しているミャンを横目に見る。
「……なぁミャン」
ハクリに名前を呼ばれ、当然のように振り向くミャン。ハクリは徐々に赤くなってくる顔を見られまいとそっぽを向きながら
「ミャンって好きな人いるの?」
そんな根も葉もない事を聞いた。
ミャンはハクリのそんな質問に、隠すこともなくこう答えた。
「気になる人ならいるよ」
 




