刻印
「遅い……」
「くっ…なかなかやるな」
素手と大剣による、それでいてアオイは相当の速さで一戦を交えている。それにハクリが混ざり、2対1の攻防はやはりハクリ側が優勢だった……しかし、それも僅かに、それでも僅かな優勢だった。肉弾戦に特化した竜人族だが、スライクはふつうの竜人族なら使えないものが殆どの中級魔法を会得している。それにより、近距離&遠距離のコンビネーションが二人には厄介だった。魔法を使われれば、アオイが教えた捌きはもはや通用しない。火の弾丸や氷の刃は、素手では避けきれないのが常識だ。
でも、ハクリには周りの機巧族とは違い、訓練すれば魔法はいくらでも使える。僅か、少ししか使えないアオイやユアとは違うのだ。よって、肉体強化されたハクリなら、スライクの魔法にも少しは対抗できた。
「スイッチ!」
「……っ!」
ハクリを跳び箱のように飛び越えての連携攻撃、アオイの大きく鋭い一撃がスライクに加えられる。
「っぐ!」
腹部にもろに食らったスライクは、地に膝をつけ、痛みに堪える。それを見たアオイとハクリは確信的に勝利を自覚した。
「…そろそろ終わりにしましょう。隊長、ここからは私がやります」
手に持っていた大剣でもあり、その中の刀身の柄でもあるそれを地面に突き刺し、術を解く。
「隊長の銃を少し貸していただけませんか?」
「これか?まぁいいけど…」
イマイチアオイの考えが読めないハクリは、腰に携えているハンドガンをアオイに投げ渡す。それを手に取ったアオイはまじまじとそれを眺めた後、自身の武装技術を再発動する。
「……まじかよ。銃も出来るのか」
「戦乙女の力はどんな武器でも自分専用にする能力故…少しお借りします」
アオイの発動した魔法陣をくぐり抜けたハンドガンは、その原型を全く留めず、スナイパーライフルへと姿を変えた。スコープに目を当て、スライクへと標準を合わせる。
「最後に思い残すことはありますか?あなたの仲間に特別に伝えてあげます」
「………」
無表情のままアオイを睨みつけるスライク。思い残す言葉は語られなかった。
「……それでは、あなたの運命の残酷さに…非情なさいーー」
「詰みだなーー」
「え?」
ガラスが割れるような音とともに、ハクリの頭部が後ろに押しやられる。首から足先へ続き、地面へと打ち付けられる。
……左目には、赤い魔方陣が印されていた。




