到着
「そうそうそこそこ!あぁ惜しい!」
「なんで……なんで当たらないの…!」
無数に広がるユアの放った矢。一本が幾数に分裂し、容赦なくシャーマックに襲いかかる。しかし、どれも不発、当たったものは全てシャーマックの魔法陣によって防がれたものだ。
そして、戦闘が始まってから1度もシャーマックは攻撃を仕掛けてこない。手を抜いていることは目に見えていた。
「…なんかつまんないなぁ…。最初の威勢がないのもそうだし?なんか君の攻撃って一方的なんだよねぇ」
「それはあなたが攻撃してこないからでしょ」
「そうそれ!それが一方的って言うんだよ!」
「そんなのはどうでもいいの!私はあなたを倒さなくちゃいけない…みんなの……隊長のためにっ!」
不快にも思える銃声音。装填された銃弾は確かに放たれた。案の定防がれたことも定かだ。
「…防がれる事は分かっていただろう…そして、これから起こる事…少なからず分かっていた…なのに何故それを躊躇わなかった?」
「別に…それでも俺はやらなきゃならないからな。今ここでお前を仕留められるなら…少なからず可能性があるなら、俺はそれにかけるだけだ」
「そんなのはただの自己犠牲だ。可能性に自分を捧げるなど、間違っている」
自分でも分かりきった事を淡々と告げるスライク。ハクリの放った銃弾を魔法、第十二風系魔法によって作られた風のクッションにより、目の前で受け止めている。
「お前には一生分かんねぇよ。弱者の考えなんてな……」
「……そうやって貴様の仲間も死んでいくんだろうな。貴様の存在が、価値が…貴様の仲間を殺すのだ」
「……俺には俺の価値なんて分からない。あいつらが…仲間が危ない目にあうのなら俺は俺の決断をするまでだ」
再度ハンドガンをスライクに向ける。相変わらず無表情に近い冷徹な目は、しっかりとハクリを捉えたまま歪む気配はない。
「……貴様もここまでのようだ。少しは価値があると思ったが……上の連中には見かけ違いだったと伝えておこう」
「いいのか?俺よりも早く打てるのか?」
「先程からの戦いで分かりきっているはずだ。俺は貴様よりもはるかに格上であると…」
「…………」
「冥土のみあげに一言遺言を言わせてやる。シャーマックと手合わせしている女にも伝えてやる事を約束しよう」
「……じゃあ一言頼むわ」
大きく深呼吸するハクリ。今いう言葉はこれしかない。胸の内にあるすべての感情を込めて…スライクに不敵な笑みを見せつけてやった。
「お前詰みな」
「お待たせしました……隊長ーー」
「すみません。ツバキさんとツバメさんを庇ったもので……」
「大丈夫。ツバメとツバキが無事ならお咎めなしだ」
「貴様…誰だ」
初めてスライクの本気の警戒を目の当たりにした。アオイを睨みつけ、目の前のハクリの銃口を全く気にする様子がない。
「AIP…対全種族反対主義情報班副隊長…アオイ。今まで隊長がお世話になったこと、恐縮です」
「AIP…か」
「どうする?アオイさんはつええぞ?」
「ここで退いては我らの名が廃る…」
あくまで逃げる気は無いらしい。上に乗っかっていた状態から、スライクと距離をとるハクリ。アオイと共闘するのは、これが初めてかも知れない。
「さて、今までのお礼をしましょうかーー」
アオイの武装技術、戦乙女が発動された




