お泊り会をしよう!
「ミャンの家に行ってきた……ね」
「……そうだよ……別にやましい事なんてしてないからな!」
1度目にミャンの家に行った次の日。ハクリはその事についてユリと話していた。
「別に気にしてないわよ。まぁあんたがそんな事出来るわけないしね」
ユリの何気ない一言にムっときたハクリ。
「まだ会って間もないやつが俺の何を分かるってんだ」
そしてこのハクリの喧嘩腰の言い方にムカッとしたユリ。
「ふん。あんたなんてどうせ大事な時にヘタレるんでしょ。そんなのあんたの顔を見ただけで分かるわよ」
「な、なにおぉ…………ちょっと待て。大事な時ってどんな時だ?」
「なっ……」
ハクリの質問に戸惑うユリ。ニヤァっと勝ち誇った顔をするハクリに対しユリは赤面しながら目を泳がせる。
「言ってみろよ!一体どんな時に―」
「ここに変態がいやがりますね」
言葉を詰まらせたユリをさらに攻めようとしたハクリだが、唐突に口を挟む存在がいた。
「…………」
ハクリの腹上部くらいの身長の小さな女の子が後ろに立っていた。
「……お嬢ちゃんダメじゃないか……クラス間違ってるよ?」
「なっ、私はお嬢ちゃんじゃねぇですよ!れっきとしたこのクラスの1人ですよ!」
何処か慣れていないてやんでい口調。ハクリはこの人物が小人族のリリィ・ノーべリアということを知っている。
「……またまたご冗談を(笑)」
「う、嘘じゃねぇですよ!本当ですよ!」
ハクリにはこの慣れたようで慣れていないてやんでい口調をいじる事が楽しかった。
「……ハクリ。その辺にしときなさいよ」
調子を取り直したユリにそう言われ、ハクリは肩を震わせながら口を開く。
「悪かった……知ってるよ……り、リリィだよな……ふっ」
「な、何で笑ってやがるんですか!」
しばらくこのやり取りが続き、ユリは頭を抑えていた。
ー数分後ー
「皆さんここに居たんですね」
「マスター……だ、だずげでぐだざい゛〜」
ハクリとリリィがあーだこーだと言っていると、シノアとルリ、ミルが教室に入ってきた。ルリは何故かゲッソリとしている。
「……お前何があったんだよ」
「いやぁねハクリ君。実はさ〜」
「ちょっとミルさん!あの事は秘密です!ルリさんも良いですね!?」
ミルが口を割ろうとした所でヤヨイが慌てて止めにかかった。どうやら口に出来ないような事らしい。
「??まぁいいけどさ」
「そうです。気にしない方が良いんです……それより―」
この時ハクリには寮というものが無かった。
手配はされているものの、急な転校であったがためにこれもまた男子寮に空きがないらしい。その為に特別特例で総合寮(男子と女子どちらもが暮らせる寮)にハクリの部屋を作ることとなり、色々な手配を進めている真っ最中らしい。
「ルリさんはお部屋が出来たみたいでしたけど……ハクリ君はどうなのでしょうか?」
「……俺はまだだな。あともう少しはテント生活しなきゃな……」
「「「「っ!?」」」」
ルリとハクリを除くクラスメンバーにすんごい目で見られているハクリ。
本人は疑問を浮かべる事しか出来ない。
「て、テントってあの野宿する用のテント……よね?」
ユリは恐る恐るそう言った
「うん」
「の、野宿ってあの外で寝泊まりする事だよね?」
続いてミル。
「…うん」
「へ、へ……変態だぁぁぁぁあ!」
「ちょっと待て!それはおかしいだろうよぉおい!?」
突然騒ぎ出したリリィをハクリは大声で対応する。
「そ、そんな事いけませんよ!」
それを止めるように怒鳴ったのはシノアだった。手をわなわなと震わせながらハクリの目と鼻の先に顔をぐっと近づける。
「ちょ、シノア近いって!」
「はっ……す、すいません……」
我に返ったシノアは赤面しながらハクリと距離をとった。
「で、でも流石に外で野宿なんて可愛そうにも程があります!」
シノアの言い分は痛いほど分かる。実際ハクリも辛いわけで、しかしこの状況で口を出したところで寮の手配が早くなるわけではない。
何も言わずに待つのが早いのだ。
「……とは言ってもこればかりはどうしようもないだろ」
「…………無いこともないんですけど……」
そこでもじもじと顔を赤くするシノア。
「……その……お泊まり会っていうのは……」
「ちょっと待て。この学園女子の部屋に男子が入る事は禁止だろ?そういうの止めよう。何か年頃の男子が女子の部屋にいるのは俺、危ないと思うからさ」
「そ、そんなに真面目に受け答えしないで下さい!私だって恥ずかしかったんですよ!?」
「……いやそれにしてもまずいだろ…見つかったらどんな目に遭うか―」
「いいねそれ!僕さんせーい!」
ミルが元気よく手を挙げる。何となく分かるのだが、多分ミルは遊び感覚だ。
「んー……私も賛成かな」
ユリも賛同して挙手をする。
「変な事したら殺すからねっ!」
「いやしねーし!まず俺が行くなんて決まってないだろ!」
「良いじゃないですか……バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」
何処かで見たことあるセリフだなぁと思いながらハクリは苦し紛れにリリィに視線を向ける。
「…………私も賛成しようじゃあねぇですか!」
数秒間目を合わせたと思えばニヤァっと不敵な笑みを浮かべて悪ノリするリリィ。
これで仕返した気らしい。
「……あ、ヒノンさんはどうですか!皆で一緒にお泊まり会をしませんか?」
ハクリの後方にいる獣人族の猫耳少女のヒノンを誘うシノア。しかしヒノンは本に集中したまま。耳に入っていないらしい。
「……また後で声をかけておきましょう…」
「それでそれで!誰の部屋に泊まるの!」
先程からテンション上げ上げのミルがそう問いかける。
「そうですね…私の部屋は2人用だし……他の皆さんもそうなんじゃないでしょうか?」
皆そうだと言わんばかりの沈黙の中、口を挟む人物が1人。
「私の部屋結構人入りますよ?」
そう言ったのは他でもないルリだった。
「ほ、本当ですか!?」
「何か私の部屋元々大人数で暮らすための部屋だったらしいんですけど、急な転校のせいで他の個室部屋が空いてなくて、仕方なくここになっちゃったんですよね……多分ここにいる人数ならいけますよ?」
「ほえー。私も行きてぇです!泊まって皆で遊びまくりてぇです!」
幼い子供のように騒ぐリリィ。
「わ、私も行きたい……」
何故か恥ずかしめにそう言うユリ。
「よぉし!決まり!早く行こうすぐ行こう!」
「待ってください。まだ授業が残っているので…………放課後、女子の皆さんは準備を済ませてルリさんの部屋に来てください。ハクリくんは放課後私に付いてきてくださいね」
「…………はい」
ハクリの存在など誰も気にしてはおらず、そして誰もハクリの意見は聞いてなかった。
 




