再発
「任務ご苦労様。まさか本当にやっちゃうなんてね。少し甘く見ていたよ」
「それでも俺達はやったんだ。これでイヨはもう狙われないんだよな?」
「あぁもちろん。約束は守るさ。本当にご苦労さま」
リランの言葉を最後に、ハクリは司令室を後にする。イヨの告白を受けたのは昨晩の事。ハクリ率いる情報班は即座に帰還した。あまり心残りにならぬよう、細心の注意を払って。
ハクリ達にはまた暇な時間が訪れ、任務発令までは各自の自由時間となる。ハクリにとっては訓練に当てる時間だが、周りはどう過ごすのだろうか……。
「それじゃあお願いします。アオイさん」
「了解しました。今日は久しぶりに対人戦と行きましょう。前の作戦時には、一度死にかけたらしいですし」
「それを言われるとキツいんだよなぁ…なんで生きてるのかさえ不明なのに」
「文句があるなら拳でお願いします…」
「アオイさんは相変わらずだよな…」
そうしてまたいつもの日常が始まる…。ここの生活……ハクリの普通のーー
ーーあれ?ーー
ふとハクリの動きが止まる。不審に思ったアオイも、攻撃の手を止め、ハクリの様子を見る。
「どうかしましたか?隊長」
「俺は…俺の日常はこれか?俺はここの人間で、ここで前から暮らしていた?本当にそうか?俺は……俺はーー」
自分でも分からない衝動に、震えが止まらない。何か思い出さなければいけない事があるのに、それが思い出せないのだ。やるせないこの苛立ちは……なに?
「俺は……誰だ?」
「隊長っ!」
ユアの怒鳴り声で目が覚めた。多分ここは機内で、ハクリは基地に向けて帰還している最中だったはず……。
「今のは……夢?」
「隊長!皆が…皆がっ!」
ユアの叫び声はまだ続いている。どうやら、ただ起こされただけではないようだ。体を起こすと、何故か身体中に激痛が走る。
「痛ぅ……っ!」
「大丈夫隊長?」
「あ、あぁ……でも、なんで」
「襲撃だよ。私達が乗っていたヘリが襲われたんだよ…」
理解が追いつかない頭を無理やり覚醒させ、辺りを見回すハクリ。煙が立ち込み、確かにヘリコプターらしき残骸が見える。
「…他のみんなは?」
「分からない…私が見つけたのは隊長だけで…」
このユアの表情。本当にまずい合図だ。痛みを我慢しながら立ち上がり、辺りの捜索を始める。左腕が動かない……多分折れている。
「ツバメ!ツバキ!アオイさん!」
「皆!どこなの!」
いくら叫んでも、呼びかけても返答はない。いよいよまずくなってきた所で、望んでいない声が聞こえる。
「誰かお探しで?ヒヒッ」
ハクリがこの声を耳に通したと同時に目を見開く。この聞き覚えのある声は、確かに前にあった事のある男の声だ…もっと言えば、こいつが居るということはもう1人ーー
「あまりはやし立てるな。うるさいのは嫌いだと何度も言っているだろう」
竜人族スライク。妖精族シャーマック。以前ハクリがヤヨイ達とオブティーンへ向かっていた際に遭遇したテロ組織『旧聖会』の一員である。
「お前達…旧聖会の……」
「おやおや君はあの時の!ふぇえ偶然だァねぇねぇねぇ!」
「それを知っていて狙っただろう。あまり苛立たせるな」
「た、隊長…この人達は……」
怯えたユアはハクリの背中に身を隠す。警戒心を最大まで引き出し、ただ目の前の脅威を睨みつける。恐怖心を押さえつけ、ただ一方的に……
「今度は何なんだ……」




