アオイ……本気
「そうか…みんな本当に助かった」
「このツバメがいるんだもん!当たり前の結果よ!」
数分後、何故か傷が塞がっているハクリが目を覚ました。特に後遺症らしきものは見つからず、健康的な状態なこともまた驚きの一つである。
「本当に大丈夫なの?隊長」
「うん。自分でも驚く位に何とも無い」
自分の体をペタペタと触るハクリの反応を見て、ユアが浮かべた感情は不審というよりは不安の方だった。
「い、行きましょう…アオイさんが心配です」
「あれから時間が経ったからな…心配だ」
「でも、アオイさんなら大丈夫…きっと」
「よし行こう!すぐ行こう!」
ツバメの号令とともに、ハクリ率いる一同は駆け出した。
「アオイさん!」
「……来ましたか。生憎敵がいるようです。全員、気を引き締めてください」
「おいおい…よそ見して人のこと気にしている暇があんのかい?」
安心したのも束の間、ヴェイダーの思い一撃がアオイ目掛けて降りかかる。いつもと感じる違和感。赤みを帯びたアオイの目は、異常なまでにその存在を主張していた。
「アオイさん…目が」
「や、やばい…」
「へ?」
「に、逃げよう隊長。こ、殺される……!」
何故か急に体を震え上がらせるツバメとユア。勿論ハクリには意味は分からない。
「そんなにやばいのか…あの筋肉男ーー」
「そうじゃなくて!アオイさんだよ!」
的はずれなハクリの回答に、ユアが必死に訂正を加える。こうなるとさらに理解に苦しむ方向で進み、余計に考えがごっちゃになる。
「あの目は…とにかく逃げなきゃなんです!逃げないと巻き込まれます!」
「ツバキまで…そんなに今のアオイさんやばいの?」
ツバキまでも身体を震わせ、顔を青くしている。これは本当にやばいのかもしれない。
「そ、そんなにやばいのか?今のアオイさん」
「今は大分抑えてるけど…いつ爆発するか…」
「??爆発?何?爆弾になるの?」
「あーもうっ!変な事ばっかり言ってないでとにかく距離開けて!今はこの距離でも良いけど、アオイさんが本気になったら本当にやばいんだって!」
ユアに無理矢理戦闘服の裾を引っ張られ、バランスを崩しそうになりながらも少し後退する。見た感じ瞳の色以外に変化はないようだが、周りのこの怯えよう…そんなにやばい事なのだろうか。
相変わらずの肉弾線。ヴェイダーが一方的に攻撃を加え、それをアオイが捌き、かわす。その繰り返しである。
「いい加減飽きたな…おい、お前の実力はその程度なのか?」
「何度も同じ事を言わせないで下さい」
「ちっ……とんだ期待はずれだぜ。ヴェルフ」
「あいあーい?何?」
「その娘、殺ってしまえ」
「えー?良いの?まだ勝負ついてないのに?」
ヴェイダーにヴェルフと呼ばれた小柄なチャラチャラした男は、皮肉混じりにそんな言葉を言いながらも短剣を再度抜き取る。
「構わん。俺にもしもの事があった時のためにと思ったが……飛んだ期待はずれだった」
「ふぅ〜ん。まぁいいけど」
抜き取られた短剣がイヨの首筋に迫る。
「おい!その子に手はーー」
「大丈夫だよ隊長」
それを見て焦ったハクリだが、ユアは問題ないとでも言わんばかりの表情でその場を眺め続ける。
「少しでも期待した俺に感謝するんだな……その娘の寿命が少し伸びたに過ぎんが、お前はよくやった」
「…………」
「よし、行きますよ!首チョン………あれ?」
「……私の本気が見たい…そう言いましたよね?」
アオイの手に持たれているのはヴェルフがコンマ1秒前まで持っていた短剣。そして、そのヴェルフのすぐ後ろにアオイは立っていた。目を見開くヴェイダーとハクリ。ハクリに至っては何が起こったか分かっていない有様。
「へ?あれ?」
自身の手を見つめながら戸惑うヴェルフに、アオイは自ら距離を開ける。
「自身の本気というものは、自身が認め、自身が満足する限界の力…少なくとも私はそう思っています」
「……何が言いたい」
さすがに危機感を感じてきたヴェイダーとヴェルフの2人、表情には僅かだが恐怖心が生まれつつあった。
「私が満足する私の限界…そんなもの……あるわけが無いのです……なぜならーー」
アオイの瞳が閉ざされ、いくつもの魔法陣が形成される。アオイの容姿は魔法陣が通過することで変化していき、足先まで到達する頃には、まるでそれはー!
「戦乙女…私は限界の先を行く」
アオイの武装技術。戦乙女。ここに発動せし……




