謎の刺客…しのぎ
「一矢目…放て!」
ユアが放った矢が、真っ直ぐに延びていく。その速さを意に返さず、ツバメとツバキは矢と同速でローブの者へと接近する。長刀を構え、戦闘態勢をとった人物はまず第一にユアの矢を跳躍によりかわす。ツバメとツバキがそれに合わせて連携攻撃を加える事は、容易に推測できた。
「第一撃目!いっけぇ!」
「え、援護します……!」
鉤爪による攻撃に加え、ツバキの大剣でツバメの小柄を押しやる。加速による威力増加を図った連携攻撃だ。
「相手は跳躍をしている。これなら…」
「あったれぇぇぇぇえ!」
「いと…浅はかなり」
不況な金属音が鳴り響く。あと数センチの所で相手を串刺しに出来たところを、長刀によりそれを隔たれる。
届かなかった鉤爪の刃。しかし、ツバメは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「へっへーん。ツバメたちの方が1枚上だもんね」
「……?……!?」
一瞬の戸惑い、その瞬間に突き刺さるユアの放った弓矢。重力により、ツバメとその相手は地に打ち付けられる。
「ツバメちゃん!」
「大丈夫…とりあえず距離開けるから」
ツバキの力を借りながら、血を流し傷を抑える人物から距離をとる。
「あたった…当たった!」
「でも、隊長から距離を離さないと…これじゃあ隊長が」
「で、でも……あれじゃ近づけません」
「……なら、私が何とかしてみる」
「ユアさんが…ですか?」
「私が致命傷を与える……殺さない程度に。そうすれば動けないだろうから、その隙にお願い」
無言で告げられた了解の頷き。ユアはその場で次の弓を引く。
「武装技術。臨終」
嫌いな自分の武装技術。死を具現化したようなおぞましいスキルを使う。これ以上の皮肉はない。でもーー
「隊長は…隊長は私が助ける……っ!」
放たれた矢は予定通り対象へと突き刺さり……
「あれ?」
「ちょっと!思いっきり外れてるじゃん!」
「……本気でやって下さい」
「ご、ごめん!何かその……ごめん」
「……浅はか」
ここに来て裏目に出たユア。そしてその時になってローブの人物が起き上がり、その場で逃走。全てが上手くいったとは言えないが、今はとりあえず窮地をしのいだ。
「……なんだかよく分からないけど、とりあえず隊長!」
「大丈夫!?死んでない!?死んじゃってる!?」
「お、落ち着いてツバメちゃん!大丈夫、大丈夫ですよ…」
思ったより出血は多くない。それどころか傷口が塞がりつつある……。明らかにおかしい。
「おかしい…確か血は出てたし貫通もしてた…。なのにもう傷が塞がってる……なんで」
「でも隊長は無事なんだよね?大丈夫なんだよね?」
目尻に涙を浮かべながらハクリに縋り付くツバメとツバキ、手を握って涙を伝わせるユアは、内心に秘めた思いを胸にしまう。
「良かった…本当に良かった」




