行こう!
ミャンちゃん登場〜
「…………」
あれから3日後に再びミャンの家へ来た。本当なら一昨日に行くつもりだったのだが……色々あった……。
相変わらず不気味な館である。
深呼吸を何度かして扉をノックする。
程なくして、予想通りオルドが応えた。
「なんやあんさんかいもうきいひんかと思っとったわ……まぁ入りや……」
そしてこちらも相変わらずのいかつさ。
ハクリは慣れる事もなくリヴァン邸に入っていった。
「あんさんが来た次の日の夜からミャンの機嫌が悪いんじゃ……何か知らんか?」
「……いや、何も」
ハクリが来たのは三日前。つまり一昨日の夜から機嫌が悪いとなる。ハクリは今日来たわけで、ミャンが不機嫌になった理由は当然知らない。
オルドは「そうか……」と言って鍵をハクリに投げ渡した。
「くれぐれも血迷った事はするなよ……」
そうとだけ伝えてリビングのソファに腰を下ろした。
「……ミャン?」
返事はない。少し間を置いて扉を開け、入室する。
「…………」
前回会った時のパジャマ姿とは違い、今回は私服らしきものを着ていた。
「久しぶり……なのかな」
「…………」
返答がない。この様子を見るに、不機嫌な原因はどうやらハクリらしい。
「えーっと……怒ってる?」
ぷいっと目線をそらすミャン。
ハクリはため息を吐きながら頭の後ろを掻く。
とりあえずミャンとの距離を縮めようと、ベッドへ足を運ぶ。
頬をむぅっと膨らませて、明らかに不機嫌そうである。
「……ミャンさーん?」
「…………」
相変わらずの無返答にハクリは再度ため息をこぼす。
「……来てくれなかった……」
「はい?」
逸らしていた目を合わせて、大きな声で叫ぶミャン。
「待ってたのに来てくれなかった!私せっかく学園に行こうと思ってたのに!」
「ごめん!悪かった!俺も色々あったんだよ!」
全身全霊を込めて土下座をするハクリ。ミャンは恥ずかしさ故か顔を朱に染めている。
「…………して」
「……え?」
ボソッと放たれたミャンの言葉が上手く聞き取れず、ハクリは聞き正した。
「……ギュってして……」
「…………ごめんもういっか―」
「ぎゅってして!でないと学園行かないっ!」
とてつもなく間抜けな顔をしながらミャンを見つめるハクリ。ミャンは顔を真っ赤にしていた。
「……はやく……」
「お、おう……分かった……」
このままでは埒が明かないので、ハクリは鼓動を早めながらミャンの背後へ移動する。
恐る恐る腕をミャンのお腹に回し、静かにゆっくりと抱き寄せる。
とにかく死ぬ程恥ずかしい。
ミャンの表情が次第に良くなっていき、ものの数分で上機嫌になっていた。
「えへへ〜」
「……まだ?」
「まだ〜……ねぇねぇハクリ~」
「ん……っておい!」
恥ずかしくて目線を逸らしていたハクリ。ミャンに呼ばれ、目線を戻すと、視界がミャンの顔で埋まっていた。
「ちょ、おまっ近いって!」
思わず回していた腕を離し、ベッドの上で後ずさりをするが、すぐ近くは壁で逃げ道はなくなった。
「ふふ〜ん。私ハクリに興味があるんだ〜。だから~ね?」
「いやまて!俺達あって二回目だぞ!まだ早すぎるって言うか……そのぉ……!」
「ハクリは私の事嫌いなの?」
火照った顔で悲しげな表情をとるミャン。
そんな顔をされたら嘘はつけないハクリ。
「……………………嫌いじゃない」
「じゃあ大丈夫〜♪」
そして再びハクリに寄ってくるミャン。
二人の顔の距離が近くなり……ハクリの意識と理性が遠のいていこうとしていた。
「ふふっ。ハクリ可愛いなぁ。もっといじめたくなっちゃう」
「お、お前は何を言って……」
そんなハクリの言葉も聞かず、ミャンはハクリの頬に両手を添える。
そして二人の顔が徐々に近づいていき………。
「われぇ……うちの愛娘に何してくれとんじゃぁ……」
「っ!?」
いやぁな空気とともに声がした方へ振り向く。案の定、殺気を纏ったオルドがわなわなと拳を震わせ、人を殺しかねない顔でこちらを、ハクリを睨みつけていた。
「ちょっとパパ!部屋入る時はノックしてって言ったじゃん!」
「やかましいわい!わしゃあ今この不届きモンに腹ぁ立てとるんじゃ!」
1歩、また1歩とハクリに近づいてくるオルド。その怒りに満ちた顔を見れば、誰もが死を覚悟する事だろう。
「ハクリは悪くないの!全部私からした事だもん!」
「だったらよりわしゃあコヤツを痛めつけな気がすまんわ!」
理不尽!それめちゃくちゃ理不尽だよ!
ミャンはむっとした顔をする。しかし、何かを思いついたように不敵な笑みを浮かべた。
「私、ハクリと結婚するから。だからこんな事してても普通でしょ?」
「……は?」
間抜けな発言がハクリの口から放たれる。
しかし、より衝撃的だったのは―
「な、ななななななななな何言っとるんじゃ!わしゃあ認めた覚えはないぞ!いやそんなの認めんからな!」
「パパが認めなくても私とハクリは約束したの!」
「ちょ、ミャン。それは―」
「ミャンはわしと結婚してくれるてゆぅてたやないか……それは―」
「ちっちゃい頃の話でしょ。私はハクリの事が好きなの!パパとは結婚しない!」
「なっ―」
何故だろう。この世界の吸血種は太陽に弱くないはずなのに……オルドが石化しているように見える。
「ハクリ、行こう!」
唐突に手を引っ張られ、ハクリはなす術なくミャンに連れられて行った。
「わ、わしは……どうすればぁ……」
ショックで石化したように固まったオルドは現実が受け止められず、しばらくその場でそう呟き続けた。




