お話
「…………」
「なぁイヨ」
「…………」
「……イヨ?」
「………………」
「なぁイヨってーー」
「何でここにいるんですか。お兄さん」
不機嫌そうな顔をするイヨの横に座るハクリは、考えるように顎に指を添える。
「んー…イヨと話がしたいからかな」
「確信ではないんですね……昨日あんなことしたのに」
体操座りをして顔を膝に埋めるイヨ。昨日の罪悪感はあるようだった。
「結果的には直してくれたじゃないか。プラマイ0だよ……うん」
「でも、イヨはお兄さんに怪我をさせてしまいました!それは真実です……」
泣きそうな顔をしながらハクリに訴えるイヨ。この表情のどこにあんな思想が秘めているのか疑いたくなる。
そんなイヨの頭に、ハクリはポンと手を置き、撫でる。
「あれは俺が不法侵入をしたからしょうがない。非があるのは俺の方だよ」
「でも……私は…」
「イヨも気が動転してたんだよ。誰にだってそういう時はあるさ……俺はこの通り大丈夫。だからもうそんなに心配しないでくれ……な?」
「…………分かりました。お兄さんがそこまで言うなら、イヨはもう気にしません。昨日はごめんなさいです」
「こちらこそごめん。まさかイヨの家だなんて知らなくて」
お互いに礼を交わし、空いてしまった距離を戻す。包帯越しでも分かる無垢な笑みを浮かべるイヨ。その笑みの裏が余計に怖くなった。
「…やっぱりお兄さんも、私の考えが間違っていると思いますか?」
「……そうだね」
笑みを一変し、俯いた表情を顔に出すイヨ。口にした内容はもちろん自分の考えの事だ。イヨの過去はハクリには分からない。でも、何か辛いことがあった事くらいは理解出来る。その延長線上でその考えに至ったという事も……。
「……私のお話……聞いてくれますか?」
意を決しての提案。イヨの手は震えていた。
ハクリの回答は一つだけ……。それが、彼女を救うためならば……
「分かった。聞かせて」




