アオイと謎の提供者
「掴んだ情報はなし…まぁ当たり前と言えば当たり前ですね」
着物に身を包んだアオイは、とある店で休憩を兼ねていた。数十分探索を行ったが、掴んだ情報は皆無に等しい。仕方が無いと言えばそうなるが、そうは言っていられない。
「……もっと的確な目印などがあればいいんですが…」
そんなありもしない理想が口から漏れるという事は、自分も疲れているのだろうか……というか滅入っているのだろう。このまま街の探索を再開してもいいが、闇雲に探すのは効率が悪い。何か別のあんを考えなければ…。
「可愛い格好してんなぁ姉ちゃん…悩み事かい?」
「…どなたでしょうか。見知らぬ人との交流は控えているのであしからず」
突然自分に声をかけてきたのは、大したガタイの大男。地域独特の着物に身を包み、間からは鍛え抜かれた筋肉が見える。警戒を顕にした目で見つめるアオイを見て、大男は焦るように手を振る。
「まてまて!俺はいかがわしい事なんて考えてないし、本当に困ってそうだから声かけただけだって!」
「信じられませんね…それにその腰に携えた武具…持っている意味が分かりません」
「刀の事か?こんなもん、この街で生きてりゃ誰だって護身用に1振りは持ってるぞ。本当にあくまで護身用だ」
アオイがこの街に来て思ったのが、この街の男の殆どが腰に刀を携えているという事だ。それと服装以外、自分達との異なる点は見つからないが、護身用に刀を、それも見えるように携える意味が見い出せない。来たばかりのこの街で覚えた疑問は数多く、それに伴いアオイの警戒心は上がりに上がる。大男は困ったように後ろ頭を掻き、苦笑する。
「おいおい…少しは信じてくれても良いんじゃないのか?見た限り……この街にも慣れていないようだしな」
「……あなた、何者ですか?」
アオイが問いかけると、大男はアオイに対面するように腰掛け、真剣な眼差しを向ける。明らかに今の発言を聞くに、この大男は自分の事を見抜いている…そんな気がした。
「まぁそこは置いといて、姉ちゃんは人探しをしてるんだよな?」
「…………そうですね」
「でもここら辺の情報なんて皆無だし、何より収集源がない…そんでもって途方に暮れていたわけだ」
すべてお見通し…余計にこの男への警戒が高まったアオイ。そんなアオイを気に留める事もなく、大男は話を続ける。
「勘違いするなよ?俺は姉ちゃん達の敵じゃない。ただちょっと手伝おうってこった…悪い話じゃないだろ?」
「……それに伴うあなたの求める代償、利益を聞いてからです」
「ふん…俺は何も求めちゃいない。強いて言えば………そうだなーー」
言葉の途中で大男は立ち上がる。懐から取り出した紙切れを取り出し、机に押し付け、こう述べた……。
「俺が求めるのは、あんた達のやり方による結果だ」
「っ…」
目を見開くアオイ。自分に背を向け歩き去る男に、目が離せない。言葉を発するにも恐怖のあまりうまく咽頭から声が出ず、ただ呆然と見る事しか出来なかった…。
「…なるほど……そういう事でしたか」
見えなくなった男の背中を脳裏に浮かべながら、アオイは紙切れに手を伸ばした。




