受け入れよう
「その結果、手を撃たれたリリィ・ノーべリアは小人族特有の器用さを、羽を撃たれたシノア・イーリアは片方の羽と共に半分の魔力を、頭を撃たれたミャン・リヴァンは吸血族なら誰しもが持つ血への執着、同じく頭を撃たれたヒノン・ミルモントは超嗅覚と超聴覚を、妖精族のユリ・クライヤは手術のショックで魔法のコントロール力を、竜人族のミル・メルトロールは力のコントロール力を失った……」
「…………」
リランの説明をすべて聞き、ハクリは途方に暮れるしかなかった。
彼女達は一度死んだ……。それを蘇生させたのは他でもない殺害したリランだった。
言葉にしようがない感情が脳内を渦巻く中、リランが一言……。
「語弊があるようだけど、彼女達は機巧族ではないよ。代償を払ったおかげで、今では元気に自分の種族として生きている…それは、君がよく知っているだろう」
「……本当にシノアやミャン達は…」
「あともう一つ……君には言わなければならない事がある」
今度はどんな事を言われるんだ…。
そんな不安が頭を過ぎる。
「君とルリの正体を…彼女達は知っている」
「…………」
「驚かないんだね」
「その前に壮絶な真実を聞いたからな。それに、俺とルリの事はいずれ話すつもりでいた。好都合だ」
「そうか……」
「……何故知っているかを…聞いてもいいか?」
ハクリがそう問いかけると、リランは語り始めた。その目的を…
「彼女達を文字通り蘇生させた十数年前、既に君はここに来る事が決まっていたんだ。彼女達は、君を導く為の鍵として必要不可欠な存在になる…だから、君やルリの事を手術の際にインプットさせておいたのさ」
「……その俺を導くというのは…この前お前が言っていた器に俺がなるため……というわけか」
ハクリの結論に、リランは「そういう事」と人差し指を向ける。リランの言い分だと、恐らくと言わず絶対的な確率でルリもその必要不可欠な存在の1人に入るのだろう。
「…何で俺が来る事が決まっていたか……そんな事を聞くのは愚問だよな?」
「……あぁもちろん。僕はやると言ったらやる男だからね」
不敵な笑みを浮かべるリラン。
「…分かった。お前が俺をそこまで必要としていて、ルリやシノア達を巻き込んだ事も…それは深くまで詮索しない…でもなーー」
と、そこでハクリがリランに向けた敵意の目。
「お前がどう思おうがここにいる人達は皆人間だ。お前にとっては道具に過ぎないかも知れないが、俺はそうは思わない。その考えだけは改正しろ……こらから協力する仲だと思ってな…」
ハクリの提案に、リランは薄く笑みを浮かべる。
「……ははっ。すまない。あれは冗談だ。僕だって彼らの事を大事に思ってるし、出来る事なら出撃なんてさせたくない。何分自分があまり動けない状況でね……それに、あの時は少し機嫌が悪かった…心にもない事を言ってしまって本当にすまなかったと思ってる」
意外な回答が返ってきたことで、ハクリは少々戸惑ってしまう。しかし、自分の思いは伝わったようだ。リランの表情を見ていれば分かる。
「……そうか」
「これからもよろしくハクリ。君の活躍に、期待しているよ」
差し伸べられた手を取り、互いに意思を確かなものにする。未だハクリは戸惑い気味だが、彼の事だ、直ぐに受け入れてくれるだろう。……いや、受け入れてもらわなくては困る。
「…僕からは以上だ。時間を取らせてすまなかったね」
「いや、大丈夫だ。聞きたいことは聞けたしな」
そう言葉を残し、ハクリは早々と部屋から出ようとする。そんなハクリに、リランが一言。
「…彼女達に僕は何もしていない。ただ自分の尻を拭ったに過ぎない…彼女達は、彼女達だよ」
「…………そんなこと、言われなくたって分かってるさ。ユリ達は俺とルリの仲間で、クラスメイトだ。その現実は絶対に揺るがない。いや、揺るぐには要素が足りなさすぎる」
「……さすがは僕の見込んだ男だ…感謝するよ」
その言葉を最後に、ハクリは部屋を出ていった。残ったリランは、先程握手をした手を眺める。
ーー協力する仲……か。君はいずれ僕に…この組織に敵対する事になる…絶対にねーー
言葉に出来ない感情を胸の内に秘め、AIPの総司令官は物思いにふけっていた。




