過去という現実
「う、嘘だろ……」
「こんな…たった1人で俺達をーー」
「…………」
火が舞う…先程まで神聖さを誇っていた教会内部は、赤一色、炎が包み込む勢いで燃え盛っていた。それも、カグツチは無傷、さらには1歩たりとも動いてはいなかった。
「が……はっ!」
「ひ、ひぃぃっ!?」
「………ふふっ」
ある1人の覆面の口の中から火のツタが飛び出してくる。それを目の当たりにした仲間は皆恐怖で顔を青ざめ、ただカグツチが、そのとき初めて表情を顕にした。
薄く笑ったような、そんな妖美な笑みを向ける。
「た、助けてくれ……?」
助けを求めた男の穴という穴から火のツタが飛び出る。鮮血が飛び散り、仲間達に更なる恐怖を植え付けた。
「ば、バケモノぉ!く、来るなぁ!来るなぁ!」
「ば……けもの?」
感情のこもっていない目で自身のことをバケモノと称した者を睨むカグツチ。青ざめた表情を浮かべる男は魔法を放とうと掌を向けるがーー
「……え?俺の手……俺の手は?」
男の手が見当たらない。それどころか、無くなった手の場所には何故か火のツタがある。自分の手首から生えた火のツタを目の前に、男の思考は止まった。
「あ、あはは。そうか、俺の手はこれなのか。そうか……そうか!」
狂ったように笑い出した男を怪訝そうに見つめるカグツチ。火のツタでその首を切り落とす。
周りを見渡せば、既にカグツチ以外に生きているものはいなかった。何故かは分からないが、その時異様な孤独感がカグツチを襲った。
「さ、みしい……さみ……しい…」
その場にしゃがみこみ、体中をガタガタと震わせる。そんなカグツチに近づく男が1人……鋭い刃物を振り下ろそうとしていた。
「こ…のバケモノがぁ!死ねぇぇえっ!」
「……」
しかし、男の刃はカグツチには届かなかった。代わりに鋭い弾丸が、男の頭を突き抜ける。
「かっは……っ!」
力をなくし、倒れる男に目も向けず、カグツチは未だ体を震わせている。
「さみしい……さみしい……」
「カグツチっ!」
と、そこで戻ってきたのはリランだった。背後にライフルを構えた女性を連れてきたリランは、カグツチを見るなり駆け寄り、抱きしめる。
「……!」
すると、先程まで感情を顕にしなかったカグツチの目が見開く。
「カグツチ、大丈夫か!?俺はここにいる。ここにいる……」
「ま……すたぁ?」
「あぁ俺だ。俺はここにいる…」
リランを確認して安心したのか、カグツチの武装技術は解かれる、
当たりを覆っていた炎が、嘘のように消え去っていった。残されたのは、少女達の遺体と、無残な残骸だけ…。
「……落ち着いたか?」
「……はい。申し訳ありませんマスター」
「いいさ。これも俺の役目だからな……」
立ち上がり、辺りを見渡す。リランの目に止まったのは、息を引き取った少女達。
心残りは……これだけだ。
「アオイ」
「……はい」
「この子達を連れて帰ってくれ」
「どうするおつもりで?」
アオイの問いかけに、リランは決意した目で放つ。
「……この子達の人生の火を…また灯す。この子達は機巧族にはしない」




