過去~その2~
リランの合図で、カグツチは魔法の詠唱を始める。腰に携えたハンドガン2丁を手に持ち、リランも腹を括る。
「…第五地系魔法」
対象に穴を開ける魔法をかけ、教会の屋根に穴を開ける。重力が働き、2人の体はそのまま教会内へと落ちていく。
着地時になるべく地面に衝撃を逃がすように着地したリランは、同時に辺りを見回す。計算通り、今はこの部屋には誰もいなかった。
「よし…対象の位置を教えてくれ」
「ここから北緯48度。18m先に全員滞在しています」
自分の持っている端末にその情報を書き込み、共有させる。準備を整えた2人が向かう先は、もちろん対象の元である。
「俺は右から、カグツチは正面に行って回り込んでくれ。挟み撃ちにする」
「了解」
扉の前に立ち、緊張の空気を醸し出す。最悪自分が死ぬかもしれないのだ。今までに死にそうになった事は多くあり、その度に対象を殺す事でそれを免れてきた。
……今回も大丈夫。きっと上手くいく。
「さぁ、行くぞっ!」
思いっきり扉を蹴破り、カグツチ、リランは動き出す。間違いなくリランの方が最短ルートなので、戦闘になる時間が早い。両手に持ったハンドガンを構え、走り抜ける。
そしてーー
「無駄な抵抗はやめろ…1ミリでも動かれると楽に殺れないからな」
何人いるのかは遠すぎて分からない。しかし、そこに人物が居るということは断定できた。嫌に広く取られた空間に置かれた物陰に隠れる対象と思わしき人物達。リランを見て恐怖が増したのか、震える体が遠くからでも確認できる。
「苦しみは与えない。だから……動くな」
対象に向けたハンドガンの銃口に形成された魔法陣。リランの武装技術を発動するための時間を稼ぐ。
「その思想さえなければ俺達に狙われなかったものを……種族同士は助け合わなければならない。悪いが俺は相手がどうなろうと世界の調和のためなら何も思わない……運が悪かったな」
そして、準備を整った。放つ弾丸は6発。当たればどこの部位だろうがそこから正気を吸い付くし、確実に殺す死の弾丸ーー
「武装技術。死弾」
両方のハンドガンから各3発ずつ、計6発の弾丸は真っ直ぐに駆け抜け、そして命中する。
「ーーうっぐ!」
「がはっ!」
それと同時に聞こえた断末魔の声を、リランは黙って聞いていた。力なく倒れた死体を遠目から見て、リランはため息を零す。
「ふぅ…何度やっても慣れないな」
「隊長。お済みですか?」
「遅かったなカグツチ。刺客にでも遭遇したかな?」
「はい。3人ほど殺めてしまいました。この罰はなんなりと……」
「いいさ。カグツチは日頃からよくやってくれている。気にするな」
リランがそう言うと、カグツチは膝をつき、敬意を表す礼をする。苦笑して返したリランは、そのまま殺したであろう6人の元へと歩み出した。カグツチも、そのリランに続く。
「……武装技術をお使いになられましたか?」
「…………あぁ」
痛い質問をされたと言いたげな対応をするリランに、カグツチは忠告する。
「マスター。お体に触るのであまり無理はなさらないで下さい」
「あぁ分かっている。今後は控えるよ」
そんなカグツチの忠告も、リランの心の芯まで届いてはいなかった。
自分が望んだ結果に到達するまで、どんな無茶でさえもやり通す。その為なら、自分の死など怖くもない。他でもないアイツのために……。
「……?」
距離を縮めるにつれて、リランとカグツチの2人は疑問を浮かべていく。今回殺した6人は確かに息を引き取っている……しかし、あまりにも小さい。
小人族、たまに妖精族の中にはこんなに小さな成人はいるが、こんな都合よく6人ともその中に入るのだろうか…しかし、リランの考えは浅はかだった。
「……なっーー」
「…………子供」
リランとカグツチが見た6人の死体……
天人族の白い羽を生やした者、小人族のように一際小柄な者、妖精族のように耳を尖らせた者、吸血族のように鋭い牙と爪を持ったもの、竜人族のように勇ましい翼を持った者、そして、獣人族のように獣の部位を携えた者……そしてそれらは皆、幼い少女達だった。
「ま、まさかこの子達が…」
「いえ、この子供達ではありません。これはーー」
ガシャン!
カグツチが異変に気づき、伝えようとした時には既に遅かった。二人のすぐ後ろで、大きな物音が鳴り響く。
振り向けば、天井を突き抜けて来たのか、先程にはなかった木材を足元に巻き散らせ、その上には6人の覆面の人物達がいる。
「……なるほど。まんまとはめられたわけか……」
「用心しておくものだな…あらかじめ子供を身代わりにしておいて正解だった」
「わざわざ高等魔術まで使って存在譲与までしたんだ、引っかかってくれきゃ困る」
悠々と会話を交わす謎の覆面達。リランとカグツチは警戒を解くことなく構える。
「存在譲与魔術…そんな汚い真似までして脅威から避けたのか…関係の無い子供まで犠牲にして……」
「おっと?殺したのはアンタだぜ兄ちゃん。それに、アンタらだって関係の無い民衆を殺して回ってるだろうが。お互い様だよ」
この発言に、リランは眉を動かす。
「俺達の正体を知っているのか?」
リランの問いかけに、リーダー格らしき男が笑いながら語り始めた。
「あぁ。そのなんの躊躇もなしに殺し回るスタイル…対全種族反対主義だろう?最近噂のな…」
「…隊長。ご命令を」
残念ながら外で待機している者達は呼ぶ事は出来ない。下手に動けば連絡している所を殺されてしまうだろう。かといってリランに戦えるほどの体力はもう残っていない。
……ここは、カグツチに頼る事しか出来ない。
「カグツチ。この6人…相手に出来そうか?」
「マスターのご命令とあらば何なりと…」
「そうか…なら、頼むーー」
その言葉を残し、全速力で駆け抜けていくリラン。それを狙って、覆面の1人が炎系の魔法をリランに向けて放つ。
「させません。マスターには、指1本触れさせません」
「ひぇー。大事な主はお前を裏切った逃げたってのに、お前は随分と忠実なんだな」
余裕満々の覆面達を前に、カグツチは表情一つ変える事なく立ちはだかる。
そんなカグツチをニタニタと眺めながら、1人、また1人と近づいてくる。
「まぁそんな事はどうでもいい…これだけの上玉…逃す手は無いよなぁ?」
「初めては優しくいかねぇようだな。へへっ。さっさと黙らせてやっちまおうぜ」
そして、それぞれの射程に接近する。自分の周りに立つ覆面達を前に、カグツチは静かに目閉じた。
そして、放つ言葉…。機巧族特有とも言える技術ーー
「武装技術発動。名称、炎舞月華」




