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If.七種目の召喚者(イレギュラー)  作者: 石原レノ
全てが変わる日…変えようと誓った日
112/313

理想と希望

会って何を言う?

取り繕った言葉か?

上目だけのいい言葉は、時に人を傷つけ兼ねない。そんな事は分かっている……でもーー

「…俺はツバメにどう言えば良いんだ」

駆け出した足も、次第に減速しだしていた。自分が今行った所で、ここに来たばかりの人間が…思いも知れぬ赤の他人がかける言葉ほど無責任なものは無い。

そんな事は分かっている…分かってはいても、減速しだしていた足は再び、加速を重ね始める。

「…はぁ。なんか俺にもこんな時があったような……」

思い浮かべるは、まだ自分がこの世界にいなかった時の事。確か今のツバメのような事態に陥った事が自分にあった。耐え難い現実は、昔の自分にはきつかった…。だから逃げた。人生というもの、現実に背を向け、自分の世界に引きこもった。

今思えば、自分は誰かに構って欲しかったのかもしれない。あの時の自分に届いた声も、今となっては助け舟だったのに…自分はそれをきつくあしらった。

あの時の自分の気持ちを…今になって実感させられた。

そしてーー

「………ツバメ、居るんだろ?」

無言の回答。しかし、ツバメはここにいる。そう実感できた。

「…………」

「ツバメ…」

何度か呼びかけてみたが、ツバメが応える様子はなかった。あまり追い詰めることも良くない。そう思いながらも、ハクリの心中には、どこか満足いかない気もする。

確かに追い詰める事はよくない。自身が考える事も、その時間が必要だ。しかし、あまり1人で思いつめていると、精神的に病んでしまう。

丁度いいタイミングで声をかけることは難しいが、今は1度引くべきなのだろうか?

でも、ここで引いてしまえば、次どんな顔をしてツバメの元を訪れればいい?

そんな二つの疑問が、ハクリの脳内をぐるぐると渦をまく。

「…………」

だから、ツバメの考えがまとまるまで、ここで待つことにした。

扉の先の壁に寄り、座り込む。そして考えた……。

あの時の自分を…。


「俺さ、昔家族の本当の事を知ったんだ」

思いを告げる相手は、自分の前にはいないが、構わない。

「その内容が結構きつい事でさ…俺はその後引きこもったよ。誰とも会わず、ずっと1人で時間を過ごしたんだ。つまらないとか楽しくないとかいう感情を捨ててさ、上っ面だけの人生を過ごしたよ」

返ってくるのは感嘆や相槌ではなく、ただただ静かな沈黙だけ。

それでもハクリは、口を止めることは無かった。

「今思えば、その現実に立ち向かえばいいと思ったんだ。逃げるのも一つの手ではあるけど、それはその場しのぎでしかない。いずれはその現実に立ち向かわなければならない」

カタっ……と、微量ながら物音が聞こえた。

間違いない。ツバメはここにいる。

自分の言葉が届かなくてもいい。冷たくあしらわれてもいい…。ただ、昔の自分のように、現実から背を向けることをして欲しくない。この思いだけは伝わって欲しかった。

「立ち向かい方はどんなものでもいい。抗っても、肯定してそれを貫いても。やり方は一つじゃない…ツバメは…どっちを望む?」

つい最近まで、自分が考えてもいなかった事。

世界の調和を保つために人を殺す。

善意的な事をするために、表舞台で悪とみなされる行為。それを分かっていながらも、この組織は動く。何を隠そう…世界のために。

そして、その事実を…憧れを抱いていた対象は、自分が悪と思っていた行為をこなすものと分かった時、自分はどう思うのであろうか。

結果はツバメと同じか、それ以上に深刻なものだっただろう…そう確信した。

「…………」

ハクリが質問を投げかけても、返ってきたのはやはり沈黙だった。さすがに苦笑を零したハクリは、その場に立ち上がる。

「…邪魔したな。また来るよツバメ」

そして、立ち去ろうとした………その時ーー

「……隊長」

半ば諦めていた気持ちが、この一瞬でかき消された。泣いていたのか、目を赤くし、小さく嗚咽を漏らすツバメを目の当たりにし、ハクリは絶句してしまう。

ーーやばい。ここでかける言葉が分からんーー

そんな事を考えていたハクリだったが、次の展開は、案外ツバメが作ってくれた。

「私……私」

「大丈夫だから…だから泣くな」

「でも…でもーー」

再び泣きそうなツバメの頭に、ハクリは優しく手を乗せる。驚いたのか、目を見開いたツバメだったが、次第に顔を赤く染め、涙をこぼす。

その姿を、ハクリは黙ったまま、優しく見守っていた。

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