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If.七種目の召喚者(イレギュラー)  作者: 石原レノ
全てが変わる日…変えようと誓った日
107/313

ツバメ、ツバキと訓練

「全く。隊長たるもの時間にだらしくては他の者に示しがつきません。怠ることなくして欲しいものです」

「す、すみません……はい」

「大体隊長は最初からクドクドクドクドーー」

「ありゃりゃ…隊長怒られてるよ」

「何だか可哀想です…」

自分より年下であろう子達に哀れみの目で見られ、ハクリは恥ずかしくて仕方なかった。こんな時間まで眠りこけていた自分を恨めしく思う。

「…話を聞いてますか?」

「き、聞いてるさ。うん」

ハクリの反応に、アオイは深くため息を零す。申し訳ないと思いながらも、ハクリは苦笑いを浮かべる。

「…まぁいいでしょう。ここを使える時間も限られています。今日はツバキさんとツバメさんの武装技術(ウェポンスキル)を見て欲しくて呼んだんです」

「ほう…2人の……」

前日にユアと訓練をしていた事は、何故かは知らないがアオイの耳に通っていた。メンバーの力を把握しておくのも、隊長の仕事らしい。

「よぉし!やっちゃうよー!」

「き、緊張します…」

そう言いながら、演習会場の真ん中へと向かったツバキとツバメ。

オッドアイを顕にしたツバメは左手を、眼帯をしているツバキは右手を前に出す。それぞれに魔法陣が形成され、得意とする魔法を発動する。

「「我が盟約に従い、汝、我を持って姿を現せ…契約の元、主である我が命ずる」」

「…精霊術か…っ!」

精霊術とは、精霊などと契約を結び、自分の必要とする時に役立てる使い魔として従える技術である。使い魔自体が魔法を持つ場合、契約者は魔力を使わずにすむが、そんな精霊は上級精霊に限られ、ほとんどの精霊使いが自身の魔力を使い魔に送り、間接的に強力な魔法を使う事が多い。

一方…ツバキとツバメはというとーー

「よおっし!」

「で、出来ました…っ!」

召喚されたのは、ツバメには黒い猫。ツバキには白い蛇だった。ツバメの肩に乗るくらいの小さな猫は、シャキッとした背を伸ばしながらお座りをしている。対してツバキの使い魔である白い蛇は、普通の蛇のような少し怖い顔立ちではなく、愛くるしい顔立ちにくりんとした目が特徴で、ツバキの腕に巻きついていた。

「よぉっし!行くよ!クロ!」

「い、行きますよ…シロ!」

各自、足元に魔法陣が形成される。それと同時に、召喚された黒猫のクロ。白蛇のシロは体を発光させる。

「……まさかーー」

その光景を見て、ハクリは懐かしい記憶を巡り返す。思い出したのは、ヤヨイの授業の記憶だ……。


「精霊術は、自分の魔力を使い魔に送り、間接的に強力な魔法を使う事が出来たり、上級精霊なら魔力を消費せずに魔法が使えたり出来る」

黒板に精霊術の詳細を記しながら、ヤヨイは教え子達に授業を行う。寝ているもの、黄昏ている者もいるが、真面目に聞いている者がほとんどだ。

そんな真面目枠の中に、手を上げる者がいた。

「せ、先生…」

「ん?どうしたシノア。何か質問か?」

「精霊術は召喚した使い魔が魔法を使う事しか出来ないんですか?」

「そうだな…具体的にはもう一つ方法があるんだーー」

シノアの質問に答えるように、ヤヨイは新たな術式、内容を書き記し始める。その内容はーー

「精霊武装術……??」

「そう。その名の通り精霊を武具として装備する技術だ。その使い魔に合った武器、特殊スキルを持つから、一見便利そうに見えるが、自分の戦闘スタイルに合った武器になる確率は低いから、そこまで実用化は進んでいないな」

「そんな事まで出来ちゃうんですか…なんだか凄いです!」

「それ面白そう!ミャアちゃんもやってみたぁい!」

「生憎それが使える人は私の知り合いには居なくてな…。また機会があれば見せようと思う…っと、今日はもう終わりだなーー」


「アレが精霊武装術か…」

「ツバメさんとツバキさんは、精霊武装術を得意としています。実戦経験は皆無ですが、前線に出れば活躍してくれるでしょう」

ツバメの使い魔である黒猫は鉤爪となり、ツバキの使い魔である白蛇は大剣となり、装備している右腕から手まで装甲が出来ている。

それと同時に、二人の目の前には、少し頑丈そうな太い木の棒が設置された。

「行くよ!ツバキ!」

「あ、ま、待って下さいよ〜ツバメちゃん!」

先走ったツバメを追いかけるように、ツバキが走り出す。2人は真っ直ぐに的へと向かって行った。

「…速いな」

「ツバメさんは使い魔の武装能力により身体能力が大幅に向上していますから。ツバキさんは…まぁ、見ていたら分かります」

アオイにそう言われ、2人の訓練を見守る。


先行したツバメは、第一閃を加える。鉤爪の鋭い爪痕が、対象へと刻み込まれる。

「次!ツバキ!」

「は、はいぃ〜!」

的の真上、いつの間にか跳躍をしていたツバキが、思い斬撃与える。兜割とはこの事を言うのだろうか。硬そうな木の棒はいとも容易く真っ二つになってしまった。

「は、はえぇ…」

「お2人の実力はまだ未知数です。基本私たちのチームはそんな人ばかりですから」

「…ユアもその1人なのか?」

「…彼女はまだここに来て間もない方です。実践に慣れていないのはおかしな事ではありません」

……と、いうことは、ユアは最近になって機巧族(ギラグティ)になったという訳である。何故かそこに親近感を覚えたハクリだが、そんな邪な感情を、首を降る形で振り払う。

「…そっか…ユアも頑張ってるんだな」

「……隊長のお気に入りはユアさんですか?」

「なっ、そんな事言ってないだろう。俺はこのチームの隊長なんだし、隊員にそんな感情は持たないさ……」

そうだ。自分はもっと強くならなければならない。今までのだらしない性格と態度を捨て、少しでも変わらなければならない。隊長として…みんなを救うために。

ハクリのそんな一言を聞いて、アオイはため息をこぼす。

「……そうですね」

「隊長も一緒に訓練しようよ!」

「え?俺も?」

元気が有り余っているツバメが、ハクリを誘う。恥ずかしいのか、ツバキは背後でイジイジと赤面していた。

「…良いんじゃないですか?そろそろ隊長も私の訓練の成果を見せて欲しいものです」

「あ、アオイさんまで…はぁ……」

ため息を零しながらも、ツバキとツバメの元へと歩み寄るハクリ。

「どっからでもかかってこい!」

「おぉー!隊長乗り気だねぇ!」

「こ、怖いです…」

やる気満々のハクリであったが、アオイの訓練でやっている事は、敵の攻撃を捌く事と、基礎能力の向上だけだ。正直勝てる気がしない。確実に強くなっている自覚はあるのだが、精霊武装術を兼ねた二人を相手するにはまだ少し厳しいところがある…そう思っていた。

しかし、隊長として…一人の男として断るわけにはいかなかった。

「おぉーりゃあぁぁー!」

「つ、ツバメちゃん!そんなに先走ったら危ないですよ!」

先程とは違い、完全にツバメの独断での行動だった。ツバキが戸惑ったようにあたふたとその場でしどろもどろしている。

「いーちげーきめっ!」

「は、はやっ!?」

ハクリの頭上から問答無用とでも言わんばかり鉤爪を振り下ろす。当たれば怪我では済まないような一撃をギリギリの所で避けたハクリは、距離を取るために即座に後方へ跳躍。

「……動けるようになってる……っ!」

今のツバメの一撃にも驚かされたが、自分がアオイの訓練を経て確実に強くなっている事にも驚きだった。

「まぁ、それくらいは出来てもらわないと困ります…」

「えぇー!今の避けちゃうのー!?」

「つ、ツバメちゃん!一人で行ったら危ないです!」

「えーだって隊長弱そうだし私だけでも大丈夫かなぁってさぁ…」

「よ、弱そうか……」

ツバメの先手は失敗に終わった。不満気な顔をしているツバメに率直な意見を言われ、ハクリは眉を動かす。

「2人で!2人でやるのです!」

「むぅ…結局そうなっちゃうんだよね………っよぉし!それじゃあ隊長!2回戦目!いくよ!」

「ち、ちょっと待て!2人で来られたら流石に死ぬ!」

「大丈夫です。演習室でのダメージは全て精神へ干渉します…痛みや傷は伴いませんから……精神が限界に達すると気を失うくらいです」

相変わらずの生真面目さ。アオイは淡々とそう告げる。

「行っくよー!」

「ツバキ…行きます!」

ツバキが先行し、そのすぐ後ろをツバメが駆け抜ける。さて、魔法など使えないハクリはどう戦うのだろうか。

というかむしろ、これは既に戦いではない。よく言えば実践練習、訓練ノ成果の見せ所。

悪く言えばサンドバッグである。

つまりハクリは、今から降り掛かってくるツバキとツバメのコンビネーションを、アオイから教わった『捌き』で避けきらなければならないのである。

それが攻撃手段を教わっていない今のハクリの試練であり、訓練なのだ。

「もう……どうにでもなれ」

アオイ曰く死ぬ事は無いらしいが、それでもサンドバッグになるのは凄く怖い。ならば、ハクリのとるべき行動は一つに限られているわけであって…

「何が何でも捌ききってやる……痛くないにしてもあれは怖いからな」

「さっきみたいには行かないもんね!ツバキ!」

「は、ふぁいっ!」

先行していたツバキが右手に持った大剣の先をハクリに向ける、それと同時に跳躍したツバメがその大剣を踏み台にハクリの頭上目掛けて更に飛び上がった。

「とおおりゃあああ!」

「〜〜っ!」

上からのツバメの鉤爪、正面のツバキによる大剣での同時攻撃。一見回避が難しい完璧な攻撃に見えたハクリだが、即座に頭を回転させる。

……それは、ここに来る前のハクリでは不可能な程の頭の回転率でーー

「……っと」

後ろに軽く飛ぶ感じ……。たったのそれだけで攻撃を回避してしまった。

「ふぇえ…これもダメなんて…」

「な、なかなかやるなぁ隊長」

「俺に出来るのはこれだけだからな……アオイさんの目もあるし」

「時間が時間ですので、そろそろ終わりにして下さい」

「むぅ〜。何か腑に落ちないーっ!」

「あっ!ツバメちゃん!」

ご機嫌斜めなツバメが、またも独断でハクリの元へと駆け抜ける。頬を膨らませ、不機嫌そうな顔を顕にしている。

「私の実力はこんな物じゃないんだから!」

ハクリの目の前で立ち止まり、鉤爪を装備した右手を引く。足で踏み込みを入れ、思いっ切り人を殴る時の体制だ。

「そぉーりゃあー!」

「いや待てよ!それは少々横暴ってもんじゃーー」

「聞こえなーい!何も聞こえなーい!」

まるっきり話を聞くつもりがないツバメは、問答無用とでも言いたげに殴りかかる体制を止めようとはしない。

そんな殴られる対象のハクリに、ふと走馬灯のように流れてきた記憶が一つ……。


「攻撃というものは、ほとんどが防御を捨てて行うことが多いのです。『攻撃は最大の防御』という言葉は正直嘘っぱちだと思います」

「……いきなり信じていた事をぶっ壊された」

「防御は防御。攻撃は攻撃に専念した方が、荒っぽさもなく一つ一つの行動に抜け目が無くなりますから……そしてこれからやる『捌き』は、その防御の一貫です」

「捌き……」

この時ハクリの脳裏を過ぎったのは、合気道だった。相手の動きに合わせて投げ飛ばす……乱暴な言い方ではそうである。

「軽く捌きと言っても、なかなか奥の深いものです……実際に見せてあげましょう」

そう言うと、珍しくアオイが来ている上着を脱ぐ。下に来ていた戦闘用服を顕にし、大人な体のラインがモロに見え、思わず見入ってしまうハクリ。

「…何をジロジロと見ているんですか。早く殴りかかってきて下さい」

「な、殴りかかるったって俺にそんな事出来ませんよ」

ハクリの回答に、アオイは深くため息を零した。

「はぁ…もしこれが実践として、相手が私の様な女性の場合はどうするんですか?何も出来ないまま一方的に殺される事を覚悟しておいてください」

「う…それを言われると…………はぁ」

脆いハクリの意思は、アオイによって易易と打ち砕かれる。寸止めを狙い、ハクリは目の前のアオイに向けて殴るふりを始めた。

「ーーっ!?」

今まさにハクリが拳を止めようとしたその時だったーー。

アオイが不意にしゃがみこみ、1歩踏み込みを入れハクリとの距離をつめる。距離を詰めた事により、自分の左首横を通り過ぎたハクリの手首を左手で掴み、右手でハクリのズボンを掴み上げる。

見事な背負い投げ。ハクリの体は意図も簡単に地面へと叩きつけられた。

「いっつ!!」

「……とまぁ、これがその基本の一つです。攻撃に専念した相手との距離を詰める、または離せば、攻撃の目標到達地点から外れ、攻撃は当たらなくなります。更にそこからカウンターを決めたというわけです」

「な、なるほど……ねぇ」

気を失いそうなハクリを気にする様子もなく、アオイの指導は続く。


という痛い思い出を一瞬で思い出したハクリが、今この時点でツバメに行った捌き……

「ふぇ?」

ツバメの攻撃が当たる直前に右足だけを1歩引き、それに沿って体の向きと位置を変えたハクリ。思いっきり殴りかかったがために体重が前に行き、ツバメは顔から倒れそうになる。自分のすぐ側を、女の子が転びそうになっている。

そう思ったハクリは即座にツバメの首に手を後ろから回し、抱き寄せる。遅れてハクリの元へ到達した足を逆の手で支えるとーー

「ふ、ふぇぇぇえ!?」

「……」

お姫様抱っこの出来上がりである。最初は何があったか分からなかったツバメだったが、次第に頬を赤く染め始めていった。

「え、えぇ……っ!?」

しかし、暴れるといったことはせず、頭から湯気を立たせながらじっとしている。

「えっと…これは不可抗力でーー」

「その光景を見て不可抗力だとは誰も思いません。それより私達が使える時間の終わりが近いので、本日はここまでにしましょう」

「あ、あぁ…ごめんな。ツバメ」

「い、いや…別に謝ることなんて…ないよ?」

下ろされたツバメだったが、頬を赤く染めたままぼーっとしている。

退出時間も近いので、ハクリは早々とその場を立ち去っていった。

「………」

「ツバメちゃん?」

ハクリが去った後も、ツバメはどこかをぼーっと眺めていた。赤く染め上がった頬は、幼いツバメを色っぽく仕立て上げる。それを不安に思ったツバキが呼びかけるが、ツバメは未だぼーっとしたままだ。

「……何だか疲れちゃった。ここが凄いことになってる」

そんなことを言いながら自身の胸を抑えるツバメ。

「え?え!?大丈夫ですかツバメちゃん!医務室に行った方がーー!?」

「い、いや…そこまではないんだよ…多分大丈夫だと思う」

そう言いながら、ツバメは自分の胸部を押さえつけた。

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