この世界のルール
うぅ…春が……春が怖いぃ(´・ω・`)
「では早速行きましょう。私についてきて下さいね」
その言葉とともに職員室へと足を運ぶシノア。ハクリはそんなシノアについて行った。
「この学園広いんだな……迷ったらどうなる事か……」
「迷った時は位置変換魔法陣を使ってください……あれです」
そう言ってシノアが指さしたのはハクリの世界で見る電話ボックスの様なもの。当然電話は置かれてなく、代わりに足元に魔法陣が書かれていた。
「あの箱の中に入って、自分が行きたいと思う場所を頭の中で強く想像して下さい。その付近で一番近い魔法陣の所へジャンプします」
「すげぇな……そんな楽なもんがあるなんて……」
「でも遠くになるにつれて使用者の消費魔力も減りますので……あまり使う人は見ませんね……着きました。ここが職員室です…私は先に戻るので、ハクリ君は今来た道を戻ってきてくださいね」
「え、あ、うん。分かった」
後で魔力の事について、有無をルリに聞いておこうと思ったハクリであった。
さて、ここは職員室なのだ。
ここで問題が1つ。果たしてどのように入室すれば良いのだろうか……てか入っていいの?俺新種族だよ?未確認生物同様だよ?
「ハクリ君」
「ひっ!?」
職員室の前で、試行錯誤しているところでヤヨイから肩をポンと叩かれ、驚愕の声を上げる。
「そんなに驚かなくても良いだろう……まぁ入りたまえ」
ヤヨイに促され、呼吸を整えてから扉を抜ける。
「あれが……」
「ほら、あの生徒ですよ……新種族の……」
職員室にいる職員達にはこういった目を向けられた……。心が痛むハクリである。
「この部屋だ」
「個室なんですか?」
ヤヨイが指定した部屋は、少人数で話すような小さな部屋。ハクリ自身呼ばれた理由は定かではないが、多分内密な話なのだろうと思った。
「まぁ君が聞かれて良いのなら別にここで話してもかまわないが……」
「??……そういう事なら分かりました」
ヤヨイの言ったことに疑問を覚えながらも、個室を選択したハクリ。
「そこに腰掛けてくれ」
ヤヨイと対面するように座ると、ヤヨイは早速口を開いた。
「どうかな?私のクラスは」
「……まぁこれならやっていけそうですね……ただ―」
「君以外に男子がいない……かな?」
ハクリが現時点で最も気になっている事をヤヨイは知っている様だった。
「……俺の気のせいじゃなくて内心ほっとしてますよ」
「それは良かった……それで、その理由なんだがね……」
この学園の趣旨は『立派な職に就く』こと。それにあたって各学年別で学ぶ事が異なる。
ハクリがいる学年は初期の初期段階を学ぶ学年。一応共学らしいのだが、クラスによって男子クラスと女子クラスがあるらしい。
ハクリとルリは緊急で転校してきたがために、ハクリが入るべきクラスに空きがなく、その経緯で女子クラスへと入ってしまった。
「君のクラスの彼女達は君が来たことによって自身のクラスの受け取り方が変わっただろうね。今まで女子しかいなかったクラスに男子が来たということはそういう事なのだからね」
「なんかすいません……」
ハクリの申し訳なさそうな顔を見てヤヨイは薄く笑みを浮かべた。
「なぁに君が変な事さえ起こさなければ良いんだよ……くれぐれも私の彼女達には手を出すなよ。出したら滅するかも知れないからね」
冗談だと信じたいヤヨイの言葉はハクリをゾッとさせた。本人は冗談っぽく笑っているのだが、何か冗談には見えない言い方だったからだ。
…………気をつけよう。
「あぁ……それともう一つ」
先程までの笑みを一変させて真面目な顔をするヤヨイ。
「君がいるクラス……どこか変じゃなかったかな?」
ヤヨイの質問には何処か引っかかるものがあった。ハクリ自身感づいてはいるが、よく分からない。彼女達がハクリにとって異常な存在とでも言うのだろうか……。それは違う世界から来たのだから仕方が無いこと……そう思うと全て承知出来る。
「…………そうは思わなかったですね」
「……そうか」
難しい顔をするヤヨイ。ハクリは何が何だか分からず、ただヤヨイを見つめることしか出来ない。
「この学園のクラス分けはある評価で決まるんだよ」
唐突に放った言葉。当然ハクリには分からなかった事である。
「その評価というものは『仕事貢献確率』『成績』『実技意欲』の3つからなるんだ」
「……その評価と先生の言う俺のいるクラスの女子が関係するんですか?」
ハクリの質問にはヤヨイは頷くことさえしなかった。どうやら図星らしい。ただ真っ直ぐにハクリを見つめている。
「クラスは最優秀クラスの『ゼノ』優秀クラスの『ロイド』普通クラスの『ランド』そして―」
最優秀、優秀といった言葉が出た時点、先程のヤヨイからの『どこか変じゃなかったか?』という質問でハクリは察しがついた。
つまりハクリがいるクラスは―
「君やルリ君がいるクラスで欠陥クラスという別名を持つ『プロトノイド』だ……」
ハクリのいた世界で禁止されていた『差別』。この世界では学園でそれが推進されていた。個々の能力でクラスを分け、最下位のクラスには侮辱と蔑みがもたらされる。
ヤヨイの言葉にハクリはただ黙っていることしか出来なかった。
ヤヨイから驚くべき事を聞いたハクリ。
思いもしなかった事にハクリは言葉を詰まらせた。
ハクリがいた世界で言う『差別』によって、この学園には目には見えない上下関係が近い年の間に出来てしまう。それによって勝者は敗者に負けじと常に勉学に励むという事らしい。
ヤヨイの説明を聞いている中、ハクリは虫唾が走っていた。
「そんなシステムが許可されるんですね……」
「最近の事だ……大六種が新しくなってこの学園も変わったよ……」
「大六種……ですか?」
「この国には君たち以外に6種の種族が暮らしている。大六種はその一種族から1人ずつ選ばれた、いわば種族代表の様なものだよ。ちなみに私も大六種の1人だ……」
「てことは先生もこのシステムについて話をしていたという事ですか……」
ハクリの問いかけにヤヨイは表情を曇らせた。
「私は反対だったさ……しかし数で押し切られてしまったよ……自分の非力さに怒りを覚える」
「…………すいません」
「良いんだよ。それより君を呼び出したのは相談があっての事なんだ」
「………相談……ですか?」
今の話があっての相談だろうか。ハクリは思考を巡らせた。
「……これは決して高い確率ではない……それとあくまで君の意思を聞いての事だから別に絶対に賛成しろというわけでもない……あくまで相談だ……」
ハクリは緊張のあまり唾を飲み込んだ。ヤヨイの表情は何かを企んでいる顔で、瞳の奥には希望を秘めていた。
「……君に大六種……もとい大七種になって欲しいんだ」
 




