零の魔法
起動コマンドと同時に右手が幻想的に銀色にキラキラと光る粒子を放出しはじめる。
場に徐々に粒子が広がった。これは決してX粒子ではない。
X粒子ならばキラキラと目立つように光ることはないし、俺が展開したかった50m四方のスペースを一瞬で満たすことができるからだ。
キラキラと光る粒子をよそに俺はまず手調べに簡単な魔法を打つ。
「イグニッション!」
俺が魔法名を叫ぶとバチっと音がして天井に向かい赤い炎が燃え盛った。
そして燃え盛った場になくなった粒子を急いで展開しなおす。
やはり粒子の制御が甘いな。それが俺の抱いた感想だ。十五cm内に炎を収めようと撃ったのだが、五十cmぐらい燃えてしまっていた。
炎魔法の場合小さくしようとすればするほど俺は粒子を使う。
だが、炎魔法は圧縮すればするほど威力が高くなる。魔法ではあるがボイルシャルルの法則が適用されるのだ。
要するに魔法といっても現象として顕現したときは物理法則が原則適用されるということである。
俺は次に最高の威力の技を撃とうと、さっきよりも広く粒子を展開する。
粒子が煌めき着々と勢力を拡大させていく。わずかに場が霞がかった。
俺は気合を入れる意味も含め叫ぶ。
「煌け・・・・・!」
ズゴォォォン、直後けたたましい音を鳴らしながら稲妻が迸る。
落ちた場所に行くと、しっかりと焦げた後と、傷が残されていた。
一家では高校入学前に部屋の壁に傷か焦げを残すレベルの一撃を放てないといけないという家訓がある。
受験前の俺はそれをギリギリクリアしていた覚えがあるから、威力は衰えていないというわけだ。
なぜ、こんな大層な魔法が部屋の壁に傷と焦げを残すレベルしかダメージを与えられないか。
それはこの部屋がデツボというただひたすらに硬い魔獣の素材を使っているからである。
ちなみにその魔獣はまったく動ないため、囲って窒息させることで簡単に殺せる。なので貴重な素材というわけではない。
次目指すレベルは穴を開ける威力の魔法なのだが、普通の魔法士とちがい鍛えれば強くなるということはないので非常に困難なハードルである(その分衰えることもないが)。
俺は難しい課題のことは頭から追いやり、するべきことを確認する。
するべきことはすなわち、魔法制御だ。まあ、当たり前だな。
魔法制御の練習とは単純で難しい。ずっと制御の難しい魔法を繰り返すものでなおかつ精度はあがりづらいからである。
精度はある一定まで下がりやすいものなので中々に維持するのは大変だ。
もうサボらないようにしよ。俺はひたすら訓練を続けた。
「晩御飯の時間です。」
MCTから安永さんの声が聞こえる。いつの間にか夜ご飯の時間になっていたらしい。
俺は晩御飯に出るため、訓練を辞め食卓を目指した。