安永さん
本当に帰っていく母を見つつ、俺はがっくりと肩を下げた。もし、母の願いを叶えるとするならば、俺は少し待たないといけなくなる。
なぜなら、今帰ったら万一にも会ってしまったら結局一緒に変えることになるからだ。先に帰っている設定なのだから、一緒に帰ってはダメだろう。
無視すればいいと思う人も多いと思うのだが、それはダメだ。過去に俺もうんざりしてこういうのを無視したことがある。その時はとてつもなく大変だった。
母がとても拗ねて、一切の家事をしなかったのである。
家政婦の安永さんの担当だったので食事は出たのだが、洗濯物を取り込んだり干したり風呂を沸かしたり、皿を洗ったり大変だった。
安永さんが居なかったらどうなっていたことか。業務内容が増えたから、ポケットマネーで父が悲しそうに支払ってたっけな。
まあ、そんなこんなで我が家の母が拗ねるととても大変なことになるのである。そんな母は全体的に子供っぽいと思われるかもしれないが、子供っぽい感じなのはそれだけだ。
それ以外は普通の母である。あ、言い直そう。ちょっとユニークな母である。恐らく父もそういった所が良いと感じたから結婚したのだろうな。
もうそろそろ帰っていいかな。流石に、走らず歩いていればもう追いつくことはないだろう。母は亀のように歩く速度が遅いということはない。体格的に考えて俺の方が少し速いくらいだろう。やはり追いつくことはないだろうな。
よし、帰ろう。
帰宅している途中にばったり母と遭遇したり、急に怪しい魔法使いから攻撃を受けるわけではく普通に帰宅した。前者は後に笑えるトラブルではあるが、後者は笑えないトラブルなので辞めてほしい所だ。
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
安永さんか。安永さんは俺が生まれた頃から居るので家族みたいなものに感じるので、敬語を正直使わなくてもいいと思っている。一度、それを言って安永さん自身に窘められたので諦めているが。