魔法士
突如、担任は真剣な顔をして話し始める。
「見ての通り中学校よりは大幅に時間割が増えているだろう。」
「だがしかしそれは仕方ないことだ。MCTなどを扱う魔法工学分野や純粋にX粒子について研究する魔法科学分野には高度な頭脳が求められる。」
真剣な顔をしていた担任だったが、一拍間を置き、さらに顔を強張らせた。
「まあそんなのは僅かな生徒にしか該当しない話だが。もっと重要なことがある。それはこのカリキュラム程度はこなせる力を育成することもとい、ついていけない奴を切り捨てることだ」
普通に考えれば解かる話だ。事実上の軍人学校なのだからそれほど厳しくあっても仕方ない。
ただカリキュラムが少し増えただけなのはむしろ行幸と言えるだろう。
だが、魔法士の家系は上流層が多い。名家といわれる魔法士の家系ならば訓練などをやるのだが、二魔学に来るレベルなのだからやっているような家は少ない。
だからか一部を除き皆から悲鳴が上がっていた。温室育ちの高校生からすれば、このカリキュラムが軍人になるための適性がない者を淘汰するものだ、というのは途轍もないショックに違いない。
だがしかし、隣の火野も全くショックを受けた様子が見受けられないし、佐渡さんも特に何も思っていないようだ。ホームズの子孫云々の話を抜きにするにしてもそれなりの訓練は受けているようだな。
火野も聞いたことがあるような家だしな。何で有名なのかは忘れてしまったが。
ん?まだ一人全く動じていない奴が居るな。その子は黒髪ロングの眼鏡少女だった。感情を入れ忘れられたアンドロイドの如く、無表情のままだった。彼女の心の中は常に無なのだろうか。
まあ、ただ表情が表に出ないタイプなのだろう。驚くべきことではないとしてもあんな無機質な表情を浮かべることはない。
そんなことをアンドロイドのような彼女を視ながら考えていると、彼女が俺の視線に気づいた。
視線に気づいた彼女はこちらを見ているのが不思議なのか僅かに首を傾げる。彼女は少し不思議そうな表情をしているように思えるが、ほとんど無表情である。
不思議な子だな。
「静かに!」
先生が騒ぐ生徒達に業を煮やしたのかそう叫んだ。先生は諭すように言う。
「確かに、魔法士の給料は高い。一般人に比べて厚遇もされている」
「だがな、その分危険なんだ。生半可な気持ちに魔法士にならない方がいい。死ぬぞ」
騒いでいた生徒は一転して押し黙ってしまった。入学式の雰囲気とはとても思えなかった。というか、入学式ぐらい明るく行こうよ……