彼女6
誰だって人肌が恋しい時がある。
あたしの場合、体調が悪い時がその時だ。
「ぅぅ……」
38度の熱を出し、ベッドで唸る。
1人でうずくまっていると、だんだん気分まで暗くなってマイナス思考が頭の中を侵略する。
こんな時は彼氏に会いたいけど、こういう時に限って会えない。だって今日は土曜日だから。
携帯が音をたててメッセージが来たことを知らせてくれた。
「ん、誰……」
彼氏だ。
【シャーペン見つけた】
なんのことかわからなくて、この短い文を見つめる。
あ、あれか。
おととい、彼氏の家で勉強していた時にシャーペンを失くしたのを思い出した。
【ありがと】
と返信した。
そして、ぐーっと睡魔。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
息苦しくて目が覚めた。鼻づまりがとても酷い。重たい腕を伸ばして携帯を見る。
1時間寝ていたらしい。
それと、メッセージが1件。と不在着信が1件。
まずメッセージを確認。
彼氏からだ。
【今から持ってく】
何を?
あ、シャーペンか。
1時間前に届いたメッセージがこれってことは……普通ならもうとっくに家についてるけど。
実際、彼氏は家に来てない、はず。
不在着信を確認すると、それも彼氏からだった。
とりあえずかけてみる。
彼氏はすぐに電話に出た。
『もしもし』
『おう、体大丈夫か?』
聞きたくて仕方なかった声だ。
『大丈夫だよ。えっと、メッセージ見たんだけど」
そういえば、なんであたしが体調悪いの知ってるの。
『あぁ、今向かってる。』
『えっ』
『携帯にかけても出なかったから家にかけたら、あんたの母さんが出て、熱出て寝てるって言うから。』
『から?』
『見舞いがてら行ってもいいか聞いて許可貰った。』
もう、お母さんたら。それならひと声かけてくれてもいいのに。
『そっか。あとどれくらいで着く?』
『5分くらい、だろうな。』
『わかった。気をつけてね』
『おう』
急がなきゃ。
5分で何をするかって?
決まってるじゃない。
身だしなみだ。
ひどい寝癖を誤魔化すために髪をシュシュで横にまとめ、顔を洗った。ついでに部屋を片付ける。
出しっ放しの教科書を棚に入れた時、チャイムが鳴った。
お母さんが玄関に行く音がする。
いつもよりゆっくり階段を下りると、1段目に片足を乗せている彼氏と遭遇した。
「よお」
「ど、ども」
ぎこちない。
「今部屋に行こうと思ってたんだけど。下に用事あった?」
「え、ううん、別に。部屋、行こっか。」
来た道を引き返し、再びベッドへ。さすがにさっきのように布団に入ったりはしない。
「どうぞ。」
自分が座っている横を指差して促す。
「お、おう。シャーペン、ここ置いとくぞ。」
コトッとシャーペンがあたしの机に置かれた。
「わざわざありがと」
「いや、体調悪いときに来られても困るよな。悪かった。」
「全然。会いたかったし……あ、今のナシ、です。」
「はいはい」
って言いながら彼氏が動いた。そして、あたしのおでこに手を当てた。
「つめたっ」
「わりいわりい。若干熱い…か?」
「自分じゃわかんないよ」
そのまま、頬、首、それから手。
「何やってるの?」
「なんとなくな。早く治せよ」
「すぐ治るよ。あたし健康だけが取り柄だもん」
「熱出してんじゃん。」
「でも5年ぶりくらいだよ、熱でたの。」
「へー」
適当に返事して彼氏は手を離した。
「じゃ、俺帰るわ。」
「うん。気をつけて」
「おう、じゃあな」
玄関まで一緒に行こうとしたら断られ、ベッドに入れられた。
2ヶ月ぶりくらいですね。