Scene.01
私の心中は非常に暗かった。雨の中、傘も刺さずに橋の上を歩く。川を挟んで隣り合っている町、この橋を渡った向こう側に私の家はある。よく雨音をピンクノイズだとか1/f揺らぎ等と言う事もあるがこの時の私からすると嘲笑うかの様に聞こえるただのノイズであった。車が続けて2台私の進行方向とは逆にむかって横を通り過ぎる。2台目が道路にできていた轍を踏みこの雨で溜まっていた水が一気に噴き上がる。噴き上がった水は完全に私を捉え見事に私と私の持っていた手提げをビチョビチョににした。車はそのまま止まることも無く走り去る。手提げの中には2冊の小説と財布、鍵入れ、それから小さめのお茶の入ったペットボトルが入っていたがどれも水で濡れて小説に至っては明らかに読めそうもなくふやけていた。ただ怒る気力すらも起きない私をまるでいじめっ子達が卵を投げつけ汚れたのを見て指差し笑いをするかのように世界が私を笑う。傘も刺さず、表情も暗い私を見る目は鋭い。けれども何の気力も起きないでそのままトボトボ家に帰る。住んでいるマンションに着くと私のポストにだけここ2日分の新聞が押し込まれていた。濡れた手でそれを取り出しそのままエレベーターで5階までのぼる。エレベーターを降りて通路の1番奥が私の部屋だった。手提げの底には先程かぶった水と雨水が薄っすら溜まっていた。溜まった水の中から鍵入れを取り出し、鍵を開ける。中は当たり前だが真っ暗だ。ただ見えなくても何があるか位の事は分かった。濡れた手提げを入り口に置き捨て、靴を脱ぎ、そのまま部屋のベットに横たわった。雨に濡れて冷えていたからかは分からないが布団は少し暖かく感じた。何も考えたくなくそのままの濡れた状態で私は眠りに落ちた。