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荒廃世界のワンダーワーカー  作者: 厨二好き/白米良
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第2話 プロローグ2


 【終末戦争(ラストウォー)


 二十二世紀の末頃、起きてしまった第三次世界大戦を後世の人々はそう呼んだ。


 世界に厄災を撒き散らし、文字通り、世界に終末をもたらしたその戦争。それは、第二次世界大戦を終結に導いた災禍の炎であり、“次はない”と、人々を根源から恐怖させた――核戦争だった。


 人類に致命をもたらしかねない大戦の火種は決して消えることなく、いつの時代にもあった。その尽くを、どうにか乗り切ってきた人類。


 一度、核戦争が起きれば自分達に未来はない、ということは誰もが持ち得る共通認識であり、それ故に核戦争というものは、ある意味、御伽噺と言ってもよかったのかもしれない。


 では、何故、自らに止めを刺すと分かっていながら、人類は核戦争を始めてしまったのか。


 それは、【死神の父】と呼ばれた一人の天才科学者が原因と言われている。ロボット工学を始めとした様々な分野で天才の名を欲しいままにしていた彼の名は“パトリック=ゴールドバーグ”。彼が、終末戦争の引き金となった詳細を語るには、当時の状況に言及しなければならない。


 当時、先進国に対するテロ活動が激化の一途を辿っていた。手口は益々巧妙となり、その手口を破った時には、また新たな方法が考案され尊い命が犠牲になっていくというイタチごっこの状態だった。人々は、いつ、どんな形で襲い来るか分からない暴虐に怯えきっていた。


 そんな時である。米国の研究者であったゴールドバーグが、とあるロボットを作り出したのは。


 対テロ用自律型機動兵器――グリムリーパー。


 それは、見た目はただの動物の姿をしていながら、その体内には凶悪極まりない殺傷兵器をたっぷりと内蔵しており、インプットされたテロリストやテロ組織のデータに基づいて、自ら索敵・殲滅を行う最新型の無人兵器だった。


 グリムリーパーは、テロ組織が存在すると思しき国や地域に送り込まれるや否や、凄まじい効果を発揮した。


 何せ、街中で見かける野良犬や鼠、鴉といった動物が、実は致命をもたらす死神なのだ。テロリスト達も警戒のしようがない。しかも、その数は膨大。特に鼠型や鳥型のグリムリーパーはおびただしい数が投入され、人海戦術でしらみつぶしに索敵するので、潜んだテロ組織は次々と発見され、これまた凄まじい速度で殲滅されていった。


 実は、このグリムリーパーという呼び方も、テロ組織側が撤退させるよう各国の人間を人質に取った際に呼んだ名称だったりする。敵に“死神”などと名付けられていることが、テロリスト達が受けた衝撃と恐怖の大きさを示している。


 米国は、散々煮え湯を飲まされたテロリストに一切容赦しなかった。テロ被害が相次いでいたことから国民感情や世界の潮流がテロリズムに対して過剰とも言えるほど敵意を示していたことも後押しとなったのだろう。


 結果、中東を始めとしたあらゆる場所にグリムリーパーが更に送り込まれ――二年、たった二年で主だったテロ組織は、地球から消滅することを余儀なくされた。


 世界から、完全とは言わないまでもテロの脅威がなくなった。この頃だろう。グリムリーパーの生みの親であるパトリックが、人々に畏敬の念を込めて【死神の父】と呼ばれ始めたのは。


 だが、物語のように、それでめでたしめでたしと終わらないのが現実というもの。


 テロリズムとの戦いが終わった後に待っていたのは、グリムリーパーの処遇に関する世界規模の争いであった。


 いつ、どこから襲って来るか分からない。今、頭上を飛び去った鴉が、道端を慌ただしく駆けていった鼠が、ゴミを漁っている野良犬が、あるいは最愛のペットが、いつの間にか鋼鉄の獣と入れ替わっていて、ある日突然、牙を剥くかも知れないのだ、


 魔王を退治した後、勇者自身が脅威とみなされるのと同じように、グリムリーパーもまた、米国の牙となって自国を脅かすのではないか? 世界中の国が、そんな疑心暗鬼に囚われてしまったのである。


 実際、グリムリーパーは優秀すぎた。核を除けば、各国の軍事バランスを崩潰させてしまうほどに。


 そうなれば、当然、各国のすることは決まっている。目には目を、歯には歯を、グリムリーパーにはグリムリーパーを、だ。


 要は、グリムリーパーの技術提供をしろと米国に要求したのである。パトリック=ゴールドバーグがいる限り、グリムリーパーの廃棄をさせたところで、その脅威がなくならない以上、自分達もグリムリーパーを手中に収め、世界の軍事バランスを取り戻そうとしたのだ。


 流石に、この要求を、いくら世界のリーダーを自負する米国でも拒絶することは出来なかった。見えない銃をこめかみに突きつけられたままで、各国が黙っているわけがないのは自明の理だったからだ。それこそ、人々を脅威から守る為に作られたグリムリーパーが、戦争の引き金になってしまう。


 故に、米国は、各国への技術提供を了承した。もちろん、制限も保険もかけた上で、だが。


 この時、パトリックは猛然と抗議した。


 というのも、パトリックは極度の愛国主義者であり、グリムリーパーの開発も、自国民を守る為にと開発したものだったからだ。しかも、手塩にかけたグリムリーパーを自身の子供のように思っており、その情熱は同僚達をして少々行き過ぎたと苦笑いされるほどであった。


 だから、愛すべき祖国の為にと生み出した子供達が、敵になるかもしれない相手に貰われるという事態は、彼としては不本意を通りこして身を引き裂かれるような苦痛であった。それでも、愛すべき祖国からの命令であり、それが世界の為でもあると頭では理解していた彼は、グリムリーパーの技術提供に同意した。


 世界に普及したグリムリーパーは、死神という恐怖の代名詞とは異なり、有用に活用されていった。街中に配備されれば、いち早く犯罪を察知し犯罪者を制圧した。


 世界には、死神達による平和が満ちていた。


 しかし、それは、嵐の前の静けさだった。


 パトリックが、技術提供の為に欧州を巡っていた時、最悪の事態が発生したのだ。


――アメリカはニューヨークにて、核を用いたテロの発生。


 この、歴史上三度目の厄災により、九百二十万人の人々が帰らぬ人となった。


 この悲劇を引き起こしたのは、かつて潰したテロ組織の生き残り達だった。そして、その手口は、何と、グリムリーパーの奪取と使役によるものだった。各国の研究所や施設に数年を掛けて紛れ込み、少しずつ準備を進めていたのだ。


 そして、盗み出したグリムリーパーを使って、どういうルートを辿って手に入れたのかは分からないが核をも入手した。それを、グリムリーパーに持たせて、ニューヨークで自爆させたのである。


 悲劇だった。余りに悲惨だった。パトリックにとっては特に。


 愛国主義者である彼の、自国の為にと心血を注いて作り上げた子供達が、自国で自爆テロをさせられたのだ。それにより、アメリカの中枢都市が壊滅。


 それだけでも、パトリックにとっては耐え難き地獄の責め苦だっただろう。だが、世界の理不尽さは、パトリックに更なる悲劇を突きつけた。


 最愛の妻と娘の死。


 そう、彼の妻子はニューヨークにいたのである。当然、亡骸すら残されず、彼の最愛はこの世から消え去ってしまった。


 愛する祖国の為の子供達は、愛する家族を殺した。否、殺すことに利用された……


 その事実は、パトリック=ゴールドバーグという人間を狂気の沼へ沈めるには十分すぎた。


 この【始まりの悲劇】と呼ばれたテロから数年の間、パトリックは表舞台から姿を消すことになる。アメリカ政府だけでなく、各国政府も死に物狂いで彼を探したが、その行方はようとして知れなかった。


 彼が、再び、歴史の表舞台に登場した時、それが終わりの始まりだった。


 いったい、どこで、どうやって作り上げたのか。彼は、聖書に出てくる三体の神獣を模した途轍もないグリムリーパーと、その他、更に凶悪さを増したおびただしい数のグリムリーパーを率いてアメリカ政府を瞬く間に制圧してしまったのだ。


 その時の記録によれば、あらゆる航空戦力が、たった一体の巨大な鳥型グリムリーパーに壊滅させられ、地上戦力もまた一体の巨獣によって蹂躙されたという。パトリックを止めようとあらゆる手段が取られたようだが、その尽くを様々なグリムリーパーが排除したそうだ。


 そうして、交渉も制止の声も全て無視して、パトリックが行ったこと。


 それは、犯行声明を出したテロリストの祖国に核ミサイルを撃ち込むことだった。それだけでなく、グリムリーパーを奪われたロシアやフランス、中国を中心とした各国も同罪であるとして、容赦なく核を発射した。


 後は、坂道を転がる石の如く。


 世界は核の炎に包まれた。


 多くの都市が壊滅し、放射線が世界を汚し、巻き上げられた粉塵が恵みの光を遮って世界を白く染め上げた。


 もっとも、世界を破壊し尽くした大戦ではあったが、多くの人間が、かつてのテロリズムの蔓延や世界大戦の緊張状態から数多く作られたシェルターに避難し、世界を席巻した災厄から逃れることが出来ていた。


 なので、大国のほとんどが機能を失っていたものの、本来なら生き残った人々によって立て直すことは可能なはずだった。


 それを妨げたのは、他ならぬ死神――グリムリーパーだった。第三次世界大戦の引き金を引いたパトリックは、自害すると同時に全てのグリムリーパーに対して一つの命令を下していたのだ。


 すなわち、“人類の抹殺”を。


 愛国主義者だったはずのパトリックは、どんな想いでそんな命令(遺言)を遺したのか。


 グリムリーパー達は、放射線や放射性物質を取り込むことで半永久的に自立活動が可能という改良が加えられており、更に、どこかに生産工場があるようで、どれだけ駆逐しても際限なく湧き出した。


 これにより、人類は復興もままならず片っ端から駆逐されていった。


 グリムリーパー(死神)の名は、人類にとって確かなものとなったのだ。


 グリムリーパーによる人類の狩り。そこかしこに溢れる汚染地域。核の冬がもたらす極寒と食糧不足。当然、リーダーシップを取って団結を図ろうとした者も多くいたが、そういう者に限って狙い澄ましたように死神の鎌は振るわれた。


 人々の心は復興といった前向きな感情から徐々に離れていき、希望という言葉は忘れ去られ、代わりに絶望が巣食っていった。


 世界も、人の心も、荒んでいった。生き残る為に、倫理観や常識といったものが文明と共に崩壊していき、単純な暴力と恐怖が世界を覆っていった。


 無法時代の始まりだ。


 そうして終末戦争終結から約百五十年。


 この荒廃しきった世界で、人類は緩やかな滅亡の道を歩んでいる。




お読みいただきありがとうございました。


次話の更新は、明日の18時の予定です。

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