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短編集

変わらぬ日々、変わった日

作者: 試作ノ山

 鳴り響く目覚ましの音と共に、一ツ橋和人は目を覚ました。

 部屋のカーテンを開き、朝日を部屋に呼び込む。

 電気ポットに水を入れ、スイッチを入れる。

 お湯が沸くまでの間に、スマートフォンのスイッチを入れる。

 そして『特定受給者専用』と表記されたアプリを起動する。

 今日はいくらかな、っと心で思いながら、画面を見つめる。


 本日の結果

 判定:生

 金額:3000円


 彼にとっては微妙な結果だった。

 心に溜まった少しの不満を発散すべく、スマートフォンを操作してネット掲示板に書き込む。『今日の判定と金額を書き込むスレ』に彼も内容を書き込んだ。

 反応は特になかった。見てみると、下は1000円から上は20000円まで出ている人が居た。最低金額の500円と、最高金額の50000円を引いた人は居なかった。

 ちょうどその時、電気ポットの中身がお湯に変わった。

 彼はコーヒーを入れる準備に取り掛かった。


 特定受給者。

 一定期間の間就職せず、また生産的活動を一切行っていない場合に認定される、

 かつてはニートなどと言われていた存在と似ている。

 特定受給者に認定された場合、指定されたアパートに住むことになる。代わりに家賃、光熱費等は国が負担する。

 生活費は毎日ランダムに決定され、受給者指定の口座に振り込まれる。

 ただし、特定受給者はかなず生死の判定を行わなければならない。

 死の判定を受けたものは、財産および自身の体を国へ売却しなければならない。

 この判定は絶対であり、覆る事はない。

 すなわち、命を担保に延命を行える制度である。


 一ツ橋は部屋でのんびりとコーンスープを飲みながら本を読んでいた。

 今日は3000円しか入らなかったので、朝はスープだけにして、食費を減らそうと考えていたのだ。

 命を担保に生活しているとい自覚は無かった。

 彼にとっては、毎日いくばくかの生活費が自動的に振り込まれる。

 そんな自由な生活だったのだ。

 スープを飲み終えると同時に、本を読み終えた。

 彼は暇になってしまった。

 狭いアパートの部屋には備え付けのエアコンとクローゼットを除けば、テーブルと数冊の本が入った本棚、あとは隅に置かれたと布団と毛布しかなかった。

 パソコンもテレビも無い。買う金が無いのだ。

 男は寝そべって、再び眠る事にした。

 動けば、その分だけ腹が減る。

 何もしないほうが金は使わないのだ。

 男は毛布をかぶって眠る事にした。

 朝日がまぶしかったので、寝転んだままカーテンを閉め、目をじっと瞑った。


 男が特定受給者になったのは2ヶ月前の事である。

 大学を卒業後に就職はできたが、自身の性格と仕事があってなかったのだ。

 結局、一年で辞めてしまった。

 その後、貯金と失業手当で糊口を凌いだが、結局再就職する事は出来なかったのだ。

 仕方が無いため、彼は特定受給者の申請を出すと、驚くほどあっさりと申請が通ってしまった。

 説明会に出席し、制度の意義や説明を受け、必要な手続きを済ませ、彼の特定受給者としての生活が始まった。

 最初の一ヶ月は焦りがあったものの、途中で3万円の受給に当選するとその焦りも消えた。その日は久々に分厚いステーキを味わう事が出来た。

 結局、一日ダラダラと部屋で過ごし、暇になればスマートフォンを弄るか、近場を散歩するような生活を送っていた。

 それが彼の一日であり、それが二ヶ月も続いていた。

 彼の生活に変化もなければ、彼自身も変化することが無かった。


 あくる日、彼は何時ものようにアプリを起動して結果を見る。


 本日の結果

 判定:死

 金額:なし


 この結果を見た時、その日だけは彼はいつもと違う日を送らざる終えなかった。


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