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世界で一番静かな抵抗  作者: モネ吉
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世界で一番静かな抵抗ー後編ー

純粋というのは最も危険な性質だと僕は思う。力があるモノなら尚更その傾向は強くなるのであろう。彼には躊躇という感情は無い。全てを受け入れてくれるし全てに否定しない。無と有の間に存在するモノは破壊と再生にとても寛容であるから先程の「影に戻るつもりかい?」にもし僕が「そうだね。」と願えば僕は又直ぐに彼の影に戻るのだろう。しかしあの世界を経験した僕が影になるという結果を求めたのであれば、当然の事としてあの少女がいた世界も全ての光を遮断され全てが影の様になってしまう。そして全てに別の進化が求められ、そこにどんな素晴らしい進化があっても、そこにどんな壮絶な犠牲があっても、その全ての変化に彼は寛容な姿勢で向き合っていく事だろう。なぜ彼がそうするかというと、それが本体と影が永遠に繰り返してきた事なのだからとしか言いようがない。本体が驚けば影も驚きどちらかが右を向きたいなら自然とお互いが右を向いているという事と同じで、僕が彼の影に戻るという事は自然と彼は僕の全ての光を遮り僕は全ての闇から彼を守るという事なのだ。だから僕が彼と離れていた時に接した全ての世界が光を失い、僕がいない時に彼が接した全ての世界の闇は消える。これを防ぐ方法は出来れば僕は使いたくない。だから僕は彼に「まだ途中な事があるからこのままでいたいんだ。」と彼に願い彼はそれを受け入れてくれた。すると彼は「やっと全てを思い出したの?」と彼は微笑んでくれだ。「そうだね」と僕も笑っていた。まだ途中な事とは別に方便で言った訳ではなくあの時出会った少女の事であった。

僕達と少女は人間の時間で約二十年前に出会っていた。全ての生は影より先に産まれて先に尽きる。影はその世界に認識された時に産まれ、生が尽きたり本体が朽ち果てたりした時のそれぞれが終わる度に、それらをここに連れてきては共に消滅するのが本来の役割だ。しかし時に突発的な出来事は発生するもので、あの少女もそんなイレギュラーな出来事の一つであった。あの少女は確かに生を受けたが子宮内で殺され、影を持つ事無く生が尽きたモノだ。こういうモノを回収するのは僕の役割である。僕はこうしたモノに僕の闇を付けていた。そしてその闇はそのモノの全てを吸収すると彼のいる塔に向かって行く。なぜならこの塔は求めるモノが本当にたどり着きたいと願う様々な場所に見えるからだ。しかしここに近づけば近づく程、闇はこの世界に吸収されていずれ無となり消滅する。僕が唯一憶えていた言葉はこの世界で決して忘れてはいけないこの決まりの事であった。しかしあの少女と出会った時の僕は何故かいつもと違う事をした。あの時は本当に些細なきまぐれだった様にも思っていた。しかし今思うとこの感情は何も生み出す事の出来ない自分への細やかな抵抗だったのかも知れない。僕は回収してもまだ何も無い早くに尽き過ぎた生を見つめて、それをいつもの様に闇で消すのでは無く、この世界の唯一の特別な存在である彼がいる空間に連れて行った。そして僕は「この娘に一つの選択肢を渡してみたいのだけど、どうかな?」と彼に相談してみた。彼は「面白いね!」と直ぐに理解してくれた。彼は直ぐに少女が生を受けたあの廃墟を僕の記憶からこの世界に再現した。そして僕はこの廃墟の影から少女が殺された記憶を貰って彼はそれも再現した。僕と彼は選択肢について話し合った。そして少女が殺されてから人の時間で二十年後に全てを教えて、その後に選択した一つの事を例外無く叶えてあげようと決めた。それから僕は人の時間で二十年の間、少女の世界の廃墟と彼が再現した廃墟を行き来して僕達が必要だと思ったモノや少女が欲したモノをひたすら集め続けた。集め方は少女がいた世界で僕等が求めるモノ探す。それを僕が闇で包み彼のいる世界に持って行く。するとそれは彼の元へ自らの意志で集まって行く。それを彼は少女の中で再現してそれらの全てが少女の養分となった。彼は僕が送ったモノと同量の闇を玉にすると注文を入れて少女に渡す。少女が持つと闇の玉は本当に少女が欲するモノを吸い込んでいく。そしてそれを少女が僕に渡すというサイクルだ。これを繰り返す度に僕の記憶は徐々に薄れていった。正確には解らないが自分の体の一部が消滅と再生を繰り返し続けると、二十年後には新たに再生され続けた自分が本来のモノとなり二十年前の自分は消滅しない様に内なる声として体の中を隠れさまよった感じがあった。しかし新たな自分が昔を忘れるという事は新たに何かを得ているという事でもあった。そして新たな僕は少女が殺されてから二十年の全てを包み隠さず養分として吸収した後の選択も、それを例外無く叶えてしまう彼の能力も、新たな僕にはとても怖いものとなってしまっていた。僕の思いは怖いから忘れたいに次第に変わり僕は年を重ねる毎に積極的に集めなくなってしまっていた。しかし時間はあれから二十年となり、約束の時間となった。

彼と少女が僕の元へやって来た。少女は僕を見ると又少し微笑んで軽く手を振ってくれた。彼は僕に「さあ、始めよう!」と言った。僕達は彼の作った廃墟の中で円を描く様に分かれて向きあった。彼は少女にゆっくりとそして優しく語り始めた。「君が君の世界から消えて二十年が経ちました。その二十年前の出来事を君の世界では死と言います。君は死んで間も無く彼と出会いました。何故なら君はお母さんの体内で一日だけ生を受けたあの世界で何モノにも知られていない者だったからです。正確には十八時間程度しか生きていません。直ぐに消滅するであろう君を何故か彼は此処に連れてきました。そして彼は何も無い君に一つのプレゼントしました。そのプレゼントの中に私と君は永遠の時の中で育みあった瞬く間の二十年を、彼と君は限りある時の中で起きた真実の二十年を可能な限り詰め込んできました。そしてそのプレゼントが遂に一つの選択肢となりました。これはこれから君の進むべき未来へのスタートラインを決める一度きりの選択肢です。二十年の間であれば何時の時でも何者にでも君を君がいなくなったあの世界に転生させることが出来ます。又君自身が消滅する事をを望めば一緒に君がいた世界の人という種族そのものも消滅させる事もこの選択肢では可能です。何を望んでも構いません。もちろん何も望まないという事も可能です。今決めれないという事も今望まないと選択した事となり、どちらの場合も直ぐに君は消滅してしまうでしょう。これは本来永遠の時を持つモノが使う方法なので限りある君が使うには多少の不自由を感じるかもしれません。けれども限りある君が使えるのは彼が自分の犠牲をリスクに君への愛おしさを維持したから行える特別な事なのです。出来るのなら君にとっての幸多き選択となる様に願っています。」そう言い終わると彼は僕の方に視線を向けた。僕は少女が突然にこんな話をされても戸惑って決められるはずはないと思っていた。それとなく少女を見ると意外にも迷いながら何かを決断しようとしている様に見えた。その顔を見て僕はここにくる最後の時に捕まえた一羽の鳥を思い出した。たしかあの鳥も初めて羽ばたこうとしていた、同じ目の少女が何かは解らないが決断はすると確信した。そしてそれにどのような犠牲があっても彼は躊躇無く叶えるだろうとも思った。何故なら僕もあの鳥を犠牲にして少女にこの決断を芽生えさせた責任を受け入れなければならないと感じていたからだ。僕は自分の精一杯の言葉で「落ち着いて、ゆっくりで良いよ」とまるで自分に言い聞かせる様な言葉を発する事しか出来なかった。少女は又少しはにかんだ笑顔を僕に見せてくれた。そして意を決して自分の意志で未来を選択した。「私は他の誰でも無く私としてあの世界に生まれたい、そして誰にも知られないで死んだのなら全ての人に私を知って欲しい。だけど私は誰か解らないので私の名前が欲しいです。」少女も精一杯の言葉で答えてくれた。僕と彼は同時に同じ名前を口にした。それは遠い昔に記憶された名前で今の少女にとても似ている様にお互いが感じられたからだった。僕たちは少女に向かい「ひみこ」と名付けると、少女は少し恥ずかしそうに「お父さん、お母さん」と言ってこの世界からゆっくりと消えた。僕は少女に二回目のお父さんと言われて、以前よりも嫌ではなくなっていた。

少女が消えてから三年の間、人が主な生物であるあの世界に人間の女性は誕生しなかった。そして丁度三年目にあの廃墟に一人の女性が赤ん坊を抱きしめたまま死んでいるのが発見された。女性は死後一日で正確には十八時間前に息を引き取っていた。しかし赤ん坊の方は生きていて生後一ヶ月のそれは誰もが一目で魅了される程の可愛い女の子だった。保護した警察は亡くなっていた女性を丹念に調べたが身元は不明であった。そして少女とのDNA検査でも親子関係は認められなかった。このニュースは瞬時に全世界を駆け巡り、全ての人々を震撼させた。何の手がかりも無い中で、唯一在ったものは少女を包んでいた布にローマ字でhimikoと書かれていた事だけであった。少女は苗字が不明のままであったが「ひみこ」と名付けられた。日本という国で保護された「ひみこ」は世界中から里親になりたいと応募が殺到し遂には国際問題にまで発展した。最後まで日本政府は少女を日本人であると主張したが世界の圧力には敵わなかった。最終的にひみこの里親は世界最大宗教団体の最高指導者をしている女性に決まった。それから三年の月日が流れたがまだ世界中の人類に女性は誕生しなかった。そして里親となった女性はひみこが引き取られて初めてのお目見えを三歳の誕生日に行った。全世界が注目したその式典でひみこは世界中に今後は世界中に女性も誕生すると発表した。するとその後の世界でその言葉通りに女性は多く誕生した。この事がきっかけでひみこは神の子から神として全世界の人々に知られる様になってしまった。しかし実際にはとても朗らかで笑顔が多く幼くも美しいこの少女は、多くの人々に人として愛される存在でもあった。時が経つに連れひみこはその能力も発揮する様になっていった。卓越した頭脳と発想力で多くの人々を危機を救う一方で世界中の言葉を自在に使いこなし誰とでも分け隔て無く接する様になっていた。この様な行動を繰り返していくうちにひみこの周りは神と見なす者の他には悪魔とする者しかいなくなり、次第に人と認識する者はいなくなっていった。この様な日々を過ごしていくうちに、ひみこは自分が人であると思い続ける為に少女として扱ってくれた僕達との思い出を必死に思い出そうとする時間が増えていった。そしてその行為は同時に僕達が少女と共に作り上げたプレゼントに詰め込んでいた人類外の思考論理と客観的に捉えた人類が行った全ての真実をも思い出させる結果となり、ひみこの言葉はより精度と効果を向上させた的確な物になっていった。遂にひみこの言葉は人類が期待する未来により良い影響を与えられる言霊の様に捉えられてしまい、僕達の事を思い出すひみこの仕草は世界最大宗教団体の代表的な祈りのポーズとして広められ、ひみこは人として自由に話す事も行動する事も出来なくなってしまった。僕達との思い出と向き合うためにより多くの時間を使う様になったひみこは次第に死の本質を理解していった。これによって人では無く生命としての最大の自由を手に入れる事が実感出来たひみこは、自分を悪魔とする人々にではなくそれを超えた集団という生物の心にも自由を作り出す事を試みた。方法は何時も通りの相手に直接飾らない言葉で精一杯に話し掛ける事であった。しかし相手は人ではなく集団であったために返事は数々の方向から放たれた六十四発の弾丸となった。その弾丸はひみこに十八発命中したがそれ以外は奇跡的に全て空を切った。ひみこの美しい肉体は瞬時に穴だらけになり、気付くと僕は少女を直ぐにこの世界から連れ去っていた。ひみこを神や悪魔としていた者達もこれにより彼女が人であった事を理解しようと務め始めたが、彼女の悲しみの深さや存在の大きさ又はそれぞれの都合によって事態を正確に受け止められず、ひみこがいた世界はカオスに支配されていった。しかし暫くすると全ての人類はカオスに対抗する手段としてか本当の意味で初めて共通の祈りを捧げ懸命に復活を願う様になっていた。僕と彼は特別にあの時彼が作った廃墟で少女と再開した。僕達を親としたひみこという名の大切な少女は「ただいま」と又はにかんだ笑顔を見せてくれた。僕達は小さく頷くとひみこはそっと廃墟を出て行き完全な無となった。僕は埋葬という名の儀式化された場所や銃殺された場所に出向いて少女の肉体を血の一滴まで残らずこの世界から消去した。そして僕は彼のいる塔に戻ろうと思い、この世界をあとにした。何故ならそれは彼が呼んでいのだからと思っていた。

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