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5話

予約日時を間違えました。……っていうのは嘘で、予約し忘れて寝てました。すみません。ま、あくまで予定でしたからね、と強がってみる。

「宝箱の残りも少ないでしょうね」

「えぇ……」

「…………」

「残り全部が食料ってこともないでしょうし、タイムリミットは近いわ」

 五日目の夜。三人は敦の家で体を休めている。残り少ない食料を三人で少しずつ分け合い、明日のための体力を回復させていた。

 囚われた初日、幼馴染である春奈を失った敦は、翌日の二日目から積極的に行動を起こしていった。

 まず二日目。敦が最初にしようとしたことは物言わぬ骸となった春奈の様子を見に行くことだった。埋葬する時間も方法も労力もないこの空間では、遺体は放置するしかなかった。敦は手厚い埋葬が出来ないことを嘆いた。悔しい思いで五番館の駐輪場に足を運ぶと、なんと春奈の遺体はきれいさっぱりなくなっていた。

 そこで一つ気付く。

 家の前で殺された宗助の遺体も鍵を残して無くなっていたことを。そして、白仮面の遺体は残っていたということに。

 大きな謎は残ったが、それは諦めるしかなかった。春奈の様子を確認することは諦め、敦は次の行動へと移る。

 白仮面の存在を警戒しながら宝箱という宝箱を探し、とにかく片っ端から開けていったのだ。早く仲間を増やしたいところだったが、そう簡単に仲間になってくれるとは思っていない。そのため、交渉材料である情報や食料等を集めることにしたのだ。

 途中中央広場に足を運んだが、予想していた状況――この空間に囚われた人たちが集まった所を白仮面の集団が襲う――の明らかな痕跡は見つからなかった。遺体、血痕などは何一つ見当たらなかった。ただ、鍵だけは散乱した状態で落ちていた。もしかしたら囚われた人たちは死ぬと鍵だけを残して綺麗さパリ体が消えるのかもしれない。正しい答えを見つけることは出来ないが、敦は動き続けた。

 その日、敦は十個の宝箱を開けた。宝箱に罠が仕掛けられていることはなく、怪我を負うようなことはなかった。収穫としては、数日分の食事、衣服、情報、武器といった物だった。

 敦はこれらを手札にして仲間を集めようと考え、その日の仕事を終え床に就く。

 翌日。囚われてから三日目。敦は思い切った行動に出た。いや、この手段なき状況で手っ取り早く仲間を集めるためにはそれしかないといったところだろうか。それはスモークマンションのあらゆるところを歩きながら、大声を上げて仲間の募集している事を伝える方法だった。特に各マンションの前では何回にもわたり叫んだ。勿論これは白仮面をおびき寄せる可能性もあり、大変危険な行為だ。しかし、そうまでもして同士を集めようとしていたのだ。

 叫んでいた内容は、『一緒に行動をしてくれる人は○時に○○に来てくれ。食料や武器、衣服や情報、寝床を提供できる』という簡単な内容だ。

 叫んでいる途中、予想通り白仮面に遭遇したりもした。そのたびに敦は逃げたり身を隠した。その過程で気付いたことがあり、敦は一つの仮説を立てる。白仮面にはいくつかの決まったタイプがあるのではないかと。

 対象を視界に入れるといつまでも追いかけしつこく探すタイプ。一旦視界から外れると興味を失ったかのように違う方向へ身を翻すタイプ。また、それぞれの得物が近距離であるか長距離であるか。数パターンの組み合わせがあるようだが、敦はその組み合わせを完全に把握しようとはしなかった。一度にいくつもの事を熟すだけの余裕は敦にはない。まずは仲間集めと考え、その過程である程度の傾向が予測できただけで十分だった。

 そして半日動き回り、約束の時間に集合場所へと顔を出したのが千佳や紗香、達也を含めた五人だった。

 敦はこの広い空間の中でよく五人もの人が自分の声を聞き取れたなと、予想以上の成果に嬉しく思っていた。だが、事は思い通りに進まないのが常。みんなの中心的存在となり、リードしていこうと主導権を握りに来る者たちがいた。

 敦の下に集まったメンツは、四十代ほどの男二人グループが一つ、二十代の男一人が一つ――つまり達也――、二十代、十歳前後の女二人グループが一つ――つまり紗香と千佳――だ。その中の男二人グループが敦に対し強気に出て来た。この件を主導している敦を年下と知り、自分らが主導権を握ろうと考えたのだ。敦は互いに信用しあうべきだと主張。互いに協力しあい、この殺人ゲームを生き残るんだと主張した。しかし、男二人はそれなら食事、寝床、情報の管理を自分たちに任せてもらおうと言う。社会経験も少ない若造どもなど信用できない。お前たちの物を全て俺らに預けてもらおうかと、そう主張した。

 勿論その案に他の四名、若者たちは反対した。男二人の提案は、暗にすべて寄越せと言っているのと等しい。何しろ、お互いを信用しきれていない内での要求だ。見知らぬ赤の他人に命を懸けたこの状況で全てを任せるなどあり得ない。そんな状況は恐怖を煽る。

 敦は、全員が対等でいるべき。この件を始めた俺がリーダーという事はない。などと自分の考えを伝えるも、グループにはリーダーが必要だと男二人組は主張し、己の考えを曲げなかった。

 しばらく言い争いをしていると、男二人は強硬手段に出て来た。腰に掛けていた刀を敦たちに向け、いいから持っている情報と食糧、鍵などすべてを寄越せと脅してくる。彼らは既に宝箱を開けていたようで、人を殺せるだけの武器を手にしていたのだ。

 その行動に敦以外は動きを止める。彼らの格好はTシャツに半ズボンという、初期装備と言っていい格好だからだ。宝箱の一つも開けていないのだろう。しかし敦は違う。敦は上着で隠していた銃を素早く取り出し男二人に向けた。すると形勢は逆転。誰が見ても武器の優劣ははっきりしている。しかし、自分たちから武器を向けてしまった手前、男二人は後戻りできなかった。撃てるわけがないと虚勢を張りながら、敦に向かって素早く詰め寄り刀を振り下ろす。しかし刀が振り下ろされるよりも速く敦は男たちの太ももを打ち抜く。男たちの悲鳴がスモークマンション中に響く。

 敦は躊躇しなかった。春奈が死に、銃を手に入れたあの時から、敦は死に対する考えが無意識の内に変わっていた。口では死に対し否定的ではあるものの、行動がそれに反している。その結果を敦は自衛のためと納得しているが、自分が生き残るのに必死なのかもしれない。このゲームのルールに縛られて。

 太ももを撃たれた男たちはそれでも敦に一矢報いようとする。敦の近くにいた一人は刀を横に振ろうとする。しかしそれを察知した敦は脳天へと一撃を撃ちこむ。

 その光景を茫然と見つめる若者たち。人殺しと喚く地に伏せる男。

 その時、銃声や悲鳴を聞きつけたのか、一人の白仮面がやって来た。敦含む若者たちは足を撃ち抜かれた男を置いてその場を逃げ出した。しばらくすると、一人の男の悲鳴が再びスモークマンションに響き渡る。

 その後一旦敦の家に若者たちは集まった。表には出さないが、この四人の中での代表――リーダーが決まった瞬間だった。それから敦はみんなに衣服や食料、武器を分け与えた。そしてある程度の情報を公開し、当面の目標は全ての宝箱を開けるという事だと伝えた。

 時は一刻を争うため、話し合いの後すぐから敦たちは行動しようとした。しかし、時刻は日が沈む前。影が伸び切り、辺りはオレンジ色に染まっている。敦は他の三人に今すぐ動こうと呼びかける。だが三人はこの三日間まともに飲食が出来ず、まだ寒いこの時期に半そで半ズボンの格好で夜も過ごしたのだ。体力は限界だった。それを知った敦は三人に飲食と衣類を渡し、一人だけで家を飛び出した。

 敦は三十分ほど宝箱探しを続けたが、それは徒労に終わった。それであるのに白仮面には出会うという不運が続いた。敦は手にする得物で白仮面を排除したりと精神的苦痛を強いられたのだ。それには敦もすっかり参り、日が完全に沈み切る前に敦宅に戻ると、泥沼にはまるかのように深い眠りへとついた。その時には既にほかの三人は熟睡していたことは言わずもがな。

 翌日である四日目は四人で宝箱探しと白仮面との戦いに明け暮れた。

 一番幼い九歳である千佳以外の手は血に汚れた。襲い掛かる白仮面たちの手から逃れるため、必死になって抗った。このゲーム空間から脱出するための方法を模索し続けた。

 しかし命のやり取りをするこのゲーム。そう簡単に事は進まない。なかなか白仮面の存在が減る様子を見せない中、五日目の正午、達也が死んだ。武器を持っていないからと油断があったのかもしれない。三日目四日目と見事白仮面を返り討ちにしていたから。

「…………」

「どうしたの、敦君。ご飯食べないの?」

「加賀さん?」

 この殺人ゲームが行われる空間に囚われてからの事を振り返っていた敦は、食事の手を止めボーっとしていたようだ。

「あ、あぁごめん。ちょっと考え事してた」

 敦は恥ずかしげに頭を掻く。

「何考えてたんですか?」

「こら千佳ちゃん。若い男子が考えてた事を聞こうとしないの。どうせエッチなことでも考えてたのよ」

「えっ、そ、そうだったんですか?」

「こらこら紗香さん。九歳の子供になんてこと言ってんですか。んなわけないじゃないですか。囚われたあの日から今日この時までの事を思い返していたんですよ」

 いたずら顔でいた紗香の言葉を否定し、考えていたことを伝えると二人は神妙な顔つきになる。二人も敦の言葉に囚われてからの苦労を思い出しているのだろう。

 紗香と千佳は、最初は知り合いではなかった。紗香が三番館の北側に位置する二番館の自宅前の七階で目覚めた後、階段を下りていると泣き声が聞こえ、四階に立ち寄ると千佳が蹲って泣いていたという。それが二人の最初の出会い。それから二人はともに行動するようになったのだ。

 二人は運が良かったのか悪かったのか、敦と出会うまで白仮面という存在に出会うことはなかったが、己の鍵に対応した宝箱に出会うことはなかった。そのため、衣服は貧しく飲食も出来なかったため、白仮面と出会わずとも本当に死ぬ思いだったのだろう。

 敦の声が聞こえた時は怪しさも十分あったがもう死ぬ寸前であったため一縷の望みにかけ、敦の言う集合場所に来たという。正確な時間は分からなかったため、早い段階から待っていたとも言っていた。

「今、どれくらいの人が生き残ってるんだろうな」

 敦はぽつりと呟く。

「そうね。飲食せずとも生きられるという三日間はとうに過ぎてるから、かなり少ないでしょうね。白仮面に殺されたりした人も多いと思うわ」

 敦たちは知らない。既にこの空間内での白仮面を除いた生き残りは敦たち三人だけだという事を。

「千佳たち、本当に運が良かったです。加賀さんには感謝してもしきれません。あのままだと絶対に死んでました」

 ご飯粒を頬につけ、胸の前で拳を握りながら力説する千佳。

「は、ははは。どういたしまして」

 敦はその姿に半笑いしながら答える。

「……?」

「千佳ちゃん千佳ちゃん。そんな姿じゃ格好がつかないわよ」

 紗香は千佳の頬からご飯粒を取り口にする。すると千佳は自分の恥ずかしい姿を知り赤面する。

 そんな和やかな様子は夜の間だけ。昼間は生きるか死ぬかのやり取りが行われる戦場と言っていい。その厳しい環境を少しの時だけでも忘れるため、敦たちは実に楽しそうにその晩を過ごした。変えることの出来ない結末が待っていようとも。



◇◇◇



 朝は変わらずやって来る。こんな特殊な空間に閉じ込められていても、太陽は東から昇る。

 敦は朝六時、自然と目が覚めた。敦の右隣には九歳の千佳。そして千佳の右隣には紗香が安らかな顔で寝ている。

 三人はリビングに布団を敷いて一緒に寝ていた。当初、敦は「男子と女子で別々で寝よう」と提案したが、「いくら安心できる家の中とはいえ、こんな状況下で女の子たちだけにして寝かせる気?」と紗香に反論されたのだ。達也は「夜に俺たちが襲っても知らねえぞ」と脅すが、紗香は「そんな勇気もないくせに虚勢張ってんじゃないわよ」と一蹴する。敦は達也に対し俺を含むんじゃねえと心の中で思っていた。

 そんなやり取りもあり、今は達也は亡くなったがこうして三人一緒に寝ているのだ。

 敦は幸せそうに眠る千佳の顔を眺める。どんな夢を見ているのだろうか。家族と幸せに過ごしている夢でも見ているのだろうか。千佳の口に入っている髪の毛を取ってあげ、敦が千佳の髪を撫でていると。

「……ロリコン」

「……おい。俺はロリコンじゃない」

「本当かしら」

 紗香は起きていたようで、からかうような笑顔で敦をロリコン扱いする。

「…………」

「……敦君?」

 髪の毛を撫でる手を止め天井を見つめている敦に、紗香は訝しむように問いかける。

「……何ですか?」

「何か……隠してない? 私たちに伝えてない重要な情報とか……」

 その問いに敦は僅かに一瞬眉を反応させる。しかしそれもほんの一瞬。

「そんな、何言ってんですか。情報は全部明かしたじゃないですか」

 だがそれは嘘。敦は一つだけ明かしていない情報があった。

「……それは嘘。敦君、今眉を動かしたわね」

 しかし紗香は見逃さなかった。敦が嘘をつく瞬間を。

「…………」

「その沈黙が答えになってるわよ。……敦君。敦君が私たちに伝えない情報。多分それは敦君に有利とかじゃなくて、私たちにとって残酷な情報なんじゃないかしら。敦君は利益を独り占めとか、そんな事するような人じゃないもの」

 自信のある言い方をしながらも、紗香の瞳はそうであってほしいと訴えかける、潤んだ瞳をしていた。

「…………」

 敦はすぐには答えられなかった。しかし、ここまで迫られては答えざるをえない。その情報を千佳に伝えるにはまだ早いと考え、敦は寝ている千佳をチラリと見る。千佳は今だ気持ちよさそうにぐっすりと寝ていた。

敦は決心する。紗香に秘密にしていた情報。二人に伝えていなかったそれは……。

「紗香さん……。ここの空間から脱出できる人は、たったの、一人だけなんだそうです……」

 敦は言い切って脱力した。本当なら言わずに、みんなで脱出する方法を見つけたかったのだ。

 敦の告白を聞いた紗香は茫然としていた。

「そんな……。そんな一人だけって、冗談でしょ? 何とかみんなで脱出する方法はないの?」

 紗香は(すが)るような思いで敦に問う。しかしその答えを敦は持ち合わせていない。答えたくとも答えられないのだ。

「すみません。この五日間探し続け、考え続けたけど、ないんですよ。このゲームからみんなで脱出する方法が……」

「…………」

 紗香は手で口を塞ぎ視線を彷徨わせる。何か解決の糸口がないか、必死に思考を巡らせているようだ。数十秒の沈黙が二人の間に続く。

「……そうよね。そう簡単に見つかるわけないわよね。敦君が五日間考えていたというのに」

 額に手を当て天井を仰ぎ見る紗香。

「これ以上隠してる情報なんかはないよね?」

「流石にもうないです」

「嘘は嫌よ?」

「もう嘘はつきませんよ」

「本当かしら」

「本当ですよ」

 そんなやり取りを繰り返し、敦と紗香は絶望を感じながらも笑顔になる。そこに、

「いい雰囲気なところおはようございます」

「いい雰囲気って、おはよう千佳ちゃん」

「あら、起きてたのね」

 二十年以上生きている二人には、九歳による攻撃(ひやかし)も難なく受け流す。それよりも内心焦っていたのは敦が告げた情報。脱出可能人数が一人だけだという情報だ。これがもし千佳に聞かれていた場合、精神に多大なダメージを与え彼女を苦しませる可能性がある。二人にとっては幼い九歳の千佳にはまだ教えたくない情報なのだ。いつかは教えなければいけないが、今はその時ではない。

「敦さん、今日の朝ごはんは何でしょう」

 幸いにも千佳はのんびりとしたいつも通りの様子で、残酷な情報を耳にしてしまった様子はなかった。表情に見せずに一安心した敦と紗香は朝食の準備をし、今日一日の気合を入れるために三人一緒に食事をとり始める。そう、残り少ない食料を分け合い、それは最後の食事となるのだった。



◇◇◇



「静かね……」

「うん……」

「だなぁ……」

 そこは異様な静けさだった。

 三人はスモークマンションの中央広場に足を運んでいた。何故か。それは自分たち以外の生き残りを探すためだ。勿論、それと並行して新たな宝箱探しもしている。今朝の食事で残りの食料は食パン一切れとなったため、食糧事情は危機的だ。何が何でも食料を見つけなくてはならない。しかし敦は、食料はもうないかもしれないとも思っていた。何故なら、囚われてから五日目の日は、ほとんど宝箱を見つけられなかったからだ。宝箱がなければ食料が手に入ることもない。昨日話したように、タイムリミットは確かに目前だった。

「今日はどこを探す?」

「そうね。駐車場や駐輪場はあらかた探してるから昨日の続き、各マンション内を探しましょ」

 敦と紗香は本日の方針を話し合う。そんな二人の後ろでは千佳が何か考え込むように顔を伏せて黙り込んでいる。そんな千佳の様子に気付いた敦は声をかける。

「どうしたの、千佳ちゃん。大丈夫、絶対にみんなで帰れるから」

 そう千佳を励ますと、千佳は敦の顔を正面から見つめ、意外な質問をしてくる。

「加賀さん。今、銃の弾ってどれくらい残ってます?」

「え? っと銃の中に数発と新品のマガジンが一つかな。正確な残段数は分からないけど。どうしたの? そんなこと聞いて」

「何でもないです……」

 それきり再び黙り込んでしまった千佳を不思議に思いながら、敦は二人を伴って四番館へと足を運ぶ。しかし、三番館のエントランスを出て中央広場へと向かって四番館へ行こうと考えていた一行は、いきなり窮地へと立たされる。エントランスを出て右に曲がった途端、敦たちの視界に飛び込んできたのは白い仮面をかぶった二人の存在。そして南側に伸びる長い上り坂の終着、スモークマンションの最南西の位置に一人の白仮面。計三人の白仮面が敦たちの視界へと映り、また白仮面に存在を認識される。

 敦と紗香はすぐに戦闘体制へと移った。敦はベルトから銃を抜き、紗香たちの前に立ち白仮面へと銃口を向ける。紗香は二本のダガーを抜き、千佳の前に立つ。特に相談した立ち位置ではないが、自然と二人の配置が出来上がった。

 三人の存在を認識した白仮面たちは、特に武器らしきものを持っているわけでもなく、超近距離戦闘型のようだ。近づかれたら終わりだ。敦は瞬時のそのことを理解した。白仮面との距離は近くて十メートル。白仮面の身体能力を考慮すると心もとない距離だが、まだ分は敦にある。

 有利な状況にあるうちに戦闘を終わらせたいと思っていたが、三人はさらなる過酷な状況へと追い込まれる。

「加賀さん! 紗香さん! 後ろにも白仮面が!」

 千佳の声に反応して後ろを振り返ると二人の白仮面が来ていた。紗香は位置取りを変え、紗香と敦で千佳を挟む形となる。

 絶体絶命の状況。前と後ろに二人ずつの白仮面。そして遠くにいる一人の白仮面もまたとてつもない速度で敦たちの下へと駆けてくる。

「くそぉっ!」

 敦は声を上げて銃の引き金を引いていく。まず目の前にいる二人の白仮面に向かって高速の弾が飛んでいく。それは白仮面と言えども避けられるような速度ではなく、見事に白仮面へと命中する。しかも発射した数発の弾の内一つは白仮面の頭部へと直撃する。流石の白仮面もそれで生きていられるわけもなく、頭部への直撃による衝撃で仮面を飛ばしながら倒れていく。その時、敦はとんでもないものを見てしまった。それは仮面の下。白仮面たちの正体を知ってしまったのだ。

「岩井、さん……?」

 つい昨日まで共に行動していた男が、そこにいた。仮面がはがれ、素顔のあらわになった白仮面の正体は、確かに死んだはずの岩井達也だったのだ。

「ど、どうなってるのよ……」

「…………」

 明らかに動揺を見せる紗香。驚きに目を見張る千佳。三人は頭に銃痕を残して倒れる達也を見て戸惑う。何故ここに達也が。昨日確かに死んだはずの達也が何故ここに。疑問は膨れ上がるばかりだった。そうこうしている内に紗香の前にいる白仮面も敦たちへと襲いにかかりに来る。

「伏せて!」

 敦はそう叫ぶと弾を二発撃つ。弾の軌跡は見事白仮面へと直撃する。

そしてその死体へと紗香は駆け寄り、白仮面をはぎ取る。すると……。

「なにこれ。あの時のおっさん達じゃない」

 紗香が確認した白仮面の死体は、敦の呼びかけに集まり、情報などすべてを寄越せと言ってきた男たちだった。

 そして最南西にいた白仮面もようやく敦たちの前へと現れる。

「そんな馬鹿な。一体全体どうなってるんだ!」

 訳の分からない状況に混乱する敦。しかし、そんな混乱した状況でも危機は迫る。白仮面はまだ一人目の前にいる。銃に残弾はなく、マガジンを交換しなくてはならない。

 白仮面は敦の数メートル前で止まり、襲い掛かろうとする構えを見せる。その姿に敦は茫然とし交換中のマガジンと銃を取りこぼしてしまう。

 そして敦は呟く。

「はる、な……?」

 見覚えのある構え。それは敦が春奈に怒られる時に春奈が見せる変な構え。そしてその白仮面の体型には見覚えがあった。細い体。透き通るような白い肌。そして決定的な証拠として左腕に並ぶ三つのほくろ。

「そん、な……」

 敦の体から力が抜ける。その瞬間、紗香の後ろから小さな体が姿勢を低くして敦の前へと飛び出す。それは千佳だった。

「千佳ちゃん!」

 紗香は一瞬の事に反応出来なかった。

 千佳は敦の前まで来ると落ちた銃とマガジンを拾い上げ、銃にマガジンを装着し、弾を装填する。その動作によどみはなく、使い慣れているかのようだった。何故、こんな幼い子が銃を容易く扱えるのか。そして何故、彼女の持つ銃の銃口が敦たちに向いているのか。それは誰にもわからない事だった。

「パパとママに会いたいの。ごめんなさい」

 確かなのは、そのあとに二つの銃声が鳴り響いたこと。そして、弾の軌跡が確かに敦と紗香の胸を貫いていた事だけだった。


次話は1時間後の13時に投稿します。これは絶対です。

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