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2話

 ――……あれ? 俺、階層のボタン押したっけ……。

 彼は逃げることに必死で、閉じるのボタンだけを押した記憶が残っていた。

 ――なんでエレベーターが動いてたんだ? どうしてエレベーターが止まるんだ? どうして! どうしてエレベーターのドアが開くんだよ!?

 彼の脳内には次々と疑問が湧き上がる。彼はスマホに向けていた顔を素早く上げる。ドアはすでに半分ほど開いていた。最初に彼の視線内に入ってきたのは、靴。それは白い新品の運動靴。それほど大きくない。女性が履くサイズだ。そして見える白い肌をした脚。それは美しさを極めた綺麗な脚。すらっと長く細い。

 ――今度は、白仮面女なのか!?

 そこから彼は一気に顔を振り上げる。

「ひっあぁああああ~~~!」

 思わず口から出た悲鳴。声は裏返り、心臓ははちきれんばかりに早鐘を打つ。

「ひっ」

「あぁ~~~…………あ?」

「な、何してるんですか、加賀先輩」

「は、春奈か?」

 開いたドアの向こう、彼の前にいたのは想像していた女の白仮面ではなく、彼が住んでいる家の隣に住む一つ年下の幼馴染だった。彼女は大学一年生で今年、彼と同じ大学に入学した非常に頭のいい後輩だ。彼女は彼を家庭教師にしてだが必死に勉強したため、かなりの努力家と言える。彼と彼女が通っている大学は全国でもかなり難しい部類に入る大学だ。

 ――ま、俺はさして苦労しなかったがな。

 と彼は内心強がる。

 彼女は彼の目の前で焦ったように左右を見回し、そして彼の前で腰に手をやり呆れたように溜息をつく。

「はぁ~、敦君の目は節穴? その眼は何のためについてるのよ。それと! 誰かがいるかもしれない状況で私の事を春奈って呼ばないでってあれだけ言ったじゃない。ただでさえ変な噂が立っているっていうのに……」

「はいはい。悪かったよ、山本。でもその噂がたつ原因は全てお前のせいだからな」

 そう、春奈は敦と同じ大学だからということで、敦のバイク通学を利用して一緒に登校している。敦が運転するバイクの後ろに春奈が乗って通学すれば、それはそれは大変美味しい噂が出来上がるだろう。さらに春奈は学校でも敦に気軽に話しかけ、昼食はしょっちゅう一緒に取ろうとし、しかも敦の昼食のために弁当を作ってきているのだ。その弁当はバイクに乗せてもらっているお礼だって春奈は言っているが、敦に真意は分からない。何故なら春奈は嘘が得意だからだ。

「しょ、しょうがないじゃない。だってバイク通学、楽なんだもん……」

 萎んでいく声を聴きながら敦は溜息をつく。

「もういいよ、気にしたら負けだしな。適当に語らせときゃいいんだよ」

「それと、今は誰もいないし、春奈でいいわよ」

 春奈はそう言ってそっぽを向きながら言う。

「……ま、それも当然かな」

 敦は立ち上がり、閉まりかけたエレベーターのドアを再度開く。

「どういうこと?」

 春奈がエレベーターに入ろうとしながら聞いてくる。それを敦は押し返しながらエレベーターの外に出る。今下に降りたらまたあの白仮面男に出会うかもしれないためだ。とにかく敦はここまで経験した状況を春奈に伝えなくてはと考える。

「まずは、知ってる人に出会えてよかったよ、春奈」

「……ねぇ、一体何が起こってるの? みんなはどこにいるの? ってかこの格好なに? 寒いんだけど」

 敦の真剣な様子に、春奈は聞く耳を持つ。敦は順を追って春奈に自身の身の周りに起きたことを説明していく。だが、敦がいくら真剣に話しても春奈の顔は疑心暗鬼に満ちていく。

「……ねぇ、その漫画みたいな設定をリアルにもってくるのやめてくれない? 幼馴染として聞いてて恥ずかしいよ……」

「違うんだって! この話はマジなんだ!」

 しかし春奈は信じる様子を見せない。

 ――くそっ。

 敦は心の内で舌打ちをする。どうしたらこの危険な状況を信じてもらえるだろうか。そこで敦は思い出す。つい先ほど見ようとしていた物。左手に握ったままのスマホ。

「そうだ! これを見てくれ! ってか一緒に見てくれ!」

 そう言って敦は説明書という名のアプリを春奈に見せつける。

「説明書。……なにそれ」

 春奈に一瞬の間があったが、敦は気にせず話を進める。

「春奈もスマホ持ってないか? きっと同じアプリが入ってるはずだ」

「そんなアプリダウンロードした覚えないけど……」

 春奈はポケットからスマホを取り出し、画面をスクロールさせる。すると、

「あった。なにこれ、怪しすぎない?」

「でも現状をちゃんと把握できる可能性があるとしたらこれしかないんだ」

 敦は今度こそとアプリに指を伸ばす。しかしそれをまたも妨げるように、エレベーターのドアが開く音がする。

「んなっ!?」

 敦は油断していた。まさかマンション内にまで奴白仮面男が来るとは思っていなかったのだ。

 ――俺のアホォッ! 

 敦はエレベーターでやって来た者の正体を正確に把握する前に春奈の手を取り、エレベーターと反対側の北側に位置する階段目指して駆けだした。

「きゃっ! な、なにするのよ!」

 春奈が引かれることに少しの抵抗をするも、敦はそれ以上の力で春奈の手を引いて駆ける。

「話は後だ! 今はとにかく逃げないと!」

 その時、慌てて駆ける敦たちの後方から一つの声があがる。

「ま、待ってくれ! 俺は白仮面じゃない! 普通の人間だ!」

「何っ?」

「むぎゅっ!」

 後ろからかかる男の声に敦は足を止める。その際に春奈は敦の背中へと顔をぶつけてしまったようだ。

 後方を見ると、そこには敦たちと似たような格好をした三十代らしき一人の男が息を荒げ立っていた。

「はぁっはぁっ、お、俺の名前は吉良宗助(きらそうすけ)、三十五歳だ。スモークマンション一番館に住んでる」

 吉良宗助と名乗った男は素早く自己紹介を済ます。自分が何者であるのかを相手に伝え、害意はないことを教えたかったのだろう。

 しかしこんな状況でも敦は冷静だった。簡単に吉良という男の言うことを鵜呑みにせず、警戒を解かずに身構えていたのだ。いつでも反撃できるよう数メートルの間隔を維持しながら。

「俺は朝の六時に自宅の前で目を覚ましたんだ。正確には突っ立ってた状態でなんだが。そのあと外に出たら白い仮面をかぶった謎の奴に襲われてここまで逃げ出してきたんだ。信じてくれ! 君らもそんな感じじゃなかったか?」

「……吉良さん。あなたの事はわかりました。たしかに、俺も吉良さんと同じような状況にあって困惑している最中です」

「うそ、さっきの話ほんと!?」

「吉良さんの言っている事全てを信用したいのはやまやまですが、こんな状況です。信用しきれないのもご承知ください」

「いい、いい! それでいいから一緒に行動させてくれ。この状況一人じゃ生きていけ――……」

 宗助が言葉を言い終わるかどうかの瞬間。宗助の鼻先をかすめるように一本の矢が壁にぶつかる。敦たちは矢の飛んできた方へと一斉に視線を向ける。ここは三番館の八階だ。地上から狙えるような場所ではない。つまり矢が放たれたのは三番館の八階と同等以上の高さを持った近くのマンション。二十階建てのスモークマンション四番館から放たれたということになる。

「いた……」

「マジかよ……」

「あんな所からも狙ってくるなんて……。無理だ。俺たちは死ぬ運命なんだ!」

 四番館は三番館より高い位置に建てられ、そして三十メートルは離れた所にある。そんなマンションの三番館側の階段の五階辺りから身を乗り出してこちらに狙いを定めている一人の白仮面がいた。その白仮面が手に持っているのはボーガン。先程の矢もそれで放たれた物だろう。壁に突き刺さらず、敦たちの立つ廊下に落ちた矢はとても鋭利で、人体になどいとも容易く突き刺さるような代物だ。さらには先端部分が若干濡れているように見え、毒が塗られているのを連想させた。体をかすっただけで即死の可能性がある。それは三人を絶望のどん底へと誘った。

「もう、いやぁ……」

「とにかく今は伏せろ!」

 敦は春奈を頭から抑え込み伏せさせる。それに続いて宗助も身をかがめる。

 マンションの廊下には勿論転落防止の壁がある。その高さは一メートル二十センチほどの高さだ。体をその壁に隠せば、四番館にいる白仮面からのボーガン攻撃は凌げるだろう。しかし――

 ――待てよ……。白仮面がマンションの中にいるってことはさっきのチェーンソーの白仮面男もここに来られる……?

「まずい! みんな全力で匍匐前進――」

 敦の叫びが終わる寸前、エレベーターからの曲がり角の廊下にチェーンソーを持った白仮面男が姿を現した。その姿を視界に入れたのは敦だけ。宗助は身を縮こませて震え、春奈は目を閉じ神に祈っていた。

「全力で北側の階段に走れェ~~~ッ!!」

「えっ?」

「はっ?」

 春奈と宗助の疑問の声が聞こえるが、敦はボーガンを持つ白仮面を気にしながらも素早く立ち上がる。その瞬間、敦の頭上を一本の矢が高速でかすめる。矢は敦の髪の毛を数本巻き込み、切り裂いていく。

 敦は立ち上がる速度がもう少し早ければ死んでいたという恐怖に腰が抜けてしまう。だがこんな所でへたり込んでいれば、後ろから迫るチェーンソー男に殺されてしまうのも明白だ。壁から頭が出ないように中腰で駆けることも出来るが、如何せん、それでは後ろから迫るチェーンソー男に追いつかれてしまう。

「きゃあああああ!!」

「何だこいつっ!?」

 すぐ後ろに見えるチェーンソー男の存在にようやく気付いたのか、春奈と宗助が驚きの声をあげる。春奈はすぐそばにいる敦に抱き付き、共に身動きできない状態となる。

「ちょっ、離れろ! 動けねえじゃねえか!」

「いやぁああああっ!」

 取り乱した春奈に敦の声は届かない。

「俺は先に逃げるぞ!」

「あ、待て! 今は立ちあが――」

 敦たちの目の前に一つの物言わぬ死体が出来上がる。立ち上がり、チェーンソー男から逃げようとした宗助は四番館からのボーガンによる攻撃で脳天に矢を受けたのだ。勿論即死。毒も何も関係ない。なんという貫通力だろうか。敦は少しでも気を緩めると股間が濡れそうになるのを感じる。それだけ恐怖のどん底に陥っていた。

 初めて見る生々しい死体。初めて直面する死の危機。敦と春奈は声を失い、身動きできなかった。

 敦たちのすぐ後ろからチェーンソーの唸り声が響く。

 ――終わった…………。

 チェーンソー男が動き始め、敦がそう思った瞬間――

 チェーンソー男は足を止め、ゆっくりと前方に、敦たちの方へと倒れてくる。

「えっ?」

 見上げると、チェーンソー男の頭に矢が刺さっているではないか。倒れこむチェーンソー男。矢だけで即死であるのに、不運なことにチェーンソー男に更なる災難が起こる。それは、チェーンソーが地面との接触でキックバックを起こしたのだ。地面から跳ね上がったチェーンソーは白仮面男の頭に直撃する。高速回転するチェーンソーは見事なまでに白仮面男の頭を割る。血飛沫は舞い、脳髄が飛び散る。正面にいた敦と春奈は見事にそれらを全身に浴びることとなる。

 しかし、そんなことにかまっている暇、吐き気を感じる暇は敦になかった。

 ――助かった……のか……? まさかの同士討ち? あいつらは……仲間じゃないのか?

 湧き上がる疑問。抱き合ったままの敦と春奈。ただただ時間だけが過ぎていく。時刻は朝の七時を迎える。地獄の時は、まだまだ始まったばかり。



◇◇◇



 ――どれくらいこのままだっただろうか……。

 敦と春奈は三番館の八階の廊下中央付近で抱き合ったままいた。互いの存在を確かめるように抱き合い続け、生を感じていた。何しろ死の淵に立たされた状態だったのだ。無論それは冗談などではない。あと数秒後には二人の命は無くなっていたと言って等しかったのだ。

 すんすんと小さな泣き声が敦の耳元に届く。どうやら春奈は恐怖に泣いていたようだ。敦自身も死の恐怖におびえていたため、その事に今の今まで気付かなかった。敦は春奈の頭に手を置き、優しく撫でようとする。しかし、春奈の髪の毛は濡れていた。それもそうだろう。二人してチェーンソー男の血と脳髄を全身に浴びたのだから。敦は撫でることをやめた。血や脳髄を春奈の頭に塗り込むような感じがしてしまうからだ。すると春奈が不意に敦の肩から顔をあげ、体を離す。

「臭い……」

「…………ぷっ、あはははは」

「なんで笑うのよう」

「ははは。確かに臭うな、二人とも」

「うん……」

「生きてる、証拠だよ……」

「……うん」

 敦は春奈を完全に体から引き離し、周囲の様子を窺う。今の所、この三番館の八階まで来る敦たちのような被害者や白仮面たちはいない。それはとても幸運なことだったろう。先程までの精神状態の二人では白仮面が来た場合、即殺されていただろうし、同じような被害者たちが来た場合、二人の死体が転がるこの惨状を見て何が起きたのか間違った想像をしてしまうだろう。

「とにかく、ここから移動しよう。いつまでも同じ場所にいるのは危険すぎる。同士討ちをしていたとはいえ、白仮面たちが連携を取らないとはまだ言い切れないからな」

「うん……。でもどこへ? ここに、隠れる場所なんてあるの?」

「それは……」

 敦には正解を答えることなど出来なかった。いや、敦でなくとも、誰であっても正解など答えられないだろう。敵――白仮面をかぶった謎の人物たちは何人いるのか。どこをどう行動しているのか。全てが不明。ゆっくりと休憩できる安全な場所など、危険な存在の情報なしではどこにも存在などしない。情報が揃ってこそ安全な場所とは初めて存在するのだ。

「今は取り敢えず隠れることは考えないで、追い詰められない場所、逃げやすい場所を探すべきだと思う」

 敦は春奈の顔を正面から見て説明する。

「白仮面の連中が何かしらの武器を持っている以上、丸腰の俺たちに勝ち目はほぼないと言っていい。だから、現状奴らに出くわしたら逃げるしかない。だから視界の開けた場所で逃げ道が複数ある場所がいい」

「そんな場所、スモークマンション群内だと限られた場所しかないよ。管理棟の前か砂利の場所と広場しかないんじゃ……」

 その時、敦はその場所に逃げ込んだ後の、ある可能性について思いつく。

 ――待てよ。その考えは俺でも容易く考え付く方法だ。俺ら以外にもこの空間に囚われている人はいるんだ。そんな人たちもそんな開けた空間に集まるかもしれない。特に中央に位置する広場には。

 敦は南側に位置するエレベーターの先の階段まで中腰で移動する。それはボーガンの白仮面がまだ狙っている可能性を考慮しての姿勢だ。

「ま、待ってよ。どこ行くの?」

「階段まで行って広場を見てみる」

「そこだとフェンスだからボーガンに狙われない?」

「たぶん大丈夫だと思う。三番館の八階を狙えるような場所はさっき白仮面がいた四番館の西側の階段しかない。他は場所的にボーガンの射程を超えてる。四番館の各階のベランダからならそこの階段も狙えるけど、家の中に入れない以上ベランダに出ることも出来ないからな。……まぁ、奴らが家の中に入る何らかの手段を持っていた場合は別だが……」

「そ、そうね……」

 敦と春奈は中腰のまま南側の階段まで移動する。敦は春奈の進行を止め、自分だけ慎重に視界の開けた階段へと左手を突き出す。犠牲になるなら利き手ではない左手を選んだためだ。

 緊張した短い瞬間が過ぎる。左手は矢に貫かれることはなかった。さらに慎重を期して敦はゆっくりと足を突き出す。そして半身を乗り出し、顔を覗かせる。

「…………ボーガンの白仮面はいなさそうだ……」

 敦の耳に春奈の安堵の溜息が聞こえる。敦自身も内心溜息を出すもそれをおくびにも出さなかった。春奈の手前、自身がしっかりしなくてはという責任感からだろうか。

 敦にとって春奈は世話の焼ける可愛い妹みたいなものだ。スモークマンション群が完成し、敦たちがこちらに越してきた当時、春奈たちも敦の家の隣に越してきた。それからというもの、同年代の子ども、もしくは年の近い子供がいるということで家族ぐるみでの付き合いが始まり、幼稚園時代から敦と春奈は共に同じ時と場を過ごしてきたのだ。

 敦はもう家族同然なそんな春奈に対し、守ってやらねばという思いが起こるのは当たり前な思いでいた。まぁそれを迷惑がるかありがたく思うかは春奈次第だろう。だがそんな敦の苦労に気付いていない可能性も否めないが。

 敦は身を完全に乗り出し、南階段から覗くと見える広場を見下ろした。そこには敦の予想通り、この空間に閉じ込められた複数の人が集まっていた。囚われた詳細な人数は全く分からないが、敦には少なくとも十人以上の人が閉じ込められていると感じていた。それは完全なる勘だが、敦は自身の感覚を信じていた。

 広場に何人かの人が集まっていることを春奈に告げると、彼女は心配そうに敦に訊く。

「大丈夫……なのかな……」

「それは……俺にもわからん。ただ、白仮面の連中がただの殺戮マシーンみたいじゃなくて、もっと知的な存在だった場合、広場に人が集まることも考えるんじゃないかとな」

 そう、敦はこう考えていた。広場に人が集まるのを見越して、ちょっとしたことを起こしてみんなの考えをそこに誘導する。その後、集まった人たちを皆殺しにするかのように一気に攻め込む白仮面たち。用心するに越したことはないが、そんな知的な存在である可能性もあるのだ。あの白仮面たちは。

 さらには人とは危機的状態に陥った場合、本性をさらけ出す。自分が助かるためならば、他を犠牲にして生き残ろうとする。それは数多の事件、災害から推測できることだ。今回の場合もそうだろう。もし、人が集まるあの広場に白仮面が襲撃した場合、他を囮にして自分だけ逃げようとする者が出るに違いない。その可能性を危惧し、敦はどうしても広場などの開けた場所へと行けなかった。純粋な力では劣る女という存在である春奈がいるためだ。彼女が最初の囮として取り残され犠牲になる可能性は高いのだ。

 可能性ばかりを考えている敦だが、この状況だ。出来うる限りの可能性を考慮し、慎重に慎重を重ねて行動を起こす必要があるのだ。

 謎、無知は恐怖だ。対象となる存在の情報を知らなければ、人はその対象に対してなんら正しい行動を起こすことも出来ない。ましてやその対象となる存在が自分の命を狙っているともなれば、余計に無知は死を早める。

 とにもかくにも、二人はあの白仮面たちの素性を早く把握しなければならなかった。

今すぐ広場で事が起きる様子はない。

「ようやく、落ち着いてこれが見れっかな」

 敦はポケットからスマホを取り出した。スリープモードを解除し、目的のアプリ――説明書をタップした。

 だが、その行動さえも本来なら迂闊と言えるだろう。


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