第15話 vs水龍
ボルトアが放つ水属性魔法を悉く無効化したオレに、魔法学院理事長様は早々に戦線を離脱。
後始末を『水龍』に押し付けた。
いやはや、素晴らしい他力本願っぷりだな。
いや、勝てない相手に無理はしないという勝負の鉄則をきちんと遵守しているとここは褒めるべきか?
判断に迷う所だ。
『ふん、属性魔法の軽減装備か?なるほど、魔法使いとは相性が悪すぎるな』
さすがオレの自信作。
もう見破ったか。
だが、オレのステータス値までは見透かせないようだな。
ちなみに言うまでもないだろうが、オレのお気に入りである上位龍種たる『水龍』は限界突破をもつ。そのレベルは75である。あくまで作成当時の数値だが成長してても1か2だろ。
あまり誤差はないはず……そう信じたい!
「やれやれ、レベル40で上位龍種との戦闘とか……どんなムリゲーだよ」
普通は下位龍種だろ、ここは?
愚痴を言ってても始まらんがな。
『人間よ、我の退屈しのぎに精々あがけよ?あっという間に勝負がついたなら楽には死ねんぞ』
おいおい、どんだけ物騒な発言すんだよこの大蛇は。
オレこいつをこんなに残虐な性格に設定したっけ?
身構えるオレに、『水龍』が動く!
先制は『水龍』の中位水属性魔法で戦闘は開始された。
周囲を囲む湖から複数の水の塊が浮かび、瞬間的にオレを包囲する。
そして瞬きの間に一つ一つの水の塊がおよそ4メートルはあろうかという巨槍へと変形、その数は10以上は確実。
その一本一本が必殺の凶器がほぼタイムラグなしでオレに殺到する。
避ける暇など一分一寸もなし!
だが『神器級』のマジックアイテムとステータス値によって水の巨槍はオレを貫くことなく霧散した。
だが……
「一瞬とはいえマジックアイテムと拮抗したよな?……どんだけのINT数値だよ?」
しかも今のはあくまで水属性の中位魔法だ。
……上位でこられたら突破される可能性もあり得るな。
そもそもさっきの《アクアランス》からして大きさから魔力の質まで人間と比べて桁違いすぎるんだよ!
なんだよ4メートル超えとか!
しかも魔法展開早すぎじゃボケーー!
……いやいやそもそも人間と比べる相手じゃないよな。
なんと言っても龍種だし。
上位存在たる『水龍』だし。
オレ直作の自信作だし。
…………やべ、鬱だ。
とにかく『水龍』の先制をやり過ごしたわけだが、実戦はターン制などではもちろんない。
次はオレのターンだ!!
とかないし!
『水龍』はお構いなしに水魔法を次々と放ってくるが、どれも決して本気ではない。
あくまで様子見、互いに手の内を探りあう展開に………
『キシャアアアァァ!!』
なるわけないよね、やっぱり!!!!
『水龍』が魔力展開したレーザービームがマジックアイテムの加護を突き破る!オレはそれを半ば勘で回避!
無事?レーザービームはオレの後方に……っておい!
レーザーの着弾地点の地面がシャレにならんくらいに抉れているぞ!?
『ほぅ、アレを避けるとは……褒めてやろう人間。アレを見て無傷だったのは貴様が初めてだ』
にゃろ~、創造主に対してなんて上から目線だ!
しかしさっきのは龍種限定スキル《龍気砲》か?
貫通に特化したスキルを使うとは殺す気満々だな。
「当たらなければどうということは…」
『なら当たるまで撃つだけだ』
それからシャレにならんくらいの弾幕でオレは一方的に攻撃され続けた。
何せ直撃=死だ。
掠っただけでも肉を削られ、骨をも残さないのだから回避に専念せざるを得ない!!
一秒一秒が濃厚な時間は時の経過が妙に遅く感じる。
時間の進みは一定だなんて嘘だと断言したいくらいだ。
ひたすら回避に専念しているが今の所は全弾回避に成功中……だがこの先は分からない。
いつかは当たる。
100%、絶対に当たらないなんてあり得ないのだから。
しかし絶対強者たる龍だってMPは無限じゃない。
いつかは《龍気砲》だって使用不可限界が訪れるはず……!
問題は、オレの体力と気力が持つのか?その一点だ。
『よくもまぁこれだけの《龍気砲》を連続で回避できるものだ……人間風情が生意気だな』
チッ、好き勝手言ってくれるなこの大蛇は!
だが、こいつを独力で倒せる実力があると証明できれば、あの団長にも勝てる…………かもしれない。
『しかし……人間にしては妙に濃密な魔力量を秘めているな。貴様は人外の類いか?』
「…………」
さて、どう答えるか?
人間と言われれば中身はそうだが、人外と言われればその通りとも言えるし……自分の事を詳細に問われると中々に答えにくいな。
『ふん、話す気はないか。ならば貴様には喰われる以外に価値はもうないな』
……あぁ、やっぱりそうだったか。
今の『水龍』の発言でオレは察した。
龍は基本、食事は必要としない。この世界に満ちているマナがその身体を形成しているから栄養を取り込む必要がないからだ。だが……別に食えないわけじゃない。例えば良質な魔力を秘めた生物を見た龍は小腹がすく。そう、それは龍にとってはオヤツのような物。食う必要はない。だが食わない必要もない。
ならば後はその龍自身の気まぐれでその生物の未来は変わる。
あっさりと、簡単に。
「お前、アリアを喰っただろ?」
『アリア?……誰だそれは?』
……いちいち喰った生物に欠片の興味もなしか。
まぁ、人間が家畜を食う感覚と一緒みたいなもんか。
「一週間ほど前に、お前が喰ったこの学院の女生徒の名だ」
『……おぉ、ボルトアが我の為に用意した小娘か。なるほど、それがアレの個人を指す記号か。アレの名は覚えていないが、味の方は中々にうまかったので覚えているぞ』
……『龍』や『魔獣』にとって上質な魔力持ちの人間は美味だとオレが設定したから知ってたよ。
当たってほしくない時につくづくオレの予想は当たるな。あぁまったくムカつく位に!
「そうか。まぁもしかしたらとは思っていたから驚きはしないよ」
そう、驚きはしない。
最悪の想定はしていた。
だから茫然自失には至らない。
だが……怒りまでは抑えられないんだよな…………!
オレは『水龍』に向けて全力で『緋紅の剣』を投げつけた!当たれば龍種といえど貫通間違いなしの必殺はしかし、『水龍』の必殺でもある《龍気砲》と衝突、すさまじい魔力と魔力のぶつかり合いは互角だったのか相殺、瞬間衝撃波が互いの必殺がぶつかり合った場を中心に発生した。
『なんという魔力量を秘めた剣だ!!まさかあれは《宝具級》か!?』
『水龍』が何か驚いているが知ったことか。
あんな剣程度はいくらでもあるんだよ。だが《龍気砲》は少々厄介だからあれを突破する必要がある。
《宝具級》で駄目なら《神器級》だな。
オレはアイテムボックスからソレを掴みとる。
『……?…………!!ば、ばかな…………!!?』
『水龍』が絶句している原因は間違いなくオレが手にしている剣を注視しているからだろう。
それも仕方ないことか。
だってこれは……
『なぜそれを貴様が持っている!!それは、その神器は……!』
悲痛とも言えるくらいの叫びを『水龍』は上げるが、オレが懇切丁寧に説明するとでも思っているのか?
ただの娯楽感覚でアリアを喰った貴様に?
「教えるわけねぇだろ」
オレは一気に『水龍』へ接近せんと踏み込む!
『水龍』はオレが持つ《神器級》の剣を恐れるあまり無茶苦茶に魔力を展開。
10…いや20……どころじゃなく50くらいか?
『水龍』の周囲に魔力展開されたのはスキル《龍気砲》。
それだけだ。
その全てを……オレだけに放つ!
点でも厄介極まりない《龍気砲》が面で放たれればオレに逃げ場はない!
…………逃げる気は愚か、避ける気もないがな。
迫り来る《龍気砲》その全てを、オレは次元ごと切り払う!
たった一振。
それで約50の《龍気砲》を無力化……だけにとどまらずその向こうにいた『水龍』をもオレは両断した。
『あ…………か…………』
「……死ね」
一刀のもとに両断された『水龍』の身体はズルリとずれ落ち、血飛沫を撒き散らしながら、湖の底に沈んでいく。
「あとはボルトアか」
アリアの仇…とは言わん。
これからするのはただの……八つ当たりだ。