第13話 真実
さて、真実は?
「ヒャハ…ハハハハハハハハ……」
壊れたように笑っているのはこの学院の副学院長様だ。
常日頃、穏やかそうに見える初老の男を、羨望の眼差しで見つめる生徒達にはややショッキングな場面だ。
まぁこんなんでも大陸有数の魔法使いらしいが、今は十代の小娘に足蹴にされているんだから壊れたように笑っていても仕方ないか?
いや事実、壊れたのかな?
どちらでもオレはまったく構わないがね。
「ヒャ…」
「やかましい」
飽きもせずまだ笑おうとしていたので、うつ伏せに寝転がっている副学院長の背中を手加減して蹴る。
「ヒィィィィ!お許しを!お許しをーー!!」
…少々、この副学院長様の心を壊しすぎたかな?
こいつの今後の人生などは正直、どうでもいいが聞きたいこと位は話してくれる精神状態じゃないとオレが困る。
火の上位魔法『カグツチ』すらも傷一つなかったオレを見て、精神崩壊一歩手前まで追いつめてしまったらしい。
壊れたように笑うか、恐慌状態を繰り返すだけで話一つ聞けやしない。
「おいおい、オレと同じで魔人の配下なんだろ?なんでそんなにメンタル面が弱いんだよ」
そんなヤワな精神じゃあ黒騎士団じゃ生きていけないぞ?
あそこには基本、鬼畜変態な連中しかいないからな……あ、オレは別だけど。
てか唯一の常識人だし。
「ほら、さっさと知っている事を話せ。そうすれば……」
言外に助けてやると理解した副学院長は先ほどとは違ってペラペラと喋りだした。
…………話を聞いていく途中でオレの眉間のシワが徐々に深くなっていくのが分かる。
どうも魔人サイドではアリアの一件に関わりはないらしいからだ。
関わっていたのは、魔法学院での副学院長権限で好き勝手に出来たマジックアイテムを、支配者たる魔人に横流しした位か。
ちなみにナトアは運悪く、たまたまその事に気付いたから口封じに殺されたらしい。
わざわざ自殺に見せかけて。
どうも第一発見者だった警備員も副学院長の手によって用意されたサクラだった。
いやそもそも警備員自体が殺害担当者だったらしい。
絞殺する予定が、思いのほかナトアに抵抗されて刺殺に変更したのが真実。
一番困ったのは死体を処理する役目のドルイドだっただろう。
なんせ絞殺予定の自殺死体がどう見ても刺殺された他殺死体だったのだから。
事実の発覚を恐れた副学院長の指示により、早急に地下墓地へと弔われる事になったのは苦肉の策か?
しかし、すぐに何者かがナトアの自殺についてかぎまわっていると気付いた副学院長が死体の移動をドルイドに指示。
その現場にオレが現れて今に至る、と。
……ならアリアは一体どこに?
ナトアの一件とは無関係ならアリアの失踪は完全に別件だということになる。副学院長に痛みと恐怖を用いて問いつめてみたが、本当にアリアに関しては知らないらしい。
…………とりあえずは保留か。
今は手がかりがない。アリアの件から先に片付けようと思っていたのに、計らずも任務が先に片付いてしまうとは皮肉な事だ。
おっとまだ完全には終わってないな。
無様に地面に這いつくばる副学院長の首をあっさりとはねる。
よし、これで完璧。
「団長に対しての報告は後になるが……ここからはアリア捜索に専念させてもらうとしよう」
そうしてオレは深夜の地下墓地を後にした。
翌日、副学院長の放った『カグツチ』によって一切が蒸発した地下墓地は魔法学院の教員以外、立ち入り禁止になっていた。
そのことに興味をもつ生徒はあまりいなかったが。
何せ男子生徒は副学院長が、女子はドルイドが行方不明になったことにそれぞれあらゆる噂が飛び交っていたからだ。
つい先日には学院でも優秀な生徒だったアリアが行方不明になっていた事から、いなくなった三人はその魔力を狙われて何者かに拐われた…というのが今は生徒達の間では一番有力になっている始末だ。
いやアリアは知らんが副学院長とドルイドはオレが殺したからアリアの件とは関係ないし。
ドルイドの死体は副学院長の『カグツチ』で消滅したが、副学院長の死体はそのまま放置してきたから拐われた云々の噂はじきに消えていくだろう。
……あくまで魔法学院側が副学院長の死を隠さなければだが。
そしてどうにもそんなオレの予感は当たってしまうらしい。副学院長の死から一週間経過したが……その死は生徒達には公表されなかった。教員関連は知らんが、見た感じ出会う教員一人一人の表情が固いことからそれで察した。
さすがに教員レベルでは隠しとおせないわな、仮にもこの魔法学院のNo.2だし。隠しきれるのはあまり接点のない生徒までとは予想できたので意外でもなんでもなかったけどね。
さて、オレはそんな一週間を無為に過ごしてはいなかった。来る日も来る日も調べる事はアリアの行方……だが何もつかめなかった。
手がかりはゼロ!
まずい、とオレは少なからず焦っていた。
何せ任務は終わって報告すべきなのに、未だ本拠地である古城に帰らず自分だけの都合と判断でここに残っているからだ。
今はまだ何とかなるだろうが、あまりにも帰りが遅ければ団長が三人衆の誰かを派遣するかもしれない。
不味い、まずい、マズイ!
これはもやは時間との勝負だ。
切羽詰まって焦る脳内とは逆に、一部やけに冷静な部分の脳内が同時に思考していた……しかし何故、学院側は副学院長の死を隠すんだ?
要らぬ混乱を避ける為に?
確かに副学院長の死は生徒達に大きなショックを与えるだろうがいつかは知られる事だぞ?
ならばタイミングを見計らっている?
現時点での発表は駄目?
ならば後日はいい?どうして?
……………………なるほど、そういう事にしておいた方が都合がいいわけね。
ならば、オレの予感が当たっていた場合は……
…少々、いやかなり嫌な真実を目の当たりにしなくちゃならなくなるな……………………
さて、そろそろアーシャ単独任務編はフィナーレです。
副学院長の言葉は真実だったのか?
アリアの行方は?
なぜ学院は副学院長の死を隠すのか?
アーシャの予想は的中しているのか?
おそらく次話か、次々話でそれがわかりますのでお楽しみに~。