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仮想世界の創造神  作者: カナメ
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第8話 儀式

左腕が剣を弾く。

しかしそれは予想以上の重さだったのか、キラは完全には受け流せていない。

故に準備していたカウンターは中止、防戦続行。



更にオレは追撃の手を休めはしない。

それら全てをキラは時には腕で、時には足でことごとく受け流す。



「相変わらず器用な事で!」



キラを賞賛しつつ、手は休む事なく動かす。時には足も。



「君は足癖が悪くなったね」



防戦一方の黒騎士に、しかし焦る様子は一切ない。

現にオレの死角から繰り出された膝蹴りを難なく右手で防いだ。

どこに目がついてんだと叫びたいが、オレも他人の事は言えない。

咄嗟にかがんで死角から投げられたナイフを避ける。



「左手にそんな物騒な物を仕込んでたのか!?」



「常日頃からね。敵が暗器使いっていう場合もあるだろ?」


「騎士がガントレットの隙間に仕込むか?」



「あらゆる状況」



「あらゆる場面を想定しろ、だろ?」



キラの膝蹴りを掌底で防……ごうとしたが手の甲で膝横を受け流す。

直後に膝から飛び出す仕込み刃。



「お前は全身凶器だらけか!」



「何を今更。オイラはこちらがメインだよ」



「今日初めて知ったわ!体の各所に物騒な物を仕込みやがって!」



迂闊に防げばこちらが危ない。

攻めると同時にカウンター付きとか。



「しかしアーシャもいい動きするようになったね。あの頃に比べると見違えるよ」



「どこぞのドS変人のおかげでな」



軽口を叩き合いながら拳と蹴り、時々凶器が交じり合いながらも時間は経過していく。

終わりの見えない訓練を止めたのは



「そこまでにしておけ。キラ、会議の時間だぞ」



団長様だ。

これにはさすがに従わないと後が怖い。オレとキラはどちらからともなく間合いをとり訓練を中断した。



「もうそんな時間でしたか。時が経つのを忘れてしまいましたね」



「くっ今日こそはドS変人の首をとれると思ったのに……!」


オレは憎々しいと言わんばかりにキラを、ついでに団長を睨む。



「俺様にまで絡むな。キラ、さっさと来い」



「了解です」


中庭から立ち去る二人を憮然と見送りながらも、オレは自己鍛練に励む。

あれから更に半年が経過した。

オレが仮想世界に閉じ込められてからついに1年。

未だにオレは黒騎士団の見習いから卒業出来ずにいた。










「キラ、アーシャはどうだ?」



「使えると思いますよ。この半年でオイラに暗器まで使わせるほどですから」



「そうか」



団長はどうやらあの少女にご執心のようだ。

訓練が終わる度にこうやって経過を聞いてくる。

確かに有望ではあるがここまでくるとまるで年頃の娘をもつ親の心境などと邪推してしまう。



「そろそろアレを正式に団員にするつもりだ」



脈絡もなくいきなり発せられた内容は恐らく今日の会議内容だろう。

団長が口にしたからにはほぼ確定事項のはず。



「ついに正式な団員決定ですか?」



「あぁ」



オイラにしてみれば件の少女はすでに相応の実力は兼ね備えているので反対理由はない。



「今までで一番早い決定じゃないですか?」



「あぁ、1年で見習いから正式団員は早いな。お前でどれくらいだった?」



「確か……2年はかかりましたね。…………しかしそうなると儀式は誰のを使うんですか?オイラ達3人の中からですよね?」



「いや今回は俺様のを使う」



さすがのオイラもその団長の発言には驚いた。



「団長直々ですか!!?……アーシャに耐えれますかね?才能があると言っても十代の小娘ですよ?」



オイラに言わせれば無謀な行為だ。

団長直々なんて……リスキーな賭けだ。


「死んだら死んだ…それまでの存在だ。だがアーシャは乗り越えるだろう。是が非でも俺様を殺したがっているからな」


「いい根性してますよね。団長を殺すだなんて、オイラは口が裂けても言えませんよ」



団長自身も殺される気は毛頭ないだろうが。

しかし団長直々か………こりゃあ儀式の場がすさまじく荒れそうだ。



ちなみに会議の場でアーシャの正式な黒騎士団入団が満場一致で可決した。

元々ログさんとアーシンさんも団長が決めた事なら反対する気はサラサラなかったみたいだし。

無論オイラもだけど。

だがさすがの2人も儀式には団長直々のアレを使うと聞いて少なからず動揺した。


「珍しく本気だな~団長は。あの娘っ子さんはそれほどの逸材なのか?」



会議が終わり、団長が去った部屋でオイラ達3人は談話していた。

もちろん内容はアーシャの儀式についてだ。



「確かに逸材ですけど団長はアーシャに可能性を求めている……かもしれませんね」



「可能性?限界突破者のか?」



「それとは何か別の…どうも団長はアーシャにオイラ達とは違う期待を抱いているように感じます。まるで……」



それはまるで……同位存在を、自身の隣に並び立つ者を求めているように。



「まるで……なんだよ、キラ?」



「いえ、オイラの主観が入りすぎてる内容なので……邪推ですね。団長にバレたら殺されちゃいます」



おどけて、誤魔化す。



「…………」



アーシンさんは終始無言でオイラ達の会話を聞いているだけだった。

アーシンさんは何か知っているのかな?それとも……いやこれも邪推か。

いかんいかん、自重せねば。



そして夜になり、儀式は行われる。

アーシャ本人にそれを伝える事なく。

これを乗り越えねばどちらにしても正式な団員にはなれないのだから。

だがまさかあんな事になろうとは、団長を含むオイラ達4人は予測さえ出来なかった……










ノドガカワク



欲しい。何が?

飲み物だ。液体だ。


赤い液体。

赤い赤い液体。



甘くて芳醇な飲み物。

一度口にすればもうそれ以外は見向きもしない。



そう、血だ。

血が欲しい。

血が飲みたい。

早く飲ませてくれ!


ノドが、ノドが渇くんだよ。

だがら……よこせよ!!



オレの両手が2人の騎士らしき存在を殴りとばす。

そんなに力を込めたつもりはなかったが、2人は壁を貫通し隣の部屋まで転がっていった。

どうでもいいが。

それにまだこの部屋にはあと2人同じ恰好をした奴等がいる。


その内の1人からは何とも言えない、いいニオイがする。

そちらに近付こうとしたが、別の奴がオレの前に立ち塞がった。



邪魔だったので蹴り飛ばした。

またも壁を貫通して退場させる。

さて、これで2人っきりだ。

オレは腕を伸ばす。顔も名前も知らないそいつは何か喋っている。

何?

あまり聞こえないぞ?



「面白い」?

何が?

どうでもいいか。

それよりノドが渇いた。

血をよこせ。



それ以後の記憶はプッツリと消失した。










儀式の場は凄惨。

その一言に尽きる。参加したオイラ達を含む5人が、誰1人として無傷ではない。


一番軽傷なのは意識を失い、倒れているアーシャ。

その次がオイラとログさんとアーシンさんの3人。

一番ひどいのは信じられないが団長だ。


一目見てボロボロ。鎧があちこち凹んでいる。

今の今までこんな弱った団長は見た事がない。

殴り飛ばされたログさんとアーシンさんも決して軽傷ではないはずだが、団長にすかさず治癒魔法をかけている。



オイラは蹴り飛ばされたダメージが抜けず、情けない事に立つことすら困難だった。

膝に力が入らないんだよね。

その点、やはりあの2人はすごいと再認識した。



「団長、無事ですかい?」



「あぁ……久々に苦戦したが死ぬほどではない」



ログさんの呼びかけに団長はすぐに応えた。

見た目ほど怪我はひどくはないみたいだ。


「中々に豪快な暴れっぷりでしたな、今回の新人は」



「その点だけは予想以上にな。今までで一番暴れた奴だ。下手したら魔人級の実力だな」



「それほどですかい?」



「お前も身をもって痛感しただろ、ログ」



団長の言葉にオイラどころかログさんすらも反論できない。一撃もらっただけでこの有り様だ、納得してしまう。

倒れているあの村娘のような少女が、団長と同等の実力をもつことに。



「やはり面白い女だ。我ながらいいモノを拾った」



団長だけが満足げに呟く。

後日、アーシャの黒騎士団の正式入団が決まったのは言うまでもない。

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