プロローグその1
気分転換に書いたら止まらない止まらない。あの決意はどこへやら。
人は世界を創造できるのか?
答えはyes
一人一人の人間が世界を創る事は現在、2062年では可能になった。
別に現実の世界を弄繰り回す事が出来るわけではない。
仮想世界……ゲームでそれが可能なのだ。
《VRG》
いわゆるフルダイブシステムの仮想世界ゲームである。
全ての人が大多数のオンラインゲームを楽しんでいるわけじゃない。
他人と接するのが煩わしい、面倒臭い、元々一人が好き、人間嫌い……理由は様々だ。
特に昔に比べてそういう一人の時間が好きだ、大事だという考えの人が昨今増加の一途をたどる。
確かに人と人とが集まると楽しい事は一杯だ。だが同時にそれは競争を呼び起こす。
つまり何が言いたいかと言うと…オレは協調性がない人間だ。
まぁ一昔前のボッチと呼ばれた人種の事だ。
もしくはコミュ障…コミュニケーション障害と言うべきかな?
まぁそんなわけでオレ個人は一人ダラダラ遊ぶ方が楽しい種類の人間である。
何が悲しくて家にいる時も他人に気をつかわなければならないのか。
学校にいるだけでも疲れる事を何故家にまで持ちこむ?
オレにだって話し相手や浅い付き合いの友人?とも言える奴等はいる。
確かにそいつらといる時は楽しい、それは否定しない。
だが四六時中は勘弁してくれ。
それが数少ない親友と呼べる奴でもだ。
家族だけでも互いに少なからず気をつかっているのに、それが赤の他人ともなれば輪をかけて労力が増す。
友人と言えども互いに悪癖は見たくない。
ケンカだってしないように発言には気をつけている。
あるいは多少の打算も。
だからオレはそんな煩わしい事は嫌いなので家に帰れば一人の時間を大切にしている。
休日だって一人で過ごす事がほとんどだ。
さすがに夏休みや冬休みには友人?と遊ぶがそれもごく稀の事。
両親や姉妹によく言われる言葉は『友達いないの?』である。
ほっとけ、オレは一人の方が好きなんだ。
そんなオレ……我妻 陣介は今日も一人ゲームに没頭する。
オレが創ったオレだけの世界。
フェイト……オレが創造神の世界へ。
フェイトというのは仮想世界においてプレイヤーが様々なジャンルから選び、そして好き勝手に世界を創れるゲームだ。
一から世界を創ってもいいし、ある程度のベースが出来た世界からいじってもいい。それらのデータはそこら辺に転がっている。
時間と労力、忍耐力があれば一からどうぞ。
手軽に楽しみたいならすでに形となった世界をいじれ。
それぞれのプレイヤーは好きな方を選べばいい。
好みや遊び方は人それぞれだ。
ガンアクションが好きな奴等やガンマニアなら鉄火場の世界を創ればいい。
ギャンブル好きなら世界のあらゆるギャンブルゲームが楽しめる世界を。
話好きな奴や仮想恋愛したいなら(恋愛)アドベンチャーゲームの世界を。
謎解きが好きならミステリーもある。人が死ぬ、死なない、密室事件、アリバイトリック何でもござれ。
車好き、バイク好きなら世界のあらゆるマシンを乗ったり、見て楽しむ事もできる。
スポーツだって一流アスリート並のAIを持つNPCと対決、または指導してもらう事すら可能だ。
そして自分の創った世界で冒険したいならRPGゲームを。
戦略好きならシミュレーションゲームを。古今東西の様々な戦場、歴史、人物、果てはifの歴史すら創れる。
それが《VRG》ならできる。
フェイトならできる。
ちなみにオレはしないが……これは仮想世界なので自分の創った世界を他人に開放、プレイしてもらう事が可能だ。
時には楽しかっただの、ここら辺を工夫したらどうだという感想すらもらえる。
それを自分でいじるも、いやこれこそが自分の世界の持ち味なのだと主張するのも自由。
自分の世界の自慢、共有、評価してほしい……等々、理由もまたそれぞれ。
無論、問題もある。荒しや廃人、現実世界の金銭のやり取り、現実世界と仮想世界に区別ができなくなるなど《VRG 》には色々と悪影響を及ぼす一面もあるが…大半の人間は《VRG 》を好ましいと感じており、受け入れられている。
仮想世界は自由だ。この膨大な情報量の海は百億近い人間を受け入れてなお、広大な空きスペースがある。
さぁ、また世界を広げよう。
自分の好きに。
望むがままに。
創造神になれる世界へ。
オレこと我妻陣介が創った世界はRPGだ。あらゆる種族…人間、エルフ、ドワーフ、巨人、獣人、吸血鬼、それらのハーフ等々、他にもあるがそれらをごちゃ混ぜにした世界。
オレはそこを旅するプレイヤーだ。
創造神でもあるが一旅人でもあるオレは自身の創った世界を楽しんでいる。
確かに大まかな世界設定やら勢力などはオレが決めているが細かい事はAIに丸投げしている。
だから度々オレは自分が創った世界なのに驚かされる事が多々ある。
詳しく説明すれば…その設定がそこでくるか!?とか、えっそれチートじゃね?という予測出来ないイベントが起こりえるのだ。
だから例え自分の創った世界であろうが退屈を持て余す事はない。
何か物足りないと思えばその都度、設定を追加したり、自分のステータスを制限すればいい。
意外に適当に創ったストーリーが面白くなったり、苦難をもってきたりと飽きはない。
そして今日もオレはこの世界を楽しむ為に旅をする。
近々戦争でも起こすか?
新しい種族でも創るか?
文明レベルを少しばかり上げるか?
など、とりとめのない事ばかり考えながら。
その日は新しいモンスターを創ったりしてオレの世界…グランザードに定着させていく。
旅をしながらでもステータス画面さえあれば片手間でも世界は創れる。
面倒臭い事はAIへ。 かといってあまり滅茶苦茶にしすぎるとAIが拒否するが、大体は許容してくれる。矛盾は取り除かれるのだ。
さすがのAIも自身の処理能力を上回るデータ改変は出来ないのだろう。
まぁ人間よりは何十倍も優秀だが。
『マスター、新たなモンスターをグランザードに定着、完了しました』
「あいよ、ご苦労さん」
AI相手に何を礼なんか…と思ってる?
だがこのAIは自我を持っている。
つまりはコミュニケーション能力があるという事。
さすがのコミュ障もちのオレでもAI相手なら邪険には扱わない。
オレの良き相談相手であり、オレの世界をオレの予想できない形で運営する、もう一人の神様なのだから。
そしてAIは決してゲームマスターであるオレを不快にさせる事はない。
まぁたまに小言は言ってくるが全てはオレの為だ、黙って聞いてる。
この世界をより楽しんでもらう。
AIはそれに全力を注いでくれる。
邪険にできるはずがない。
その理由すら欠片もないのだから。
『マスター、昨日のデータの事ですが……』
「ちょいストップ」
『いかがしましたか?』
「いつも言ってるだろ、どんな些細な報告でもオレの前に姿を現せって」
『……しかしマスター、そうすると』
AIが躊躇うがオレはガンガン押す!
「しかしもかかしもない。はいはい早く実行しなさい。じゃないとマスター権限で強制的に出現させるぞ」
『……承知しました』
聞こえもしないため息が吐かれる気配。呆れられた?
ブブブブッ
AIが不承不承に了承し、何もない空間からソレは現れる。
ソレは小さい犬っころ。
正確には狼だが。
銀狼…オレが命名したAIの名前…それがこの世界でのAIの器である。
そして銀狼が現れた瞬間、オレは即座に行動に移る。
つまりは……
「うお~!やっぱいつ見てもか・わ・い・い!!何だこのモフモフ!あ~食べちゃいたいくらい可愛い!スリスリペロペロ」
ひたすらに可愛いがる事に。
興奮モードのオレにされるがままの間、銀狼は辟易としていた。
『だから嫌だったんですよ、出てくるの。マスターは必ず異常な性格に変貌するから』
「異常とは何だ!こんなに可愛がってるというのに。モフモフ~」
頭をなで、アゴをくすぐり、ひたすらに熱烈なハグ~。
うん、愛してるよ。
「愛してるぞ~!」
『重すぎる愛です』
思わず口にも出して告白したがあっさりフラれた。
まぁ気にもしないが。
こいつはツンデレ設定だからな。
『マスター、自重して下さい。貴方は中身は男でも体は女性なんですから。……たまに通り過ぎる商人がドン引きしてますよ?』
「NPCなど放っておけ。今オレはこの神秘なモフモフの秘密にかかりっきりだ」
『ダメだ、このマスター』
可愛らしくお手上げする銀狼を更にペロペロ。
そうオレは正真正銘男である。
現実世界の体も男だし。〇ン〇ンついてますよ。
だがこの仮想世界では性別を女に設定した。
……別に女性の裸が見たいとかって理由じゃないぞ。多分。実際、仮想世界においてもRー18要素はある。よほどこのゲーム機本体を改造しないとムリな芸当だ。出来るかは知らんが。
ちなみにそこまでしようとする熱意はオレにはない。
(噂では他社の開発陣が挑戦したが駄目だったと真しやかに囁かれているが)
女という生き物の理想など、とっくにリアルの姉と妹によって砕かれているのだから。
ともかく、普通の仮想世界はPCだろうがNPCだろうが下着姿までが限界だ。
それ以上は脱げない。
そう作られている、根本から。
裸になりたい、裸にしたいなら本体が壊れる覚悟で頑張る事だ。
さて、そんなオレは自身のアバターたるキャラクター作成時において自分の好みを徹底的にこだわった!
こんな女リアルじゃ存在しねぇーよ……そんなあり得ない美貌を作れるのが仮想世界だ。
仮想世界なら何でもありだな。
まぁ自分の性格まではどうにもならんが。
ステータス画面を開き、自分の容姿を確認する。
かなり自分でも気に入っているので時間さえあれば見ている。
おかしいな、オレはナルシストじゃないはずだが?
オレのアバターの髪型はロングで色は薄い茶髪。
顔のパーツは目はパッチリで鼻は小ぶりにスッとした感じにし、唇の色や形すらも厳選。
スタイルにしても太すぎず細すぎずに念入りにミリ単位で調整。
下世話にならない程の、かつ色気を備える程度のスリーサイズにし、身長・体重はそれら全てがアンバランスにならないように設定。
もはやエルフすら霞む美貌だ。
ちなみに種族はオレ専用の《神人》。
創造神たるオレの特権だ。
オレ自身、苦戦も楽しむタイプではあるが一番好きなプレイスタイルはオレTUEEEEEEだ!
実際、レベルやステータスはMAX。
武器や防具も最高クラス。
アイテムだって全種類コンプリートし、数もMAX。
スキル、魔法だって全部使える。
おかげで強くなりすぎた。
最強の敵を想定して作成したモンスターすら五分とかからず倒せる程に。
なので最近はレベル、ステータス、アイテム、スキルなどを制限してプレイしている。
さすがに強くなりすぎてもつまらんし。今はAIが創ったストーリー重視の物語を楽しむのがオレのこの世界での過ごし方だ。
……時間を忘れ夢中で銀狼を可愛がっていた途中、ピーピーと脳内でアラーム音が鳴る。
『マスター、夕食の時間です』
そう、このアラーム音は時間設定していたものだ。
もうそんな時間とは…やはり仮想世界にいると時間が経つのが早い。早すぎる。
「はぁ~…もっとモフモフしたいがリアルの体をおろそかにすると影響でるしな」
何より時間どおりに行動しないとアイツが強制的にでも終わらせるからさっさとログアウトしなければ。
『マスター、夕食の後もまた来られますか?』
「いや、今日はここまでにしとく。そろそろテストが近いから勉強しないと。……何だ、寂しいのか?」
だとしたら爆笑してやるが。
『いえ全く』
即答かよ!
ツン成分に設定振り分けすぎたか?
とりあえずリアルに帰ろう。
メシを食わねば戦どころか勉強もできん。
『ではマスター、また明日』
その小さな体がペコリとお辞儀。
ぐはっ!!?
最後の最後にやってくれたな銀狼!?
オレを悶え殺す気か!!
オレの苦し気な表情で心情を悟ったのかさっさとその可愛らしい姿を消し、去っていくAIに未練しか残らない。
くそぅ…明日はもっと可愛がってやるからな!!
そんなAIには傍迷惑な決意を固く誓い、オレは仮想世界を後にした。
長くなるので分けます、すんません!