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I Love You Because  作者: はるあみ
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魔女の箒


【魔女の箒】

 

 クリスマスイブの日、友だちの千恵とコーヒーを飲んだ。

 時計を気にする振りをしたのは、今夜は知恵のヤケ酒に付き合う暇はないからだ。

「沙世は待ってる人がいるもんね」

 千恵の嫌味を聞きながら、私はコートを羽織って店をで出る。待ってる人なんていない。

 いなくなった。それは随分前のことだけど、そのことを千恵は知らない。

 彼の愚痴を半分笑いながら話す千恵に、「ヤツの好は髪が長くて背の高い女なんだって」なんて言えなかった。


「もともとタイプとは違ったんだよ」

 買ったばかりのソファーに座りタバコを吸いながら奴は言う。半袖に素足がヤツの夏スタイル。

 白くて二人掛けのソファー。下北沢で一目ぼれしてローンを組んだ。

店員さんに「汚れが目立ちますよね、タバコを吸うヤツもいるし」と言ったのは一週間前のことなのに。

隣に座り、マグカップに入ったアイスコーヒーを飲もうとした私は、呆然と立ったままヤツの話を聞いた。

「お前といるとさ、落ち着くんだけどさ。今でも好きだしね」

 私を嫌いになったわけではなく、髪の長い手足の長いスカートが似合う女が好きになっただけらしい。

「どこで」

「居酒屋、【魔女の宅急便】ていう店で働いてるんだ」

 ヤツと出会ったは【ドラキュラの復讐】という新宿にある居酒屋だった。

 ヤツは口元に血のりをつけ、黒いマントの裏地は赤。真ん中から分けたテカテカした髪が可笑しくて笑ってしまった。

「ようこそ、我が館へ。帰りには貴方もドラキュラ一族になっているでしょう」

 芝居が上手い店員で、私は、お腹も減ってないのに次々と変てこな名前がついた料理を注文し、千恵に怒られた。

 帰りに渡された名刺には【ドン男】という名前の下に手書きで立川博史という本名とメールアドレスが私にだけ渡され、割勘のはずが、千恵の支払いは千少なくなった。

 千で手に入れた恋は私の生活を一変させた。

 お洒落なんて縁が無かったし、雑なんて「食べられないじゃん」と言っていたはずなのに。

 ヤツが来るようになってから、私の部屋は変わった。部屋だけでなく場所までも変わった。

 少ない給与を貯めた貯金は、るる減っていく。

「へえ、可愛いね」

 ヤツの一言があれば、貯金が減ることなんて気にならない。

 なのに、「背の高い女が好き」なんて良く言えたものだ。

 髪は頑張れば伸ばせるし、ダイエットだってすごく頑張れば出来ないこともないと思う。

 でも、いまさら背は伸びない。酷過ぎる。

「ヒールを履いても駄目なの」

 私はすがった。惨めだと思ったけど、すがらずにはいられなかった。

 ヤツが出て行った部屋には白いソファーが残った。

 籐の籠から顔を出すぬいぐるの犬や、薄暗い間接照明も邪魔なだけのものに思えた。

 殺風景。

 それは何もない部屋のことではなく、いろんな物で溢れるこの部屋のことだと分かった。


 それからの私は、魔女になろうと思った。

居酒屋の魔女ではなく、本物の魔女だ。もう、男なんかに振り回されない。

 最初にしたのは代々木上原にある占いグッズ販売店で水晶とベルベットのマントを買うこと。

 白いソファーに座り水晶に手をかざす「・・・・」おまじないの言葉は思い浮かばない。

「世界に平和が訪れますように」言いながらも、私はヤツがひとりで私の部屋に向っているのが見えることを祈っていた。

 東京駅で魔法学校行のホームも探したが、日本分校はないようだ。

 そんなことをしているうちに秋が過ぎ、が訪れクリスマスイブの前日。イブ・イブとはしゃいでヤツと汐留でイルネーションを見たのは去年のことだ。

 水晶とマント、それに家中の雑をリサイクルショップに持ち込んだ。

「思い出は心の中に」リサイクルショップのポップに腹が立つ。

「合計で200$B1 $G$9$,!"$$$+$,$7$^$9$+!W

 店員の笑顔に腹が立つ。いったい、いくらかかったと思ってるだ。なめんなよ。

「はい、結構です」

 私は差し出された明細書にサインをして店を出ようとすると、店先にあった竹箒が目についた。

「お包しますか?」

「いいえ、すぐに使いますからシールだけで」

 確信があった。ぜったいにこの箒は魔法の箒だ。

 箒を担いで店をでると、人影のない路地で箒に跨る。思った通りフワリと浮いた。

 空を飛びヤツを探す。六本木、汐留、お台場、表参道。

 恋人たちの居そうなところを上空からヤツを探した。

ヤツ横浜まで足を伸ばして、髪の長い女の肩を抱いていた。

 私と似ていない女の後ろ姿。私はきっと泣くだろうと思っていた。

  思っていたのに泣かなかった。

Because ・・・・・・

肩を抱くヤツの着ているセーターが赤と白の縞々模様だったから。

 I love you Because ・・・・・・

 赤い裏地のマントを着たドラキュラだから好きだった。

 私の首筋に牙を立て、優しく「これで、俺から離れられないぞ」と囁くから好きだった。

 

 千恵と別れた私のクリスマスイブの予定は、箒に跨ってサンタを探すこと。

 赤鼻のトナカイなんかに負けはしない。



いかがでしたか?

好きになる理由はわかりましたか?

わかったら、僕にも教えて下さい。


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