5
俺は数ヶ月にわたり努力した。
精一杯やれる事はやって来た。
もう、いいよな?
諦めても。
「うー!」
元気なお返事ありがとうユリア。
だけど、原因は君なのだよ。
結局彼女を引きはがす事はできなかった。
だから俺はこう納得する事にした。
彼女が付きまとって来るのは俺が兄のリオネルで、彼女が妹のユリアだから。
よく考えれば前の俺には兄弟がいた事にはいたが、会うことは滅多になく、その関わり方というのは書物で読み漁った物語の中でしか学んだ事がない。
つまりこれはごく普通の兄妹間スキンシップなのだろう。
書物に描かれるような描写で無いほど普遍的な。
一日中付きまとい、一日数十回(かつては数百回)の頬ずりを受け、夜には頬を突つく。
うん。これは一般的なスキンシップだ。
彼女は単純に、兄という存在に親しみを覚えているだけ。
常に抱きついてくるのも、隙あらば擦り寄ってくるのも、頭を撫でるのも世間一般の人々にとっては当たり前なのだ。
そう考えるとどうだ。
あんなに鬱陶しかった雛鳥が今度は随分と可愛く見えてくるではないか。
過剰だ、などと思っていた数時間前が懐かしい。
前の俺の偏った常識がここまでの支障をもたらすとは……。
俺は抱きついて来るユリアを恐る恐る撫でてみた。
それは普通の行動なのだから、やらないわけにはいかない。
人を撫でるなんて初めてだ。
そっと滑らかな銀髪に指を通すと、彼女は少々驚いた顔をしたが、いつものようにニッコリと笑いかけ擦り寄ってきた。
これに応えるのが兄というものなのだろうが、さすがに自分から擦り寄るのは身が引けた。
やはりこの関係には違和感がある。
俺はまだ、リオネルになりきれていないのだと思う。
ゆっくりとユリアを撫でる。
大人達から笑顔を向けられる事には、まだ慣れない。
それは本当に俺に向けられているモノなのか?と疑ってしまう。
だけど、彼女の笑顔だけはとてもホッとする。
幼い無垢な彼女が俺に向けてくれる純粋な好意が、どうしようもなく必要だと思える。
なんでだろう?