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 最近、部屋の中を自由に探索できるようになってきた。はいはいという移動手段を得たからだ。


 俺とユリアに与えられているのは木のあたたかみがある部屋で、様々な子ども用の玩具が揃えてあった。

その中に、この世界の物語を描いた絵本でもないかと探してみたが、あるのは動物の本や花の本などで、欲しいものとは違っていた。


 ただ一つ分かったのは、この世界と元いた世界の文字が違う事。

言葉は通じているのでそこまでの違いは無いだろうが、規則を覚えるのがめんどくさそうだ。


 文字の事はしばらく保留でいいか。

こちらが何もしなくても、すぐに基本教育がはじまるだろう。王族というのならなおさらだ。

 それに、今解決すべきは別にある……。俺の頭を悩ませる厄介な難題。


そう……ユリアだ!


ちなみに今現在も満面の笑みでこちらを見るユリアが隣にいる。


 あの狭い寝台からは開放されたが、ユリアから解放される事はなかった。

ユリアはずっと俺のうしろをついてきて、隙あらばすり寄ってくるし、じっとしていると彼女の両手が伸びてきて頬を横に引っ張られる。

それでも一日に五十回程度なので牽制以前よりかは良心的だ。


 だがまあ、鬱陶しい事に変わりはない。



 注意をそらそうと、ぬいぐるみを与えてみた。

ユリアがぬいぐるみと戯れはじめた頃をみはからって彼女と距離をとろうとする。しかし、俺が少しでもその場を離れると必ずニコニコと笑うユリアがすぐうしろをついてきた。


ぬいぐるみは気に召さなかったのか? と今度は積み木を彼女に与えてみた。

今度はしばらく一緒に遊んでやり、彼女が夢中になってきた頃をみはからって再び彼女から距離をとる。

しかしやはり、ユリアはニコニコと笑いながらあとをついてくるのだ。



 雛鳥かお前は。



 何をやっても効果が無いので、諦めて我慢する事にした。

なんて寛大かつ大人な俺……。





 ユリアから頬ずり攻撃を受けていると、両親が子ども部屋に入ってきた。

父親シュドナイは最近忙しいようで、久しぶりに顔をみる。


俺は父親の腕に抱かれ、ユリアは母親アメリアの膝に乗せられた。



 突然、父親が俺をくすぐりはじめた。

昔からだが、俺は感覚に愚鈍で、どこをくすぐられてもびくともしない。


「リオネルは笑わないな……」

「どこかに感情を置いてきてしまったのかしら……」


 どうやら俺を笑わせようとしたらしい。

リオネルとなってから『笑顔』というものを――主にユリアから――頻繁に見るようになったが、自分がそれをできるとは思えない。


 前の俺ノエルに笑い方を教えてくれる人など存在しなかった。


はじめて俺に笑顔を見せてくれたのは、友人Aだった。前の世界への未練など欠片も無いと思っていたが、俺が死んだ後友人Aがどうなったのかが気になってしかたがなかった。


あの乱戦の中あいつが生き延びていてくれたら、俺は嬉しいのだと思う。


あいつは長い間苦労して、やっと幸せをつかんたばかりなのだから。



 ひらひらと視界の隅で小さな手が揺れた。見ると、ユリアがこちらに来たそうに手を伸ばしている。


「あらあら、ユリアもシュウに抱っこして欲しいみたいよ?」


「んー? そうか? おいで、ユリア」


 俺はユリアと交換され、母親の膝に座らされた。


 父親の手にわたったユリアは、俺と同じようにくすぐられてものすごく笑っていた。悲鳴のように聞こえるくらい笑っていた。


彼女はひとしきり笑うと、今度は母親の方に向かって手をばたつかせる。


「この子……もしかして……」


 俺は母親によって右へ左へ上へ下へと動かされた。すると、ユリアの手も同じように向きを変える。


両親は苦笑しながらも、微笑ましそうにその様子をみていた。


「ユリアはお兄様が大好きなのね」


 嬉しそうに微笑むユリアは、まるで母親の言葉を肯定しているかのようにみえた。



 俺は笑わないし、ユリアの興味をひくような事をした覚えもない。


 彼女は何が気に入って俺に付きまとってくるのだろうか?

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