捨てられた姫君と結界魔導士
俺は昔、ボディーガードをしいていた。
多少なりとも護衛系の魔法が使えるのだが、所詮下っ端だったから大したことはないのだが、正規の護衛系魔法をちゃんと使える奴は少ないので、この姫君の傍に呼ばれた。良い香りのする姫君だ。
「簡単な道には簡単な道を歩く人がいて、険しい道には険しい道を歩く人がいる、だからね、わたしはただの父王の代わりでなくだな・・・」
と姫君の長話は続くのだが、その言葉に別に思う事はない。
早く泥酔させて、黙らせたい。
ここは魔王討伐戦の最前線近くの酒場の個室。
箱入りの姫君がまず来る場所ではない。
まあ捨てられた姫君だ。
凛々しい騎士のなりをしているが、なりだけ。
剣も鎧も最高級の代物だ。
この酒場にいる兵士たちも精鋭揃いだ。
それがまた捨てられた姫君らしい。
なんとなく捨てられた理由は察しがつくが。
俺は魔法使いと言うか結界専門魔導士。
ここは既に結界線で敗北しており、簡単には逃げられない。
結界的に包囲されたのだ。
結界線に俺が加わっていれば、このような失態はなかったはずだ。
まあ俺みたいなボッチの魔導士なんかに声をかけるはずもない。
「貴殿も飲めよ!さてはわたしを酔わせて、襲う気か?」
いつ結界がきれて魔族が押し寄せてくるか解らない状況で、姫君を襲ってる暇などあろうはずがない。
しかし今日はいつもより酒場は賑わっている。
結界戦は機密性が高いので、知るものは少ない。
もしかして、心のどこかで破滅がまじかに迫っていると感じているのかも知れない。そんな事を忘れたいがために、酒に溺れる。
୨୧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・୨୧
あれどうした?
姫君が黙り込んでる?
「わたし、まだ死にたくない」
「えっ?」
「わたし、疎まれてるんでしょ。知ってる」
「はあ」
「だからって、それだけで死ななくちゃ行けないの?」
「はあ(めんどくさい)」
ん?結界にひびが入った音がした。
極めて小さな音だが、間違いない!
上級な結界魔法使いが、敵にはいる。
さすが魔王軍。
来る!
「御免、皆の衆」
俺は個室にだけ結界魔法を張った。
敵は数にして10倍。
個室の外から阿鼻叫喚の声がした。
「御免、皆の衆、1分だけ耐えてくれ!」
俺は、結界魔法を維持しつつ、もう1つの結界魔法の術式を唱えた。
姫君は、最高級の剣を握って、震えてる。
俺が張った結界魔法もいつまで持つわけではない。
結界魔法がきれて、その阿鼻叫喚が直に聞こえた時だ。
阿鼻叫喚の質が変わった。
父王に使える魔導士が、姫君を拘束していた結界が解かれ、姫君の闇が解放されたのだ。
姫君のその狂暴なお姿に俺は笑った。
「ふふふふふふ」
その魔物たちの阿鼻叫喚に笑った。
その疎まれ捨てられた者の闇に笑った。
戦況が変わり始めた。
さすが姫君直属の精鋭たち、反撃に転じているらしい。
それに安心したのか、姫君は俺の腕の中で眠りに落ちて行った。
良い香りのするその可愛らしい寝顔に、変わってしまった運命を憂う要素は、感じられなかったが。
完




