2 思い描いていた展開との誤差
小逆支君たちに見付かった。
コンビニの駐車場から、元いた公園へと連れて行かれる。
多分……コンビニの駐車場には、人目があるからだろう。比べて、家の近所の公園は。夕方以降には利用者が、ぐっと少なくなる。
鳥蒔君が耳打ちしてくる。
「逃げようと思うなよ。お前が……この辺りの野良猫にエサをやってんの、知ってんだぞ? もしも今、逃げたら。猫がどうなっても、知らねーぞ?」
「くっ……!」
猫に何かするつもりなのか? 卑怯者めっ!
何も抵抗できないオレを見て、優越感に浸っているのかもしれない。鳥蒔君がニヤリと、昏い目をして笑う。
それにしても。
彼らに促されるまま、公園へと続く坂を上っている間も……考えていた。さっきの猫について。
何だったんだ? 「特殊能力を与えてやろう」と、言っていた。
ネットで読んだ小説に、似たような話があったのを思い出す。
物語の序盤に登場し、主人公にスキルを付与したり。異世界転生させたりする役割を担う、登場人物。……つまり。
「神様の類だったのか……?」
呟く。いやいや。小説と現実を、混同してはいけない。普通、あり得ないだろ。ここが小説の世界ならば、いざ知らず。紛れもない現実で、ファンタジーな出来事が起こる訳がない。
オレだって「間違い」を起こさないように気を付けている。
これまでだって。「普通の」人間に見えるように「漆黒の黒幕」だった事実を隠している。
もし、隠さずに。ありのままのオレを出したら。
考えて、冷や汗をかく。期待と不安に、背中がゾクッとする。
ひたすらに続けてきた「我慢」をやめて、本来の自分を出してもいいのなら。
しかし同時に。それは日常生活を揺るがす「危険」を孕んでいる。「漆黒の黒幕」であった頃の能力を、調節できるのか分からない。今は地球人になりすましているのもあるし。
……そろそろ。試してみるのもアリかもしれない。
顎に手を当て、思考しながら歩いている内に。先程の公園へと戻って来た。
小逆支君が言う。
「よォし。さっきの続きといこうじゃねーか」
指をポキポキと鳴らして、近付いてくる。凶悪な顔で。
「俺も鬼じゃねぇ。条件さえ呑めば、同居の件は目を瞑ってやってもいい」
小逆支君の言い分に、眉をひそめて聞き返す。
「条件?」
「ああ」
小逆支君がニヤリと笑み、要求してくる。
「花憐ちゃんか、アヤメさん。どっちかと俺が、付き合えるように協力しろ」
……!
花憐かアヤメと、小逆支君が付き合う——?
ドクンと。己の奥底から、不気味な心音がする。
何だろう。今までに感じた事のない嫌悪が、胸を支配する。これは……!
「ダメだ」
はっきりと断る。
「妹たちに、手は出させない!」
強く言い切って、目の前の小逆支君を睨み付ける。
「あん?」
小逆支君が、不機嫌な雰囲気で反応する。相手の瞳に、凶悪な気配が灯る。
「学年でも屈指の美少女二人を、独り占めする気か? ますます気に食わねぇ!」
殴ろうとしてきたので、横へ躱す。そのまま走って、距離を取ろうとした。——直前。視界が乱れる。
何かに躓いて、地面に手をついて倒れた。
「同じ手は食わねぇよ」
頭の上から声を掛けられる。鳥蒔君だ。彼は「ひっひっひっ」と笑いながら、ひょこひょことした足取りで小逆支君の側へ戻って行く。
オレはどうやら、鳥蒔君に足を引っ掛けられて転んだようだ。
「大人しく、妹を差し出せば済むだろ? 妹に特別な感情がなければ……ね」
鳥蒔君が、どこか意味深に目を細める。
「くっ……!」
焦る。昨日まで考えた事もなかった。妹なんて、ウザいとさえ思っていた。だが。こんな状況に陥って、気付いてしまった。
妹に彼氏ができるの、何か嫌だ。
オレより先に恋人ができるの、許せねぇ。
何より。妹たちには、まだ早い。
中二だぞ? 十年くらい早くないか?
小逆支君たちが立ち上がろうとするオレを見て、ゲラゲラと笑っている。奥歯を噛み締める。
「妹たちは渡さない……!」
低く、決意を口にする。
「はっ? 負け犬は負け犬らしく、四つん這いになったまま震えてろよ。ちびりながらな!」
小逆支君が言うと、ほかの二人も笑い出す。
好い加減に。オレも、ブチ切れ寸前だった。
こいつらで「試す」と、決めた。
ボソボソと、小声で合図を送る。
『あんれれ、久しいな。今回は何の用だ?』
頭の中に声が響く。懐かしい。彼はちょっとした友人だ。「山井過推」になってから、コンタクトを取るのは初めてだった。彼へ依頼する。
『威力を最小にしたスターキャノンを一発。オレの目の前に、落として欲しい。合図は「スターキャノン」で』
『了解。今度、地球の酒を奢れよ』
通信は終わった。
立ち上がって、小逆支君、鳥蒔君、越銀君と向き合う。彼らとオレの間には、数メートルの距離がある。
オレは、閉じていた瞼を開く。
「オレには、異星人の友達がいるんだ」
話し出すと、三人が笑うのをやめた。
静かになってくれたので、そのまま説明を続ける。
「異星人の中には。地球人に見付からないように、宇宙船を隕石にカモフラージュしている奴らもいる。宇宙船から発射される攻撃は、地球を一瞬で消し去れる程に強力なものなんだ。だから威力を最小にして、この場に落とす。……受けてみるか?」
「ちょ」
鳥蒔君がうろたえている。
「さすがに……」
越銀君が怯んでいる。
「やべー! お前、ヤバ過ぎるだろ。中二病も、ここまで進行すると。憐れに思えてくるな。目ぇ覚ませよ。現実を見ろよ」
小逆支君がゲラゲラと笑う。鳥蒔君と越銀君も涙目で、腹を押さえながら笑っている。
馬鹿にされるだろうと、分かっていたけど。実際にされるのは、嫌な気分になる。
今回の件が、うまく彼らに響いてくれればいいのだが。
この時のオレは。大馬鹿野郎だった。軽く考えていた。
彼らとオレの間に、威力を最小にした『スターキャノン』を落として。相手がビビッて、大人しくなってくれれば。丸く収まると……本気で考えていたのだ。
「早くやって見せろよ。山井過推!」
小逆支君が挑発してくる。
一呼吸置いて、応じる。
「行くぞ!」
右手を挙げて、彼らの方へ振り下ろす。「合図」を、唱える。
「スターキャノン!」
何も起きない……。
『あれ、もしかして。異星人と友達なのは、ただの思い込みで。オレは本当は、中二病なだけだったのか?』と、疑いそうになる一瞬の後。
キュインッ。
高周波のような耳鳴りがする。眼前に白く、光の柱が落ちたように思う。
目を閉じている間、暫く。音が聞こえなくなる。
次に瞼を上げると。
大惨事だった。
オレの履いているスニーカーより先の地面に、クレーターができている。多分……直径、五メートルくらいの。
「あ……あわ……あわわばばばば」
顎がガクガク震え、舌を噛みそうになる。
黒い……何かが焦げた跡が、クレーターの中央の土に付いて……。
「越銀君!」
呼びながら、辺りを見回す。
「鳥蒔君!」
まさか……まさかな。
「小逆支君!」
公園にはオレのほかに、誰もいない。
もう一度。クレーターの、中央の染みを見る。
震えが強くなり、地面に両膝をつく。四つん這いに、クレーターを覗き込む。
うっ!
股間が生温かい。少し……漏らしてしまっている。
立つ事もできないまま、負け犬のように震えていた。
ただ、ちょっと。脅かすだけのつもりだったのに。
スターキャノンの「最小」の威力が、思っていたよりも大きかった。オレが連絡しなかった間に、改良されたのかもしれない。
小逆支君、越銀君、鳥蒔君を。跡形もない程に。
この世から、消し去ってしまった……。




