今年も、去年を越える最高の愛をあなたに
「……」
とても、悩んでいます。
「……」
テーブルに上に広げたノート。そこに書いたのは。
バレンタインに渡す相手の方々のお名前たち。
恋人である武煉先輩から始まり、お世話になっている同級生や上級生の方々、兄やリアス、そして同性の方にと、思いつくまま書いていき。
最後。
「……オトハ……」
たった一人に対して、悩んでいます。
バレンタイン。
今となっては本命だけでなく、仲の良い人にも渡すようになった行事。なので毎年、兄やリアスというお世話になっている男性陣をはじめ、愛するクリスにも渡し、交流が増えた友人たちにもあげて。武煉先輩が本命になってからは、少しだけ違う形にして渡していました。そこで今回、一つの問題が。
……元カレに渡すのってありなんです??
いや確かによくないとは思いますわ。
ただね? 今結構交流自体があるんですよ。普通にお世話になっているんですよ。そう、元カレという点だとアウトだけれど、お世話になっている人となれば入ってしまう。
そんな、魂の元カレをどうすべきなのかしら。
私としては、お世話になっているから渡したい。けれどそれを見た武煉先輩は? 嫌な気持ちになりますよね。彼の今まで的にそれを言う権利はなさそうですが、一旦私は被害を被っていないので置いておいて。
重要なのは、過去よりも今。
私の気持ち一つで決めるのはいけないこと。けれど本人に聞くのもよろしくない。
私が武煉先輩なら断るのもかっこ悪くていやだなと思うし、イエスも複雑。別に断られても武煉先輩がかっこ悪くはなりませんけども。むしろ正しい。あくまで私が同じ立場ならという話。
「……」
どうしましょう。
いったん、そう、一旦相談をしたいですわ。
こんな時は兄に――駄目ですわ彼だと「いいんじゃない?」しか返ってこなさそう。
あとはリアス。一番まともな答えが来そうですが、いかんせん彼も昔オトハにお世話になった身。無意識にオトハの方に寄ってしまいそうではある。あとは陽真先輩? ウリオスくんとか……あ、ウリオスくんいいですね、間違えていたら叱ってくれそう。あとはユーアくん? そしたら連絡を取って――
「華凜?」
「ひゃっ!」
そう、もんもんと悩んでいれば、後ろからあたたかな感触と声。それにそっと振り返ると、思ったとおり武煉先輩がいました。
まずは立ち上がって、出迎えの声をかける。
「おかえりなさい」
「ただいま。ずいぶん悩んでいたようだけれど、何かあったのかい?」
笑守人に関することで外に出ていた武煉先輩の着替えを手伝いながら、問いに一度詰まる。
「……えっと」
「聞くよ」
「あ、いえ、えーーと」
言えない。
バレンタインのことまではいいでしょう。本題はちょっと待ってほしい。ごまかせばいいのに、さっきまでいっぱい悩んでいたのが引きずってうまく言葉が出なくなる。それを見た武煉先輩は私を引き寄せて、頭を撫でてくれた。
「俺には話せないことかな」
「……」
「とりあえず、深刻でないのならいいんだけど?」
いえとても深刻です。
それは苦笑いでばれてしまったようで、彼はソファへと私を促し、優しく抱きしめてくれた。
「……」
「大丈夫?」
「……はい、すみません」
「謝ることはないけれど。どうしたのかな」
「……」
「俺には言えない?」
言いづらい、とても。
「……えっと」
「うん」
「一度、他の人と話してからご相談できればな、と」
思ってまして、の言葉は段々と小さくなってしまった。どんな顔をしていたんでしょうか。身を離した武煉先輩は、私の頬を撫でて。
「……できれば今聞きたいかな?」
なんて言われて、まるで逃がさないとでも言うように腰に手をまわされてしまう。こういう時は何を言っても、納得するまで離してくれないということをわかってしまっていて。
うまく隠せない自身を叱咤しながら、ひとまず、と口を開いた。
「……怒りませんか」
「内容によるかな」
ですよね。
では、と。
「……一度抱きしめていただいても?」
「それはもちろん」
精神安定のため、抱きしめてもらいながら。
「……バレンタインのことで」
「うん」
やさしい声に心を落ち着けつつ、本題を切り出した。
「……その、オトハにあげるかを」
待って今手がピクッて動いた。
「……ふぅん?」
怖い。その声ちょっと怖いです。
待ってください力が少し強くなってます。
「ちがくて」
「うん」
「あの、ほんとに」
「わかってるよ」
続きは? と促す声は優しいのにちょっと怖い。けれどまずは最後まで言わねば。一度、深呼吸をして。
「……いわゆる、元カレにあげるのはよくないという思いと、お世話になっている人に感謝を、というところで、どうすればいいのか悩んでしまって」
「……」
「でも、やっぱりこう、私が、もし武煉先輩なら、元カレに渡してるのは見たくないかもしれないし」
「うん」
「けれどこう、一人にだけ、渡さないのも、悲しいというか」
ぽつり、ぽつりこぼした声を武煉先輩はしっかり聞いてくれて。
いつの間にか先ほどの圧は消えていました。
「……どうするのが、正しいのかなと」
「それでいったん他の人に?」
「ユーアくんやウリオスくんなら良いお答えをいただけるかと!」
身を離してきらきらした目で言えば、武煉先輩はふっと笑った。
「たしかにね。ただまぁ、それなら俺も答えは出せるよ」
「ノーのお答えですよね? 正しいです」
「まぁ結果的にはノーになるけれど、そうではなくて」
「?」
首を傾げれば、先輩は今度は肩を抱くように横から私を抱きしめてくれる。その彼を見上げて、開いた口からこぼれる先輩の言葉を聞いた。
「俺の意見ではなく、オトハさんの視点から、ね」
「オトハの……」
「そう。まぁ俺は彼ではないし、正しいものではないけれど。あくまで一般論として」
「はいな」
一つ、と指を立てて。
「素直には喜べないだろう」
「……」
それに、少し目を開いて驚く。
「君の感謝の念を理解したうえでね。元カレという立場からしたら、あの人の性格上、どうにも素直に喜べないんじゃないかな。俺がいなかったら喜べただろうけど、今の君には恋人がいるから」
「……たしかに」
「もう一つは、まぁ俺が彼だったらの話」
また一つ、指を立てて。
「俺だけじゃなく、男なら、かな。一つの可能性を期待してしまうかもね」
「期待、ですか」
「そう」
自分では考えられなかった思考に、驚きを隠しもせず武煉先輩に見入る。
「男とは単純でね。どんなに”感謝”と言われても元カノからバレンタインをもらったら”もしや”なんて期待してしまうかな」
「武煉先輩も?」
「俺の過去は元々特殊な関係の人たちだから違うけれど……。あぁでも逆はあるんじゃないかい? もし俺が昔の女性にプレゼントをあげたら、彼女たちはどう思うかな」
言われて、過去を振りかえる。思い出すのは、偶然夏休みに出くわした先輩と女性のいざこざ。彼女は先輩に本気だった。もし、先輩が何かプレゼントをしたら。
「……中身によっては、期待します」
「そうだろう」
だからおすすめはしないよと、優しく頭を撫でられた。
「君の気持ちは大切にしていい。俺も複雑にはなれど、君が感謝としてあげたいのなら止めはしない。けれど、逆の立場で考えれば、そういうことも考えられるよ、というのは覚えておいてほしいかな」
「……はいな」
「まぁ誕生日とかならいいけれどね。バレンタインというイベントはおすすめしないかな」
たしかに、と。答えがストンと落ちて、ほっと息を吐く。それにふっと笑った武煉先輩が私の顔を覗き込んだ。
「あとは俺からの気持ちを言っても?」
「? はい」
きょとっとして武煉先輩を見る。目が合った彼は、妖艶に笑って。
「バレンタインは想いを伝える日だろう? チョコに込めてね」
「そうですわね」
なら、と。
「願わくば」
そっと、私の額に口づけてから。
「俺一人に渡してくれた方が、俺は正直優越感があっていいかな」
なんて、普段見せない独占欲を見せてくるから。
それに、負けたくないという気持ちになってしまって。
「変わらず、皆様にお渡ししますわ」
もちろん彼以外に。そこはしっかり付け加えて。
この人を優越感に浸らせないように、けれどあなたが一番であることも伝えられるよう、今年のバレンタインについて、改めて思考を練り始めた。
『今年も、去年を越える最高の愛をあなたに』/カリナ




