Episode.1
ストーリーの情景を想像しながら、ゆっくりと読み進めてほしいです。
急いで読むと、言葉に込めた雰囲気が崩れるんです…
「付き合ってください。先輩。」
「……ごめんね雫ちゃん。」
大好きな先輩。愛して愛して愛し続けた先輩。
私にはあなたしか映らなかった。ずっとあなたが視界にいた。
でも、その恋心は一瞬にして崩れる。終わるときはいつも一瞬だ。
私は真っ直ぐにあなたを見つめる。でも、あなたの表情は見えなかった。
―― 嗚呼、あなたは私を見てくれない。
正直、それでも良かった。あなたが変わらず好き。
でも、私の意思は届かなかった。
―――――――――
先輩は卒業した。告白のあと、私たちが話すことは一度もなかった。
でも、それ以外で生活に変化が出ることはなくて、私はいつもどおりの生活を送っていた。
「えー、みなさんは今日から、この学校の最高学年であり、受験生となりました。その自覚をもち――」
「受験生ってヤバくない!?早すぎだよー!」
「それな。」
私は中学三年生に進級した。
先輩が勉強していた教室であると思うと、複雑な気持ちになる。
「――そんなわけなんですが、新学期初日であると同時に、転校生が来ています。」
「えw」「まじ!?」「やば」「イケメン来い!」
教室が一気に湧き上がる。
ガラガラガラ――
「はじめまして。東京から越して来ました。佐藤ミナです。」
「仲良くしてやれな。」
湧いていた教室は一気に静まり返った。
転校生の美しさに見とれているわけではないだろう。
ただ、期待外れだっただけ。
「まぁ漫画みたいなことはないかw」「こんなもんよね」「まあまあ」
なんて声が聞こえた。
席は一番後ろの、俗に言う主人公席。私はアリーナ席なので、羨ましいなと思いつついた。
「雫ちゃん、話しかけに行こ!」
「はいはーい。」
私は興味なかったけど、モモカが言うから仕方なく付き添った。
「ミナちゃん!はじめまして!私はモモカね!こっちは雫!」
「よろしく。」
モモカは相変わらず、ビックリマークの絶えない元気な調子だった。
「よろしくお願いします。」
「ミナちゃんは好きなものある?私は、きみぷりが好きなんだけど知ってるかな、歌い手の!」
「聞いたことはあります。」
「ほんとに!?私ね―――」
こうなるとモモカは止まらないんだなぁ。オタクとかではなく、単純なコミュ力お化けだ。
「―――雫ちゃんはさ、好きなものとかないんですか?」
「え?」
「うん?」
モモカの話には相槌しか打たない転校生が、いきなり私に話しかけてくるものだから驚いてしまった。
キョトンとした顔にどこか懐かしさを覚える。
「私は別に…」
「ええ~?雫ちゃんが好きなのは先輩でしょ!」
「ちょ!ちょっと!」
モモカが要らない口を叩いてきた。
興奮するといつも余計なことばかり話すんだから!
全く困ってしまう。
「先輩って?」
「気にしなくていいよ。」
「ふーん。」
「それよりさ!ミナちゃんさ―――」
―――なんで、なんで初めて会うはずのあなたが、嫉妬するような、そんな顔するの。
―――――――――
モモカと私は家が反対方向なので、私が下校するときはいつも一人だ。
今日も一人で帰ろうとしたとき、校門で転校生のあの子が待っていた。
「なにしてるの。」
「一緒に帰ろう。」
「え?いいけど…なんで私?たくさん話しかけられてたでしょ。」
「他の人は、もうたくさん話したからいいの。私はあなたと話したい。」
私はわからなかった。
無愛想で親しみの欠片もないであろう私に構う理由がわからない。
――でも、無愛想なのはあなたも一緒ね。
私たちは横に並んで静かに歩いた。
「――本当に気づかないの?信じられないんだけど。」
「えっ?」
「はぁ。木ノ宮ミナって言ってもわからない?」
「えっ…木ノ宮って、え?あのミナちゃん…?」
「こんなに気づかないほど私たち思い出がなかったっけ?」
「本当にミナちゃんなの…?」
6歳の頃、隣に引っ越してきたミナちゃん。私の…大好きだったミナちゃん。
気づかなかった私に嫌気が差す中、あなたはとんでもなく呆れた表情をしていた。
だって名前が違うじゃん。だって、6歳の頃だったし、顔つきは変わるわけだし、だって、だって、、
「親が再婚したの。あんたは何にも変わらないのね。鬱陶しいほどに綺麗な顔立ちも鈍感なところも。」
「ミナちゃん…ミナちゃん、ハグしても良い……?」
「勝手にしてよ。」
私は逃がす隙もないほど強く強く抱きしめた。
あなたは、少し毒舌でふてくされたような顔は全く変わらない。
それが、なんだかとても嬉しくて、私はあなたを抱きしめたこの腕を離せそうにない。
「苦しいよ。」
「もうちょっとだけ。」
「無理。離して。」
惜しみながらも腕を少しずつ離していく。昔からミナちゃんの言うことは逆らえない。
あなたにだけは嫌われたくないから。
「私、怒ってるんだけど。」
「…もっと早くに気づけなくてごめん。」
「違う。それはもうどうでもいい。先輩って何。」
「……それは………」
これは、私たちにとってやましいものだった。
先輩のことは今でも一番好き。
付き合えるなら付き合いたい。先輩の一番になりたい。ハグしたい。キスしたい。
それは本心だ。でも――
「…付き合ってるの?」
「ち、違う!!」
「じゃあ何。全部言って。言わないんなら私たち一生話さない。」
「なっ…言うから!それはだめ!」
―――この調子だから、私はいつもミナちゃんに逆らえない。




