#02 新たなる使命
夜明け前のことである。古びた蔵書室で埃を被っていた「星の絆」が突如として光を放ち始めたのだ。本を手に取ったのは名も知れぬ盗賊——力と富を求め、「星屑の欠片」の噂を聞きつけた者であった。
「これを読めば…力を手に入れられる…!」
その男が最後のページをめくった瞬間、眩い閃光と共に二人の姿が浮かび上がった。
ステラとアステルは数百年ぶりに自由を得たのである。
「ふぁ〜あ、なんじゃもう朝かえ?」
ぼんやりとしていたアステルだったが、目の前にいる男の存在に気づき真っ赤な瞳を細めた。
「俺は…、」
盗賊が答えるより先に、何かが男の胸を貫いた。封印を解いた報いであった。
「下等な人間が私たちを目覚めさせたの?ほーんと人間って愚か。」
冷たい声でステラは言った。
床に倒れた男は即座に絶命していた。男の荷物であろうものから散らばった書類の中から一枚の紙切れが現れる。それはとある盗賊ギルドの構成員リストであった。彼らが「星屑の欠片」の噂を追い求めていたことは明白であった。
だが問題はここからで、封印されていたはずの「星屑の欠片」自体はどこにも見当たらなかった。本の中をみても、男のポケットを漁っても、どこにもなかったのだ。
ふと窓の外を見ると、封印されていたはずの星々が一箇所に集まっていた。
「まさか…!」
アステルの顔から血の気が引いた。
二人が外へ向かうと、信じられない光景が広がっていた。夜空一面に青白い光が舞い踊り、無数の星屑が四方八方へ飛び散っていくではないか。
「封印が解かれたことで『欠片』も目覚めたのね。」
ステラは奥歯を噛みしめながら呟いた。
「分散したとなれば……厄介なことになったわね。」
「やれやれ、我輩たちの神罰はまだ終わっていないということかや、リヒトよ。」
翌朝、とある村は騒然としていた。昨夜の異様な天体現象を見た人々が恐怖におののいていたのだ。「悪魔の再来」「世界の終わり」といった噂が市場を埋め尽くしていた。
そんな中、異変は徐々に現れ始めた。ある農夫は突然土が黄金に変わり始めたと言い張り、別の村では若い娘が空を飛ぶようになった。さらには町の鍛冶屋が鋼鉄を自在に操る能力を得たと村人の会話から聞いて取れた。
これら全ては散らばった「星屑の欠片」によるものであった。それぞれの欠片には異なる性質があり、触れた者の願望を歪んだ形で具現化させる特性があったのだ。
「これは由々しき事態じゃ。欠片の力が暴走すれば…。」
「まあ村人たちの命も危ないわね。」
ステラは珍しく憂慮の表情を見せた。
アステルは拳を握りしめ、俯いている。その姿を見たステラは、小さく笑った。
「あなた変わったわね、なんていうか…昔は俺様には関係ない!だったのに。しかも話し方まで変わっちゃって。」
「そういうお主も、トゲが無くなったんじゃないか?…百年近く反省させられたんじゃ。全部、リヒトくんのおかげじゃな。」
そうね、とステラは目を伏せ言った。彼女達がまだ生きているのは、いや生かされているのは、光の勇者と呼ばれるリヒトのお陰でもあるのだ。
「生きていればきっと嬉しいことも楽しいことも悲しいこともあるだろう。一人だと出来ないことも二人ならきっと大丈夫…。」
「彼の言葉ね。…リヒトが私たちと世界を救ってくれたように、私たちが星屑の欠片を見つけて封印しましょう。それが終わったらきっと、私たちは許される気がするの。」
二人はさらに情報を集めるために村の奥へと向かった。
すると、子供たちが突然火を吹き出す能力を得て、互いに炎を操って遊んでいたのだ。幸い大きな事故には至っていなかったが、そのうち制御不能になるのは目に見えている。
「おい小僧たち、それを今すぐやめるんじゃ。」
アステルが歩み寄るが、子供たちは恐れをなして逃げ出してしまった。
「無理もないわね。私たちの見た目、色々と怖すぎるもの。」
ステラは溜息をつきながら言った。伸びきった髪、伸びきった爪に、この時代に馴染んでいない服装。そして彼女たちの髪や目の色もまた、恐怖の対象なのだろう。
そこでステラはある考えを思いついた。
「アステル、少し待っていてちょうだい。」
ステラは過去、杖を空間魔法で持ち歩いていた。数百年経ってはいるが、何度も取り出し使った魔法なので、体が覚えていた。
どこからか杖が出て来て、ステラの手の中に収まった。
「よかった!まだ空間魔法は使えるみたいね。じゃ、やるわよー!」
ステラは杖を振った。柔らかな光が二人を包み込む。次の瞬間、そこには銀色の髪を持つ少女と黒髪の少年が立っており、魔女と魔王の面影はほとんど消え去っていた。
「ふむ……なかなか良いではないか。…髪色は変えんのか?この時代じゃ目立つんじゃないかのう。」
変身した自分の姿を確認しながらアステルが言う。手にはどこからか取り出した手鏡が握られていた。彼もきっと空間魔法を使ったのだろう。
「この髪色なら、リヒトにも気づいてもらえるでしょ?」
そう言いながらステラはにこりと笑った。
二人は再び子供たちに近づいた。
「ねえねえ、君たちの遊びはとても素敵だけど、少し休憩しない?」
優しい口調でステラが話しかける。
子供たちは最初警戒していたが、次第に打ち解けてきた。ステラの巧みな話術で彼らの好奇心を別のものに変えて行き、最終的には、「魔法のお勉強会」なるものを開催した。魔法による恐ろしさや便利さを話し、慣れていない炎の力を使わないよう諭していった。
また、この村での異変は他にもあった。
仲良くなった子供たちによると、森では樹木が突然巨大化し、村への道を塞いでしまっていたり、川では水が金色に変わり、飲んだ家畜が突然賢くなったり狂暴になったりするという現象が起きているそうだ。
特に深刻だったのは草原である。通常ならば穏やかに咲く花々が、太陽を追いかけて移動し始めたり、時には毒を持つ花粉を撒き散らしたりするようになったのだ。
「これは……自然の摂理を乱しまくってるわねー。…いやまあ、元を辿れば私達のせいでもあるけど。」
夕暮れ時の丘で、元の姿に戻ったステラが遠くを眺めながら言った。
アステルも、それに関しては認めざるを得なかった。そして、口を開く。
「そうじゃな、責任を取らねばならんよ。欠片を集めて、再び封印するしかない。…俺たちを救ってくれたリヒトのためにも。」
明日から、忙しくなりそうね。とステラは笑いながら言った。過去、世界を陥れようとしていたときの面影は、完全に消えていた。




