#0 異能の誕生
遠い昔のこと天より一筋の光が降り注ぎ、山の頂に不思議な結晶が現れたのである。それが「星屑の欠片」と呼ばれる存在であった。この結晶は触れた者の内なる願望を増幅し、時に無限の力を与えるという伝説があったのだ。
ステラは当時、小さな村に住む孤独な少女だった。両親を亡くし、村人たちから疎まれていたのである。友と呼べる存在が一つもいなかった彼女の唯一の楽しみは、夜空を見上げることであった。
そんなある満月の夜、星を近くで見たかったステラは好奇心に駆られ山へと足を運んだ。そこで、鈍く光る石のようなものを見つけた。
「なんだろこれ、星みたい。」
ステラは恐怖心と好奇心の乗った震える手で、結晶に触れた。
その瞬間、彼女の体から紫色の光が放たれ、周囲の植物が突然枯れ始めたのである。恐ろしくなったステラは結晶を投げ捨てたが、すでに遅かった。彼女の体内には「破壊の魔力」が宿ってしまったのだ。
一方、森の奥深くに城を構える魔王アステルは物心ついた頃から異質な存在であった。生まれながらにして膨大な闇の力を宿しており、近づくだけで生物が萎縮するほど恐怖を与える少年だったのである。アステルは孤独を持て余していた。人の世も魔物の群れも、彼を受け入れてはくれなかったからだ。
ある夜、アステルは山中で光るものを見つけて興味を持った。麓に向かうと、そこには自分の魔力を持て余すステラの姿であった。
「お前もひとりなのか?」
この出逢いがすべてを変えたのである。
最初は敵対していた二人だが、お互いの孤独を理解し合うようになるのに時間はかからなかった。
「我らに敵はいない。我らこそ真の主である。」
という共通の認識のもと、二人は盟約を結んだのである。
やがて彼らはステラの触れた石のようなものの全容を知ることとなる。
それは「星屑の欠片」と呼ばれ、触れた者の内なる願望を増幅し、時に無限の力を与えるというものだった。
古い文献を見つけ、読み進めると、そこには二つの魂が融合し、宇宙そのものを操る力が得られる。という書いてあった。
二人は顔を見合せた。その力を得るための準備はとうに整っている。あとは何かを願うだけなのだが、二人の願いには重大な問題があった。
「星屑の欠片」は単なる力の源泉ではない。それは持ち主の心を映す鏡でもあったのである。
ステラの心に潜んでいる復讐心と孤独感が増幅されれば、世界は荒廃する。
また、アステルの支配欲と自己顕示欲が強まれば、平和な国々は蹂躪されるだろう。
しかし逆に、愛と友情を選べば、全ての生き物が喜びに満ちた楽園が実現できたはずなのである。
だが、二人は違う道を選んだ。彼らは自分たちを拒絶した世界への怒りに燃え上がり、「星屑の欠片」を使って人々を脅迫し始めたのである。「我々に従うか否か」——これこそが彼らの問であった。
最初は恐れをなして従っていた民衆も、次第に過酷な統治に反発するようになった。特にアステルは、人間という種族全体に対する嫌悪感から容赦ない弾圧を行い、多くの命が奪われていったのである。一方のステラは、表面上は冷静を装っていたものの、内心では自分の行動に戸惑いを覚えることが増えていた。
最終的に「星屑の欠片」の力は二人の手に負えなくなりつつあった。制御不能になった力は暴走し、大陸全体を飲み込もうとしていたのだ。そこに立ち上がったのが、後に「光の勇者」と呼ばれるリヒトという若者であった。彼は星屑の欠片に関する古代文献や天文現象の研究し、封印の方法を編み出したのである。
決戦の地となったのは、最初にステラが欠片を見つけた山の頂であった。
「あなたたちは本当はこんなことを望んではいなかったはずです。」
リヒトは語りかけたが、アステルは聞く耳を持たなかった。
「弱き者どもに何が分かる!我らは選ばれし者なのだ!」
壮絶な戦いの末、リヒトと仲間たちはついに二人を封印することに成功したのである。
完全な消滅を願うも、それは不可能だった。そこで彼らは特殊な封印術を使った。古の魔法書に記された方法で、二人を物理的には殺さず、魔力を抑え込んだ状態で星屑の欠片と共に封印しておくという手段であった。
「いつか……正しい心を取り戻したときにきみたち二人は解放されるだろう。ただ、もしも、万が一、星屑の欠片の封印が解かれてしまいそうな時は、どうか俺の代わりに君たちの手で守ってくれ。」
リヒトは少しだけ悲しそうに言った。彼らともう少し早く出会えていたら、何かが変わっていたかもしれない。彼らと戦い、関わっていく上でそう感じていた。
彼らはただ、さみしかっただけなのだ。
「俺が生きていたら、是非友になろう。だからそれまではその中で辛抱してくれ。」
そして百年以上の年月が流れた。魔女ステラと魔王アステルは、「星の絆」と題された古い絵本の中に閉じ込められている。
その本はひっそりと蔵書室で埃を被っていた。
人々はもう、彼らのことなど覚えてはいないのだ。




