第9話「一方その頃、主人公を追放した王城では。〜崩壊する防壁と、折れる聖剣〜」
レンが極上のトマトとホーンボアの肉を堪能し、スローライフを満喫していた頃。
彼を「ハズレ枠のゴミ」として追放したグランツ王国の王城では、怒号が響き渡っていた。
「ええい、どういうことだ! 結界都市である我が国の『絶対防壁』が、たかがオークの群れに破られただと!?」
豪華な王座の間で、太った国王が顔を真っ赤にして叫んだ。
その足元で、冷や汗を流す宰相が震えながら報告書を読み上げている。
「は、はい……。先日の魔物溜まり(スタンピード)の襲撃で、外壁の三割が崩落。直ちに宮廷魔術師団の土魔法使いたちを修復に向かわせたのですが……彼らの魔力では、壁の『強度』が到底足りず、補修したそばから崩れてしまい……」
「言い訳など聞きたくない! 我が国には何百人もの土魔法使いがいるだろうが!」
「それが……建国以来の防壁を修復するには、最低でも土魔法の適性が『大』、できれば『極大』の者による、分子レベルの魔力練成が必要なのです。現在の宮廷魔術師たちでは、ただの泥遊び程度の修復しかできず……」
宰相の言葉に、国王は舌打ちをした。
この国において、土魔法は「地味で攻撃力がない」と軽視されてきた。しかし、国家のインフラ(防壁や建築)を維持するためには、高位の土魔法使いが不可欠だったのだ。
「さらに問題がもう一つ」
宰相はハンカチで額の汗を拭い、傍らに控えていた豪奢な鎧の青年――異世界から召喚された『光の勇者』へと視線を向けた。
「勇者様がお使いになる『聖剣』の打ち直しですが、ドワーフの鍛冶ギルドから『国が支給する鉄の純度が低すぎて、これ以上の強化は不可能だ』と突き返されました。王国の鉱山から採れる鉄鉱石の質が、年々落ちているのです」
「チッ。どいつもこいつも使えねえな」
光の勇者は不機嫌そうに、刃こぼれした自分の聖剣を蹴り飛ばした。
「俺の光魔法の出力に耐えられない剣なんて意味ねえんだよ。もっと魔力を込めて鉄を極限まで精製できるやつはいねえのかよ?」
「ですから、それにも土魔法の適性『極大』を持つ希少な錬成術師が必要でして……」
宰相の言葉が尻すぼみになる。
その時。
国王の脳裏に、数日前の記憶がフラッシュバックした。
集団転移で召喚された若者たち。その中で、火も水も風も使えず、ただ一つだけ『土魔法(適性:極大)』というステータスを持っていた、黒髪の少年。
『すべての属性に適性なし。持っているのは最底辺の土魔法のみ……。ええい、不愉快だ! このゴミをさっさと処刑の草原へ転移させろ!』
「…………あ」
国王の太った顔から、サァッと血の気が引いた。
「王よ、どうしました?」
「さ、宰相よ……。先日、我が国に召喚された者の中に、土魔法適性『極大』の者が……いなかったか?」
宰相は気まずそうに目を逸らした。
「……はい。レンと名乗る少年がおりましたが、陛下のご命令で、凶悪な魔物が蔓延る『処刑の草原』へと転移(廃棄)させました。丸腰でしたので、今頃はホーンボアの餌食に……」
「ば、馬鹿者!! なぜその時に止めなかった!!」
「へ、陛下がゴミの顔など見たくないから即座に処分しろと……っ!」
王座の間に、絶望的な沈黙が降りた。
国家の防壁を直し、最強の武器の素材を生み出せる、文字通りの『国宝級の人材』。
彼らは自分たちの手で、それを死地に捨ててしまったのだ。
「す、すぐに捜索隊を出せ!! 処刑の草原をくまなく探すのだ!! もし生きていれば、どんな手を使ってでも連れ戻せ!!」
「で、ですが、あのような仕打ちをしたのです。素直に戻ってくるとは……」
「金だ! 金と女を与えれば、あのような平民、尻尾を振って戻ってくるわ!!」
王の浅ましい命令を受け、すぐさま王城から精鋭の騎士団が草原へと出撃していった。
彼らはまだ知らない。
自分たちが捨てた「土魔法の少年」が、王城など比較にならないほど堅牢で快適なコンクリート要塞を築き上げ、失踪した元・公爵令嬢に極上の手料理を振る舞わせながら、優雅なスローライフを送っていることなど。
そして、彼らが今から向かう先にあるのは、ただの草原ではなく、絶対に攻略不可能な『最強の要塞』であることを――。
お読みいただきありがとうございます!
ついに王城サイドがパニックに陥りました。
「土魔法」を軽んじた結果がこれです。
防壁も聖剣もボロボロ……ざまぁみろですね!
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▼次回予告
焦った王国が、精鋭騎士団をレンの元へ派遣します。
しかし、そこで彼らを待ち受けていたのは、現代知識で作られた「絶対防壁」でした。




