第8話「極上の野菜と精製塩。元・公爵令嬢、完全に胃袋を掴まれる」
「よし、野菜はこれで十分だな。次は調味料だ」
俺は山積みにされた極上野菜の横で、街で買ってきた不純物だらけの茶色い岩塩を取り出した。
「【土魔法・成分分離】」
岩塩に含まれるマグネシウムや硫酸カルシウムといった、エグみや苦味の原因となる成分を分子レベルで弾き出す。だが、純度100%の塩化ナトリウムにしてしまうと、今度は塩気が尖りすぎてしまう。
俺は前世の記憶を探り、微量のミネラルだけを絶妙なバランスで残すように調整した。
サラサラ……。
俺の手のひらに残ったのは、雪のように白く、キラキラと輝く最高級の「精製塩」だ。
試しにひとつまみ舐めてみると、まろやかな塩味の奥に確かな甘みを感じる。完璧だ。
「クレア。この塩と、さっきの野菜を使って、もう一度さっきのメニューを作ってみてくれ。ああ、ホーンボアの肉は、この『パイナップルに似た果実』の果汁と一緒に数分間漬け込んでから焼くんだ」
「パ、パイナップル……? わかりました、やってみます!」
クレアは山のような極上食材を抱え、システムキッチンへと向かった。
数十分後。
部屋中に、先ほどとは全く違う、暴力的なまでに食欲をそそる香りが充満していた。
「お待たせいたしました、レン様……っ!」
テーブルに並べられたのは、澄み切った黄金色の野菜スープ。そして、表面がカリッと香ばしく焼き上げられたホーンボアのソテーだ。
「……見た目からして別物だな」
俺はスプーンを手に取り、まずはスープを一口飲んだ。
「――っ!」
美味い。いや、美味すぎる。
化学調味料など一切使っていないのに、トマト(似の野菜)のグルタミン酸と、タマネギ(似の野菜)の甘みが極限まで溶け出し、奇跡のような旨味の相乗効果を生み出している。
まろやかな精製塩が、その味を一つにまとめ上げていた。
次に、ホーンボアのソテーをナイフで切る。
「……すっと切れる。ゴムみたいだった肉が」
口に入れると、肉汁がジュワッと溢れ出した。
パイナップルに含まれるタンパク質分解酵素の働きによって、硬かった筋繊維が見事にほぐれ、信じられないほど柔らかくなっているのだ。
獣臭さは完全に消え、肉本来の濃厚な旨味だけが脳を直撃する。
「最高だ。俺の前世の高級レストランでも、ここまでの味は出せないぞ」
「ほ、本当ですか……!? 私も、いただいてみても……」
クレアはゴクリと唾を飲み込み、自分の分のスープを一口飲んだ。
「…………えっ?」
彼女の動きがピタリと止まった。
そして、プルプルと肩を震わせたかと思うと、大粒の涙をボロボロとこぼし始めたのだ。
「ちょ、どうした!? 熱かったか!?」
「ひ、ひがいまふ……っ。おいひい……っ」
クレアは泣きながら、猛然とソテーを切り分け、口に放り込み始めた。
元公爵令嬢の優雅さなどそこにはない。一心不乱に、ただ目の前の「圧倒的な美味しさ」に魂を奪われたように食べ進める。
「な、なんですかこれ……っ。お肉が、口の中で溶けました……! お野菜も、甘くて、味が深くて……私が今まで王城で食べていたフルコースは、一体なんだったんでしょうか……!」
あっという間に平らげたクレアは、ふう、と幸せそうに息を吐き、熱い視線で俺を見つめてきた。
「レン様」
「お、おう」
「私、もうレン様が作ったお野菜とお塩がないと、生きていけません。一生、レン様のお側でお仕えさせてください……!」
どうやら、胃袋を掴まれたのは俺ではなく、彼女の方だったらしい。
最強の物理チートである【土魔法】。
それは戦闘だけでなく、衣食住の全てを極大レベルで満たす、まさに神の御業だった。
こうして、俺とポンコツ元令嬢の、規格外に快適で美味しいスローライフが本格的に幕を開けた。
お読みいただきありがとうございます!
ついにクレアの胃袋を完全に掴みました。
これで衣食住、すべてが完璧なスローライフの基盤が整いましたね。
「美味しそう!」「こんな生活したい!」
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──さて、レンたちが優雅に食事をしている一方。
▼次回予告
ついに【王城視点(ざまぁ展開)】が始まります!
レンを「ハズレ枠」として追放した王国。
しかし、彼を失ったことで「防壁」が直せず、「聖剣」も劣化し……?
国中が大パニックになる様子を、たっぷりお届けします。
お楽しみに!




