第5話「専属メイド(元公爵令嬢)のために、土魔法で最新鋭のシステムキッチンと極上の風呂を作ってみた」
「し、失礼いたします……って、ひゃああっ!?」
俺の造ったコンクリート造りのワンルームに足を踏み入れた瞬間、クレアは悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。
「どうした? 怪我でもしたか?」
「ち、違います! 床が……床があまりにも滑らかすぎて、それに、あそこの壁! 何もないのに外の景色が見えます! 透明な壁なんて、王城の宝物庫でも見たことがありません!」
クレアは床の大理石(土を極限まで圧縮・研磨したもの)と、窓の強化ガラス(ケイ素を錬成したもの)を見て目を白黒させていた。
「ただのガラスだ。それより、三食作ってくれるって話だったよな。腹が減った」
「あ、はい! お任せください。ですが、かまどや調理器具はどこに……?」
「ああ、まだ作ってなかった。ちょっと下がっててくれ」
俺は部屋の隅のスペースに向かい、足元の床に手を触れた。
「【土魔法・構造物建築】」
ゴゴゴ……と低い音を立てて、床の一部が変形していく。
ただの土の塊ではない。俺が錬成するのは、熱に強い「ファインセラミックス」と、汚れが落ちやすい「ホーロー(ガラス質のエナメル)」を組み合わせた、現代風のシステムキッチンだ。
あっという間に、滑らかな調理台、洗い場となるシンク、そして買ってきた火魔法の魔石を組み込んだコンロ付きのオーブンが完成した。
「よし。包丁と鍋も鉄から生成しておいた。水はそこの水魔法の魔石を叩けば出るようにしてある」
「…………」
「クレア?」
「神々の、御業……。これほど美しく、一切の継ぎ目がない調理台なんて……。私、夢でも見ているのでしょうか……?」
クレアはフラフラと歩み寄り、セラミックスの調理台をうっとりとした表情で撫でている。
しかし、彼女が着ているボロボロの革鎧には、先ほどのウルフの返り血や泥がべっとりと付いていた。俺の真っ白なキッチンが汚れるのはちょっと困る。
「料理の前に、まずは風呂に入ってこい。奥の部屋だ」
「ふ、お風呂ですか!? 水浴びではなく!?」
クレアが再び大声を上げる。
この世界では、お湯を沸かして全身を浸かる「風呂」という文化は、大貴族ですら滅多に行わない最高の贅沢らしい。
「いいから入れ。着替えは……とりあえず俺が買ってきた麻の服の余りで我慢してくれ」
「あ、ありがとうございます……!」
クレアは恐縮しきった様子で、風呂場へと向かっていった。
数十分後。
「あ、あの、レン様……」
もじもじとしながら風呂場から出てきたクレアを見て、俺は少し驚いた。
泥と血の汚れが落ちた彼女の銀髪は、窓から差し込む光を反射してキラキラと輝いている。麻の服という粗末な格好にも関わらず、元公爵令嬢という気品と、風呂上がりのほんのり赤い頬が相まって、見違えるほどの美少女になっていた。
「あの、お風呂、凄かったです……! 浴槽が驚くほどツルツルで、お湯も冷めなくて……実家にいた頃よりも、ずっと贅沢な時間でした。私、一生レン様についていきます!」
クレアは目をキラキラと輝かせ、力強く宣言した。
「……そ、そうか。それなら良かった」
なんだか妙に懐かれている気がするが、まあ悪い気はしない。
これで清潔な環境と、専属の料理人(兼・護衛)を手に入れたわけだ。
「よし、それじゃあ早速、昼飯を頼めるか?」
「はいっ! ご主人様の胃袋、私が全力で満たしてみせます!」
こうして、俺の快適な異世界スローライフは、優秀で少し賑やかな同居人とともに本格的にスタートしたのだった。
お読みいただきありがとうございます!
やっぱり日本人ならお風呂ですよね。
クレアもすっかり現代設備の虜になってしまったようです。
「スローライフ楽しそう!」と思っていただけたら、
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▼次回予告
衣食住の「住」は完璧。次は「食」です。
しかし、異世界の食事は現代人にとってあまりにもマズかった……!?




