第21話「エルフの薬剤師からのSOS。致死性の毒ガスダンジョン? ガスマスク(活性炭)を作ってピクニックに行ってきます」
「お願い、レン君! あなたのその規格外の土魔法で、どうか私を助けてちょうだい!」
迷宮都市の冒険者ギルド。その奥にある特別研究室で、エルフの薬剤師・エララが俺にすがりついてきた。
普段のクールなインテリ眼鏡キャラはどこへやら、涙目で俺の手をギュッと握りしめている。
「落ち着けよ。一体どうしたんだ?」
「実は、流行り病の特効薬を作るために、どうしても『冥府の睡蓮』という花が必要なの。でも、それが咲いているのが……迷宮の第50階層、『猛毒の沼地』なのよ」
エララの話によれば、その階層は致死性の猛毒ガス(瘴気)で完全に満たされており、どんな高位の解毒魔法も数分しか持たないらしい。
Aランクパーティーですら全滅しかけた、まさに文字通りの「死地」だという。
「……なるほど。毒ガスね」
「お願い! レン君の魔法なら、遠隔操作で花を摘み取ったりできないかしら!? 報酬なら、このギルドの予算を全額つぎ込んででも――」
「いや、そんな面倒なことしなくても、直接採りに行けばいいだろ。クレア、今日は天気もいいし(地下だけど)、お弁当を持ってダンジョンにピクニックに行かないか?」
「はいっ! レン様の手作りお弁当、すっごく楽しみです!」
エララが「は?」という顔で固まるのを尻目に、俺は床に落ちていた木片を拾い上げた。
「【土魔法・構造最適化】」
木片の炭素を抽出し、ナノレベルで無数の細かな孔を形成していく。
化学の世界で言う『活性炭』だ。毒ガスや不純物を吸着させる、最強のフィルターである。
それを、同じく錬成したシリコン素材のフルフェイスマスクに組み込んだ。
見た目はちょっと物々しいが、機能性は現代地球の軍用ガスマスクすら凌駕している。
「よし、完成だ。クレアの分は、ちょっと息苦しくないように調整しておいたぞ」
「わぁ、不思議なお面ですね! これをつければいいんですか?」
「あ、ああ……? ちょっと待って、何を作ったの!? 冥府のガスは防毒の魔道具すら溶かすのよ!?」
エララの悲鳴を背中で聞きながら、俺とクレアは鼻歌交じりに迷宮へと向かった。
◆ ◆ ◆
迷宮第50階層、『猛毒の沼地』。
階段を下りた先には、赤黒い霧(有毒ガス)が視界を遮るように立ち込めていた。
階段の手前には、重装備のベテラン冒険者たちが数人、青い顔をしてへたり込んでいる。
「おい、そこの素人! それ以上進むな! 一口でもあの霧を吸えば、肺が焼け爛れて死ぬぞ!」
「あの中には強力な魔物もいる! 自殺行為だ!」
先輩冒険者たちが親切に警告してくれたが、俺は手を振って応えた。
「大丈夫です、ちょっと花摘みに行ってくるだけなんで。ほらクレア、マスクつけて」
「はいっ!」
俺たちは特製ガスマスクを装着し、平然と赤黒い霧の中へと足を踏み入れた。
「「「あ、あいつら死んだぞ……」」」
背後でそんな声が聞こえたが、マスクの中の空気は拍子抜けするほど澄み切っていた。
『シュー……コー……。どうだ、クレア。息苦しくないか?』
『シュー……コー……。はい! まるで森の中にいるみたいに空気が美味しいです!』
活性炭フィルターが硫化水素や有毒な化合物を完全に吸着・分解しているのだ。
毒ガスなんて、物理的な微粒子の集合体に過ぎない。フィルターを通せば、ただの綺麗な空気だ。
沼地を進むと、ガスに適応した毒スライムや毒ヘビの魔物が襲ってきたが、俺が指先から放つ【土魔法・石灰散布(強アルカリ中和)】の前に、シュワシュワと泡を吹いて溶けていった。
酸性の毒にはアルカリ性。化学の基本だ。
「おっ、あったあった。あれが『冥府の睡蓮』だな」
毒の沼の中央に、妖しく光る花が群生していた。
俺は土魔法で足場を作り、サクッと数十本ほど根こそぎ採取した。
「よし、任務完了。……ちょうどお腹も空いたし、ここでメシにするか」
「はいっ! でもレン様、このお面を外したら毒を吸っちゃいますよ?」
「問題ない」
俺は沼地の小高い丘に立つと、周囲の土砂を錬成して、透明な強化ガラス張りの『気密ドーム(クリーンルーム)』を一瞬で作り上げた。
さらに、ドームの内側を陽圧(外より気圧が高い状態)に設定し、毒ガスが一切入ってこない完璧な安全地帯を完成させる。
「さあ、マスクを外していいぞ」
ドームの中は、外の地獄のような景色が嘘のように安全で快適だった。
俺たちはレジャーシートを敷き、昨日作った『フェンリルのカツサンド』と、冷えたフルーツジュースを取り出した。
「わぁぁ……! 毒の沼を眺めながら食べるカツサンド、最高に美味しいです!」
「まあ、景色は最悪だけどな。でも、たまにはこういうピクニックも悪くない」
外では凶悪な毒物たちがガラス越しに俺たちを威嚇していたが、もちろん傷一つつけられない。
俺とクレアは、致死性のダンジョンの最深部で、優雅にカツサンドを頬張りながらピクニックを満喫した。
数時間後。
両手いっぱいの『冥府の睡蓮』を抱えてケロッと帰還した俺たちを見て、入り口にいた冒険者たちとエララが、揃って泡を吹いて気絶することになるのだが……それはまた別の話だ。
お読みいただきありがとうございます!
「致死性の毒ガス? 活性炭フィルターを通せばただの空気です」
剣と魔法の世界の絶対的な脅威を、科学の力と手作り弁当であっさり攻略してしまいました。
毒沼を眺めながらのカツサンド、案外オツかもしれません(笑)。
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▼次回予告
大量の特効薬素材を持ち帰ったレン。
気絶から復帰したエララは、レンの「マスク」の技術に目をつけ……?
ギルドがさらなるパニックに陥ります!




