第18話「冷蔵庫のために、国家予算級の魔石を競り落としてみた。〜資金? その辺の石ころをダイヤモンドに変えれば無限ですが?〜」
「……うわぁ、凄い人ですねレン様。ここが迷宮都市のオークション会場ですか」
俺とクレアは、街の中央にある巨大なドーム型の建物――オークションハウスに来ていた。
入場には紹介状が必要だったが、ギルドのエルフ薬剤師・エララから貰った状を見せたら、貴族専用のVIP席に通された。コネの力は偉大だ。
「さて、今日の目玉はこれだ」
俺はカタログ(羊皮紙)の一点を指差した。
『氷牙竜の心臓石』。
Sランクモンスターの素材であり、周囲の熱を永遠に奪い続けるという強力な冷却魔石だ。
「フ、フロスト・ドラゴンの心臓石……!? そ、そんなもの、宮廷魔導師団が戦略兵器として使うレベルの代物ですよ!? 一体何に使うおつもりですか?」
「何って、冷蔵庫の動力だ」
「れ、れいぞうこ……?」
俺の空中要塞にはシステムキッチンがあるが、食料保存のための冷蔵庫がまだない。
電気がない以上、この強力な冷却魔石で冷やすのが一番手っ取り早いのだ。俺はキンキンに冷えたトマトとビール(似の発泡酒)が飲みたい。
「さあ、始まるぞ」
オークションが始まった。
武具や美術品が次々と落札されていく中、ついに例の魔石が登場した。
「続きまして! 本日のメインイベント! 北の雪山で発見された奇跡の結晶、『氷牙竜の心臓石』の登場です!!」
司会者が叫ぶと同時に、会場の熱気が最高潮に達した。
ステージ上のガラスケースの中、青白く脈動する拳大の宝石が冷気を放っている。
「開始価格は、金貨500枚から!!」
「550枚!」
「600枚だ!」
「どけ! 私は帝国の公爵だぞ! 700枚!!」
怒号のような入札合戦が始まった。
金貨700枚。普通の家が10軒は建つ金額だ。クレアが「ひぃぃ……」と震えている。
(……ふむ。思ったより安いな)
俺は冷静だった。
この魔石の出力なら、業務用の大型冷蔵庫も余裕で稼働できる。絶対に手に入れなければならない。
「よし。資金を作るか」
「えっ? レン様、ギルドの報酬だけじゃ足りませんよ!?」
俺はVIP席のテーブルにあった装飾用の『炭(消臭用)』を手に取った。
そして、人差し指で軽く叩く。
「【土魔法・元素配列変換】」
パキィン……。
黒い炭の塊が光を放ち、一瞬にして『無色透明の硬質な結晶』へと変貌した。
炭素原子の配列を組み替えただけだ。要するに――。
「クレア、これを出品カウンターに出してきてくれ」
「こ、これ……ダイヤモンド!? しかも、拳くらいの大きさがありますけどーッ!?」
「純度は完璧だ。鑑定書なんてないけど、見れば分かるだろ」
俺は作ったばかりの巨大ダイヤモンド(元・消臭炭)をクレアに持たせた。
数分後。
会場の鑑定士が泡を吹いて倒れたという騒ぎのあと、俺の手元には『金貨10,000枚相当』の預かり証が届いた。
「では、再開します! 現在の最高額は公爵様の800枚!」
「くっくっく、この魔石は私のものだ! これで最強の氷魔法の杖を作るのだ!」
恰幅の良い公爵が勝ち誇っている。
俺は手元の番号札を挙げ、静かに言った。
「金貨、2,000枚」
「「「はあぁっ!?」」」
会場の時間が止まった。
一気に倍以上の金額。公爵が目を剥いてこちらを振り返る。
「き、貴様……!? Fランク冒険者のようなナリをして、ふざけているのか! そのような大金、持っているはずが――」
「支払い確認済みです! あちらのVIP席のお客様から、即金で保証されています!」
司会者の声に、公爵が絶句した。
「に、2,000枚……。ぐ、ぬぬぬ……」
「……落ちないな。じゃあ、3,000枚」
「!?」
「まだ粘るか? 5,000枚でもいいぞ。こっちの財布(炭)は無限だからな」
俺が番号札をパタパタと振ると、公爵は顔を真っ赤にして、そのまま後ろに卒倒した。
「ら、落札ぅぅぅーー!! 『氷牙竜の心臓石』、金貨3,000枚でVIP席のお客様にお譲りします!!」
◆ ◆ ◆
数時間後。空中要塞のキッチンにて。
「〜〜〜〜ッ!! くぅぅぅ、美味い!!」
俺は完成したばかりの『魔石式・急速冷蔵庫』から取り出した、キンキンに冷えたエールを一気に飲み干した。
喉を駆け抜ける冷たさと炭酸の刺激。これだ、これを待っていたんだ。
「はわわ……レン様。あの国宝級の魔石が、野菜とお酒を冷やすためだけに使われているなんて……」
「最高の贅沢だろ? ほら、クレアには冷えたフルーツジュースだ」
クレアは恐る恐る冷えたグラスを受け取り、一口飲んで目を輝かせた。
「……っ! 冷たい! 美味しいです! 王城のパーティーでも、こんなに冷たい飲み物は出ませんでした!」
国家予算級の魔石を使って、ただ酒を冷やす。
呆れるクレアだったが、その冷たいジュースの味には逆らえなかったようだ。
こうして、俺の快適スローライフに「文明の利器(冷蔵庫)」が加わった。
次はエアコンか、それともウォシュレットか。
俺の野望は尽きることがなかった。
お読みいただきありがとうございます!
「金がなければ作ればいいじゃない」
土魔法(元素操作)にかかれば、炭もダイヤモンドに早変わりです。
国宝級の魔石を冷蔵庫に使う贅沢、これぞスローライフ(?)ですね。
「この金銭感覚おかしいw」「ダイヤ錬成うらやましい!」
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▼次回予告
冷蔵庫も手に入れたし、テラスで優雅にティータイム……
と思いきや、空から「伝説のSランク魔獣」が降ってきました。
庭のトマトの運命やいかに!?




