第17話「裏路地のスパイス屋で出会った強面の男と、究極の『カレーライス』を作って食らう」
ギルドの変人エルフ・エララから巻き上げた紹介状を手に、俺とクレアは迷宮都市の裏路地にある『香辛料専門店』を訪れた。
「ここですね。……うわぁ、扉を開ける前からすごい香りがします」
クレアが鼻をひくつかせている。
俺は重厚な木の扉を押し開けた。
店内は薄暗く、壁一面に無数の瓶が並んでいる。
クミン、コリアンダー、ターメリック、カルダモン……。
異世界では薬として扱われるものが多いが、俺の前世の知識があれば、これらは『魔法の粉』に変わる。
「……ん?」
先客がいた。
店の奥で、巨躯の男が腕組みをして店主を睨みつけている。
背中には身の丈ほどある大剣。顔には古傷。どう見てもカタギではない、歴戦の冒険者だ。
「おい親父。もっとこう、ガツンとくるやつはねえのか? 最近狩った『レッド・バイソン』の肉が臭くて敵わねえんだよ」
「これ以上強い香辛料はありませんよ、ガルドさん。あんたの舌が麻痺してるだけだ」
男――ガルドと呼ばれた冒険者は、不満げに鼻を鳴らした。
俺は少し考え、彼の横に並んで瓶を一つ指差した。
「なら、これを混ぜてみたらどうだ? この黄色い粉と、そっちの茶色い実を、1対3の割合ですり潰すんだ」
「ああん? なんだ小僧、知った口を……」
ガルドがギロリと俺を睨む。
だが、俺は怯まずに続けた。
「レッド・バイソンの肉なら、脂が強いはずだ。香りで消すんじゃない。スパイスの『辛味』と『苦味』をぶつけて、肉の旨味を引き立てるんだよ。俺なら、その肉を最高に美味く食える料理にできるが?」
俺の言葉に、ガルドは目を丸くし、やがてニヤリと口角を上げた。
「……ほう。面白えこと言うじゃねえか。いいぜ、俺のキャンプで試してみろ。不味かったら承知しねえぞ?」
◆ ◆ ◆
場所は変わり、街の外にある冒険者用の野営地。
俺たちはガルドのテントの前で焚き火を囲んでいた。
「へえ、これがバイソンの肉か。いいサシが入ってる」
「おうよ。Aランクの魔物だからな。だが、どう焼いても獣臭さが抜けなくて困ってたんだ」
俺は買ってきたスパイスを【土魔法・成分粉砕】で完璧な粒子にまで挽き、絶妙な配合でブレンドした。いわゆる『ガラムマサラ』の完成だ。
さらに、持参したタマネギ(似の野菜)を飴色になるまで炒め、トマト、そしてゴロゴロとしたバイソンの肉を投入して煮込む。
最後に、俺特製の「カレールー(小麦粉とバターとスパイスの結晶)」を鍋に溶かし入れると――。
ジュワァァァ……!
爆発的な香りが、野営地一帯を支配した。
複数のスパイスが複雑に絡み合い、食欲中枢を直接殴りつけるような、暴力的かつ魅惑的な香り。
「な、なんだこの匂いは……!? 唾液が止まらねえ……ッ!」
ガルドが喉を鳴らす。クレアも「はわわ……」と目を回している。
「完成だ。俺が錬成した『白米』にかけて食ってくれ」
俺は皿に盛った熱々のカレーライスをガルドに差し出した。
ガルドはスプーンを鷲掴みにし、豪快に口へと運んだ。
「……ッ!!」
動きが止まった。
次の瞬間、強面の男の目から、ツーッと涙が流れた。
「辛ぇ……! なんだこの熱さは! 口の中が焼けるようだ! なのに……肉の旨味が爆発してやがる! 臭みが消えてるどころか、スパイスの香りが肉汁と混ざり合って、喉を通り過ぎるたびに身体が熱くなりやがる!!」
「それを『コク』って言うんだよ」
「コク……! なるほど、これがコクか……!!」
ガルドは一心不乱にスプーンを動かし始めた。
「美味い! 辛い! 美味い!」と唸りながら、山盛りのカレーを数分で平らげてしまった。
「ふぅ……。生き返ったぜ。こんな魂が震えるメシは久しぶりだ」
ガルドは満足げに腹をさすり、俺に向かってニカっと笑った。
「悪かったな、小僧……いや、レン。お前、ただのヒョロガリかと思ったが、とんでもねえ『職人』だったな」
「ただの趣味だよ。ガルドさんも、いい食いっぷりだった」
俺たちは言葉多く語らず、焚き火越しに拳を軽く突き合わせた。
ベタベタした馴れ合いではない。だが、そこには確かな「男同士の敬意」が生まれていた。
「俺はソロでやってるが、困ったことがあったら言え。このカレーの礼は、身体で返してやる」
「ああ、覚えておくよ」
こうして俺は、迷宮都市で最初の(そして数少ない)男の友を得た。
後で知ったことだが、このガルドという男、実はギルドでも指折りの実力者である「Aランク冒険者」だったらしい。
スパイスとカレーが繋いだ縁は、意外と太いものになりそうだ。
お読みいただきありがとうございます!
男同士の会話に多くの言葉はいりません。
「美味いカレー」があれば、それだけで通じ合えるものです。
(実はすごい実力者のガルドさん、今後も良き理解者になりそうです)
「カレー食べたい!」「こういう渋い展開も好き!」
と思っていただけましたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです!
▼次回予告
スパイスも手に入れたし、いよいよ本格的なダンジョン攻略へ?
いいえ、レンは「魔石」を求めて、なぜかダンジョンではなく『オークション会場』へ向かいます。
そこで出品されていたのは……?




