第16話「Fランクの初仕事。ただの乾燥ハーブを納品したつもりだったが、ギルド中が騒然としている件」
「……あ、あのぉ。レン様……? 本当に、この麻袋を出すのですか?」
「ああ。生のままだとかさばるし、腐りやすいだろ? 乾燥させておいた方が親切設計ってもんだ」
迷宮都市の冒険者ギルド。
俺とクレアは、先ほどの犬耳の受付嬢(名前はミントと言うらしい)のカウンターに戻ってきていた。
「依頼完了の報告だ。『ヒールグラスの納品』、これで頼む」
俺は麻袋をどさりとカウンターに置いた。
ミント嬢は、俺の顔を見るなり「ヒッ」と短く悲鳴を上げたが、すぐに職業意識を取り戻して麻袋に手を伸ばした。
「は、はい……確認いたしますにゃ。……あれ? 軽いですにゃ?」
通常、ヒールグラスの納品といえば、泥のついた生の草の束が山積みになるものだ。
だが、俺が渡したのは乾燥させた茶葉のような状態。ミント嬢が不思議そうに袋の紐を解き、中身を確認した。
その瞬間。
フワァァァ……ッ!!
「「「くん、くん……!?」」」
ギルドのホール全体に、まるで春の草原をそのまま凝縮したような、清涼で甘やかな香りが爆発的に広がった。
汗臭い冒険者たちの匂いが一瞬で浄化され、深呼吸したくなるような空気に変わる。
「な、なんですかにゃ、このイイ匂いは……!? これ、本当にヒールグラスですかにゃ!?」
ミント嬢が目を丸くして袋の中を覗き込む。
そこには、鮮やかな緑色を保ったまま、パリパリに乾燥された美しいハーブが詰まっていた。
「ああ。成分抽出で余計な水分と雑味を抜いておいた。これなら煮出す手間も省けるし、お湯を注ぐだけで最高級のポーション(またはハーブティー)になるはずだ」
「せ、成分抽出……!? そ、そんな高等技術、宮廷魔導師様でも数日がかりですにゃよ!?」
ミント嬢が慌てふためいていると、ギルドの奥の扉が勢いよく開いた。
「おい!! 今の芳醇な魔力の香りはどこからだ!?」
現れたのは、白衣を着た長い耳の女性――エルフだ。
眼鏡をかけ、知的な雰囲気を漂わせているが、その目は血走っている。
「エ、エララ様!? ギルド専属薬剤師のあなたが、どうして表に……」
「黙りなさい! 私は今、猛烈に感動しているの!」
エララと呼ばれたエルフは、俺のカウンターまで早歩きで詰め寄ると、ひったくるようにして麻袋の中身を手に取った。
そして、震える手でハーブを光に透かし、匂いを嗅ぎ、最後には少し齧った。
「……信じられない。苦味が……ない?」
エララが戦慄したように呟く。
「ヒールグラス特有のエグみ成分が、分子レベルで完全に除去されている……? それなのに、薬効成分である魔力素は一切壊れていないどころか、生の状態よりも活性化しているわ! 乾燥方法も、天日干しや火魔法じゃない……これは、時間経過そのものを操作したとでもいうの!?」
「いや、ただの土魔法による水分分離だけど」
俺が正直に答えると、エララは眼鏡をずり上げ、食い入るように俺の顔を見た。
「土魔法……? これが? ……ふ、ふふふ。どうやら私の知識は古かったようね」
彼女は狂気的な笑みを浮かべると、ミント嬢に向かって叫んだ。
「ミント! この納品物、Fランク依頼の報酬規定を無視しなさい! 金貨……いえ、白金貨を出してもお釣りが来るわ!」
「は、白金貨ぁぁぁっ!? た、たかが薬草採取で家が建ちますにゃーっ!!」
ギルド中がどよめいた。
たかがFランクの新人(しかも土魔法)が、初仕事で白金貨級の成果を出したのだ。
「いや、そんなにいらない。目立ちたくないし、規定通りの銅貨でいい」
俺は面倒なことになるのを避けるため、手を振って断った。
「なっ……欲がないのね!? ならば、せめてこのハーブの『優先買取権』を私に回してちょうだい! 私の研究室で、この奇跡のハーブを解析したいの!」
「ああ、それなら好きにしてくれ。じゃあ、報酬と……あと、この街で一番いいスパイスを売ってる店を教えてくれないか?」
「スパイス? そんなもの、私の紹介状があれば最高級の店が裏口を開けるわよ!」
結果。
俺はFランク冒険者のまま、ギルド専属のエルフ薬剤師(美人だが変人)に気に入られ、裏ルートで最高級のスパイスを入手するコネを手に入れてしまった。
「レン様……やはり隠そうとしても、才能が溢れ出てしまいますね」
隣でクレアが「さすがです!」と目を輝かせている。
まあいい。
これで懐には大量の報酬(結局、金貨数枚を押し付けられた)と、スパイスへの道が手に入った。
今夜は、この金とコネを使って、異世界最高峰のカレーでも作るとしよう。
お読みいただきありがとうございます!
「乾燥させただけ」と言い張るレンですが、理系知識で行った「成分抽出」は、異世界のエルフにとっても魔法以上の奇跡だったようです。
これで資金もコネもゲットしました!
「この評価される流れが好き!」「エルフさんチョロいw」
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▼次回予告
大量の報酬と、エルフの紹介状で最高級スパイスを入手!
作るのはもちろん、日本人の国民食『カレーライス』です。
異世界人が初めて嗅ぐスパイスの香りに、迷宮都市の住民たちは……?




